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コラム:ドラギECB、緩和縮小開始の決断は秋か=田中理氏
2017年7月21日 / 06:15 / 3ヶ月前

コラム:ドラギECB、緩和縮小開始の決断は秋か=田中理氏

[東京 21日] - 欧州中央銀行(ECB)による資産買い入れの段階的な縮小(テーパリング)開始に向けた何らかの示唆があるかに注目が集まった20日の理事会では、来年以降の買い入れについての議論を秋にすることが示唆され、具体的な検討は持ち越された。

前回6月8日の理事会では、景気判断を従来の「下振れ方向」から「下振れと上振れが均衡している(中立)」に変更し、その後に公表された同理事会の議事要旨では、「必要に応じて資産買い入れの規模や期間を拡充する」とのフォワード・ガイダンスの修正の是非が議論されたことが明らかとなった。

さらに、6月27日にポルトガルのシントラで行われた中銀フォーラムの開会スピーチで、ドラギECB総裁は「今やデフレの脅威は消え、リフレの力が働きつつある」と発言。近年の物価低迷が一時的な要因によるものであるとの認識を示し、景気回復に呼応して金融政策を調整する可能性に言及した。

いよいよECBがテーパリング開始の地ならしを始めたとの受け止めが広がり、シントラ発言後の欧州市場では通貨高・金利高のミニ・テーパータントラム(テーパリングに伴う金融市場の動揺)が生じていた。

だが、20日の理事会では、資産買い入れに関するフォワード・ガイダンスの変更は全会一致で見送られ、過去の金融緩和時にECBがたびたび用いた次回理事会での政策変更の可能性を示唆(「事務方に政策オプションの検討を指示」)することもなかった。

ドラギ総裁は理事会後の記者会見で、来年以降の買い入れ方針を「秋に検討する」ことを示唆し、あらゆる情報を精査する必要があるため、いつ決定するか具体的な日程を事前に定めないことが理事会の総意であると明かした。

年内のECB理事会は、9月7日、10月26日、12月14日の3回。9月は四半期ごとのスタッフ見通しの発表月で、これまでテーパリングの開始決定が有力視されていたが、今回のドラギ総裁の慎重な言い回しからは、9月は大枠決定や検討にとどめ、10月に詳細を決定する可能性が高まったものと判断している。

なお、米連邦準備理事会(FRB)がバランスシート縮小を決定する可能性がある連邦公開市場委員会(FOMC)が9月19―20日に、同月24日にドイツ連邦議会選挙を控えていることも、10月のテーパリング決定のサポート材料となろう。

<ECBは市場の前のめり姿勢を警戒>

ところで、9月のECBスタッフ見通しでは物価予想の下方修正が必要になるとの見方が支配的だが、これは6月スタッフ見通しの前提数値のカットオフ日(5月23日)以降、一段の原油安とユーロ高が進行しているためだ。

エネルギー価格の押し上げ寄与縮小を受け、ユーロ圏の消費者物価の前年比伸び率は今年2月に付けた直近のピークであるプラス2.0%から、6月にはプラス1.3%まで鈍化している。6月のコア物価(エネルギー・食料・アルコール飲料・たばこを除く)は5月の同0.9%から同1.1%に加速したが、これは聖霊降臨祭(イースター後の8番目の日曜日)の学校休暇時期が例年の5月から6月にずれ込み、単価の大きいパッケージ旅行価格が上振れしたことが影響した。来月は反動減が予想されよう。

ただ、スタッフ見通しの原油価格の前提は、カットオフ日からさかのぼって2週間の原油先物価格が用いられ、足元の先物相場は2017年と18年が前回想定対比で下振れした一方、2019年以降は逆に上振れしている。2017年の物価見通しは下方修正される可能性があるが、6月にプラス1.7%からプラス1.6%に下方修正された2019年の物価見通しには上方修正の余地があり、中期的な物価安定を政策目標にするECBにとって、テーパリング開始決定の補強材料となり得る。

シントラ発言後の火消し発言や今回の理事会でのフォワード・ガイダンスの変更見送りからは、緩和縮小に向けた金融市場の前のめり姿勢をECBが警戒している様子がうかがえる。ドラギ総裁は景気の力強い回復に自信を深めており、シントラでのスピーチを踏襲し、物価や賃金の低迷が一時的な要因によるもので、このまま景気回復が続けば、いずれ物価上昇率も上向いてくるとの認識を示した。

そのうえで、物価を取り巻く環境はまだ永続的・自律的なものではなく、中期的な物価安定を確保するには、今後も相当な金融緩和が必要なことを強調。不必要な金融環境の引き締まりにより、景気から物価への波及経路が脅かされることに警戒姿勢をにじませた点は注目される。

<ユーロ高は行き過ぎか>

では、ECB理事会後の為替市場の反応はどうか。当初こそユーロ安で反応したものの、その後は切り返して一段のユーロ高が進行。ユーロドル相場は2015年以降のレンジ上限である1.15ドル台前半のいくつかのチャートポイントを上抜け、1.16ドル台で推移している。

今回の理事会でECBが発したメッセージは、金融市場の期待を下回るものだったが、米国のさえない経済指標やトランプ政権を巡る不透明感も重なり、秋の検討示唆でテーパリングの方向性が確認されたことによって、ユーロに買いが広がった。

テーパリングの具体的な手順は現時点で不明だが、今年4月に月額800億ユーロから600億ユーロに減額されたことを踏まえ、四半期に200億ユーロずつの減額を想定すると、最短6カ月で新規の買い入れを停止する計算となる。

例えば、来年1月にテーパリングを開始し、現在の月額600億ユーロから、1―3月期に月額400億ユーロ、4―6月期に月額200億ユーロ、7月以降は新規の買い入れを停止するとしよう。ECBは資産買い入れを終了してからも相当な期間、政策金利を現状程度に維持する方針を示唆している。全てが順調に進んだとして、利上げ開始は最短で来年後半となる。

ちなみに、翌日物金利スワップ(OIS)から計算したECBの利上げ確率は、シントラ発言後に上昇し、来年7月の理事会で50%を超え、同年12月の理事会で80%前後に達する。ECBの慎重な緩和縮小姿勢に鑑みれば、金融市場での早期利上げ観測や急ピッチなユーロ高進行はいずれ修正を余儀なくされる可能性がある。

今回の理事会に先駆けて、米ジャクソンホールで8月24―26日にカンザスシティー地区連銀が主催するシンポジウムにドラギ総裁が出席することが注目を集めた。総裁の出席は3年ぶりで、前回2014年には事前に準備された原稿にないインフレ期待の低下に言及し、翌年の資産買い入れ開始に向けて金融市場の期待誘導を図る転換点となった。

資産買い入れの幕引きの場に再びジャクソンホールを選んだわけではないだろうが、秋にテーパリング決定を控え、ドラギ総裁が何を語るのかは気になるところだ。

金融政策を検討するECBの理事会は2015年(*訂正)に毎月1回から年8回に変更され、8月は開催されない。秋を迎えた時、果たしてドラギ総裁は超金融緩和からの出口という「夏の宿題」への答えを出しているのだろうか。

*2016年から2015年に訂正します。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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