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コラム:EU分裂危機、蘭仏よりイタリアが心配な訳=田中理氏
2017年3月22日 / 02:16 / 7ヶ月前

コラム:EU分裂危機、蘭仏よりイタリアが心配な訳=田中理氏

[東京 22日] - 筆者は先週、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、オーストリアを訪問する機会を得た。いずれも政治リスクを抱える国で、今年もしくは来年中に重要な選挙を控えている。

出張中の15日に投開票が行われたオランダ下院選挙は、反イスラム、反エリート、反グローバルを掲げる急進右派政党である自由党(PVV)が第1党の座を逃し、世界中に広がるポピュリズムの波を押しとどめることに成功した。

選挙直後に意見交換したオランダの投資家や元議員らはPVVの勢力拡大が限定的だったことに安堵の表情を浮かべたが、オランダの選挙結果が、4月下旬から5月初旬にかけて実施されるフランス大統領選でのポピュリズム政党の勢力減退を意味するわけではないとの見方で一致した。

ウィルダース党首が率いるPVVが選挙戦終盤で失速した背景には、主に次の3つの要因が指摘できよう。

1)移民の社会統合促進や学校での国歌斉唱の義務付けなど、主要政党がそろって政策を右傾化し、PVVとの政策距離が縮まったこと

2)トランプ米大統領による移民入国制限などが世界的な波紋を呼び、オランダ国民の間で極端な政策メニューを掲げるPVVへの警戒が広がったこと

3)オランダ在住のトルコ系住民に対し、大統領権限を強化する国民投票への参加を呼び掛けようとしたトルコ閣僚のオランダ入国を毅然とした態度で拒否した与党・自由民主党(VVD)の姿勢が有権者に好意的に受け止められたこと

このうち、特に投開票直前に3番目の要因が浮上しなければ、VVDがここまで議席を伸ばすことはなかったとの論調が、現地有識者の間では多かった。

事前観測では、多党乱立で連立協議が暗礁に乗り上げ、PVVを連立相手から除外するのが難しくなることも不安視されたが、33議席を獲得したVVDと各19議席を獲得し第3党となった中道右派・キリスト教民主勢力と中道・民主66の合計獲得議席は71議席。定数150の下院の過半数(76議席)確保まで5議席に迫った。中小政党の支持を得て政権を発足することは十分に可能で、PVVの政権入りの芽はなくなったと見てよい。

<「ルペン大統領」でもフレグジットは杞憂か>

筆者が面会した欧州の識者は一様に、欧州連合(EU)の将来を左右する重要イベントとして、フランス大統領選に注目していた。欧州統合の推進役であるフランスで欧州懐疑派の大統領が誕生すれば、EUは崩壊を余儀なくされる。他方、改革志向で親欧州派の大統領が誕生すれば、EUは新たな求心力と推進力を得るとの期待がさまざまな場面で聞かれた。

興味深かったのは、面会者の誰1人として、国民戦線・ルペン候補の勝利やフランスのEU離脱(フレグジット)を現実的なリスクとして見ていないにもかかわらず、その不安を拭い去れずにいることだ。

やはり、英国がEU離脱を選択した国民投票、米大統領選でのトランプ氏の勝利など、世論調査の結果を覆す「まさか」の結果が相次いだことが心理的な重しとなっているのだろう。

ただ、隠れ極右支持の存在については、識者の間で見解が分かれた。かつてはフランス国民の間で国民戦線への支持を表明することに臆する人が多かったが、最近では支持表明に抵抗がなくなってきており、以前に比べて世論調査に沿った結果になる可能性があるとのことだ。

また、多くの世論調査は対象サンプルの階層的な偏りを統計的に調整しており、国民戦線の実際の獲得票と世論調査の差は過去に比べて縮まっているはずとの指摘もあった。

今回のフランス大統領選では、共和党・社会党の二大政党が予備選を通じて候補者を一本化したが、いずれも事前の世論調査で本命候補が敗れ、ダークホースが予備選を制した。形勢逆転のきっかけとなったのはテレビ討論会だったため、大統領選本選に向けてもテレビ討論会の成否が浮動票の行方を左右しそうだ。

今後、毎週のように討論会が予定されているが、20日に行われた初回のテレビ討論会では、中道系の独立候補マクロン氏に説得力があったとの見方が多い。マクロン氏は社会党のオランド政権下で経済・産業・デジタル相を務めた以外に政治経験がなく、39歳の若さから指導力不足を不安視する声もあるが、今回筆者が面会した識者の多くは、年齢がマイナス要素として受け止められることはなく、むしろ変革を期待する有権者への大きなアピールになっていると評価していた。

万が一、ルペン大統領が誕生した場合も、フレグジットが難しいとの見方は共通認識となっている。フランスのEU参加は憲法で規定されているため、フレグジットには憲法改正が必要となる。憲法改正の国民投票は、上下両院の賛成多数で可決される必要があるが、大統領選後に行われる議会選で国民戦線が両院の過半数を確保することは事実上不可能だ。

過去には議会投票を必要としない別の国民投票制度を用いて、憲法改正を強行した例(大統領の直接公選制の導入是非を問う1962年の国民投票)もあるが、その後の法改正でこうした抜け道を利用するのは難しくなったと言われている。

<イタリア政局不安「第2波」の現実味>

これは筆者も同感だが、フランス以上にリスクが高い国として多くの識者が言及したのがイタリアだ。昨年12月の憲法改正の国民投票が大差で否決された同国では、野党勢を中心に早期の解散・総選挙を求める声も浮上していたが、最大与党・民主党の分裂と選挙制度改正議論の難航から、年内の前倒し選挙の可能性は遠のいた。

来年春の議会任期満了を待って総選挙が行われるとの見方が支配的だ。欧州の選挙イヤーに新たな不安要素が加わる事態はどうやら回避されそうだが、次期総選挙後の安定政権の樹立は困難な状態だ。

レンツィ体制に反旗を翻して党内の最左派が民主党を離脱したことで、反体制派のポピュリズム政党・五つ星運動が次期総選挙で最大勢力となる可能性が高まっている。憲法裁判所が現在の下院選挙制度に違憲判決を下したことで、次期総選挙がどのような選挙制度の下で行われるのかは定かでない。

五つ星運動は他党との連立に否定的で、政権入りは難しいとの見方が一般的だが、同党はこれまでも公約の修正・撤回を繰り返してきた。政権奪取に向けて他のEU懐疑主義政党との連立に傾いたとしても不思議でない。

各種の世論調査によれば、五つ星運動以外にも、北部同盟やイタリアの同胞といった右派ポピュリズム政党の支持票を集めれば、次期総選挙後の議会の45%程度を反EU政党が占めることになる。五つ星運動の政権入りが回避されたとしても、次期政権の議会基盤は極めて脆弱なものとなり、改革を推進する政治的な資源に乏しい。

イタリアは単一通貨ユーロ導入後の平均成長率がユーロ圏諸国で最低圏のゼロ近傍にとどまり、長期の経済停滞や高失業、長年の高債務が経済の足を引っ張っている。次期政権に改革の遂行能力がなければ、国民の不満が一段と高まり、いずれはEU懐疑主義政党が議会の多数派を占める恐れがある。

EU分裂の危機は、オランダでもフランスでもギリシャでもなく、イタリアにある。フランス大統領選での極右大統領の誕生回避に浮かれていると、イタリア政局不安の第2波に巻き込まれかねない。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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