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コラム:ルペン勝利より怖い仏選挙「最悪シナリオ」=田中理氏
2017年4月21日 / 03:38 / 5ヶ月前

コラム:ルペン勝利より怖い仏選挙「最悪シナリオ」=田中理氏

[東京 21日] - 欧州の未来を左右しかねないフランス大統領選挙の初回投票を23日に迎える。各種の世論調査によれば、オランド政権で経済閣僚を務めた中道・独立系のエマニュエル・マクロン候補と極右政党・国民戦線(FN)党首のマリーヌ・ルペン候補が22―24%程度の支持率で頭一つ抜け出ている。

だが、家族の金銭スキャンダルのダメージから回復しつつある保守・共和党のフランソワ・フィヨン元首相と、有権者の社会党離れやテレビ討論会での好パフォーマンスで支持を伸ばす左翼党共同代表のジャンリュック・メランション候補が19―20%程度と僅差で続いている。

投票直前の20日夜にパリ中心部で起きた銃撃事件は、治安・テロ対策での有権者の期待が大きいルペン候補やフィヨン候補に有利に働く可能性がある。30%前後の有権者がまだ誰に投票するかを決めていないとされ、世論調査の誤差(2―2.5%程度)を考えると、どの2候補が決選投票に進出したとしてもおかしくない。大混戦のまま投票日を迎えることになりそうだ。

投票終了(現地時間の夜8時、日本の翌朝3時)から程なく開票速報が発表される見込みで、日本時間の24日未明には大勢が判明していることだろう。

<メランション人気は本物か>

選挙戦終盤でのメランション候補の躍進が投票結果を読みにくくしている。社会党の予備選を制したブノワ・アモン候補を支持していた左派票の切り崩しに成功した同氏は、最近ではマクロン候補を支持していた中道票やルペン候補を支持していた現状不満票の一部も奪っている。

左右両極に位置するイデオロギーや移民政策の違いを除けば、メランション候補とルペン候補の政策メニューは似通っている。ルペン陣営は、反グローバル・反移民・反体制の現状不満票を固めた上で、中道票にも支持を広げようとしているが、メランション旋風で軌道修正を余儀なくされている。ルペン候補が最近、ナチス支配下のフランスで起きたユダヤ人大量検挙事件について発言したのも、右派の有権者を意識したものだ。

党派色の薄い新時代のリーダー像を演出するマクロン陣営も、ホログラムを活用した斬新な選挙キャンペーンや熱のこもった演説で若者の心を捉えるメランション候補の前でかすみ気味だ。テロや治安、移民・難民問題、欧州連合(EU)との関係に注目が集まるが、フランス国民の最大の関心事は今も失業や年金問題である。

労働時間のさらなる短縮による雇用創出、年金支給開始年齢の引き下げ、最低賃金の引き上げ、富裕税の強化などを掲げるメランション候補の公約は、求職者の4人に1人が職を得られずにいるフランスの若者(25歳以下の失業率は約24%)を魅了する。エリート官僚を輩出する名門校出身で大手投資銀行にも勤めていたマクロン候補は、そうした現状不満層の代弁者とはなり得ない。

何より勢いがあり、左派から極右まで幅広い有権者から票を奪うことができるメランション候補は選挙戦の「台風の目」となる可能性がある。ただ、同氏は前回2012年の大統領選で、初回投票の1週間前の世論調査で支持率が17%まで上昇したが、実際に獲得した票は11.1%にとどまった。

メランション支持層は圧倒的に若者が多く、フェイスブックのフォロワー数もルペン候補を抑えて断トツの1位だ。最近のフランスの世論調査はインターネットを利用したものが主流であり、メランション候補の支持率が過大に見積もられていることも考えられる。

<ルペン候補以上に危険な存在>

メランション票が伸び悩む要素は他にもある。フランス大統領選は常に80%前後の高い投票率になるが、今回の大統領選の世論調査では「投票しない」と回答する割合が多い。投票率の低下は一般に固定票が多いルペン候補やフィヨン候補に有利に、浮動票が多いマクロン候補に不利に働くと言われている。

ただ、投票日が近づくにつれ、マクロン支持者の間で「同候補に確実に投票する」との回答が増えている。投票率の低下が手痛いのは、むしろメランション候補と言えそうだ。メランション支持者は投票率の低い若者が中心で、マクロン候補以上に浮動票が多い。

EUからのフランス離脱(フレグジット)投票の可能性も示唆するメランション候補とルペン候補による決選投票となれば、金融市場にとって「悪夢」のようなシナリオだ。ただ、両候補は現状不満票を取り合っており、そろって決選投票に進出する可能性は低い。

他方、マクロン候補は徐々に票固めをしているが、組織票がしっかりしているフィヨン候補は選挙戦終盤での追い込みが効く。フィヨン候補の支持層は高齢者や引退世代が中心のため、インターネット経由の世論調査の結果は過小評価されている可能性もある。

こうしてみると、決選投票への切符を手にするのは、反EU派のルペン候補とメランション候補のいずれか1人と、親EU派のマクロン候補とフィヨン候補のいずれか1人となる可能性が高い。

メランション候補はルペン候補ほど強硬なEU離脱論者ではないとの見方もあるが、筆者は決選投票での勝ちやすさを考えれば、メランション候補はルペン候補以上に「危険な存在」と考えている。世論調査が示唆する4候補による決選投票の星取表は、マクロン候補はどの候補と対峙した場合も勝利し、ルペン候補はどの候補と対峙した場合も敗北する。

また、フィヨン候補はルペン候補以外に勝てず、メランション候補はマクロン候補以外には勝利する。メランション候補が決選投票で強いのは、初回投票で敗退した他候補の支持者から票が流れやすいためだ。左派・右派双方から中道票を結集可能なマクロン候補と対峙した場合も、アモン支持票の多くやルペン支持票の一部がメランション支持に回り、善戦が予想される。

<決選投票、最も不安な組み合わせは>

最後に初回投票での3つの注目ポイントをあげておこう。

●決選投票に進出する上位2名の顔ぶれ:金融市場が最も安心できる組み合わせは「マクロンVSフィヨン」だ。どちらが勝利しても親EU・改革路線である。世論調査が示唆するメインシナリオの組み合わせ「マクロンVSルペン」でも、後述する2つの不安要素(世論調査の精度と投票率の低下)がなければ、金融市場の動揺は回避されよう。それ以外の組み合わせとなれば、決選投票に向けた警戒感は払拭できない。そのなかでは、以下の順で不安が大きくなると考えられる。

1)ルペン勝利の可能性もある「フィヨンVSルペン」

2)メランション善戦が予想される「マクロンVSメランション」

3)メランション勝利の可能性が高い「メランションVSフィヨン」

4)どちらも反EUの「メランションVSルペン」

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●世論調査の精度:ルペン候補かメランション候補の獲得票が事前の世論調査を上回った場合、決選投票に向けて「隠れ極右」や「隠れ極左」の存在が改めて意識されそうだ。

●投票率:前述の通り、一般に投票率が下がると固定票の多いルペン候補やフィヨン候補に有利に、投票率が上がると浮動票の多いマクロン候補やメランション候補に有利に働く。初回投票での投票率の結果次第で、決選投票の票読みも変わってくる。

さて、祝杯は誰の手に渡るのか。注目の投票日を迎える。

近年まれに見る接戦となっている仏大統領選挙は、23日にいよいよ第1回目の投票日を迎える。選挙戦を取材してきた記者が、予想される今後のシナリオについて解説する。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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