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コラム:英EU離脱問題、ギリシャ危機化の恐怖=田中理氏
2016年6月27日 / 04:36 / 1年前

コラム:英EU離脱問題、ギリシャ危機化の恐怖=田中理氏

[東京 27日] - 世界中に衝撃を与えた英国の欧州連合(EU)離脱決定は、今後も長く市場心理の重石となろう。起こるはずのないことが起きたパニック的なポンド売り・株売りが止まったとしても、すぐに答えが出そうにない難題が山積しているからだ。

ざっと考えるだけでも、EU離脱後の英国の未来、英国社会の分断と政治情勢の不安定化、英国とEUの離脱協議の行方、金融センターとしてのロンドンの地盤沈下、スコットランドや北アイルランド(場合によってはロンドンさえも)が英国から独立するリスク、欧州各国でくすぶるEU懐疑論と離脱ドミノの恐怖、EU解体への漠然とした不安など、枚挙にいとまがない。今後の展開を予想するのは非常に難しく、その不確実性の高さが不安を増幅することになりそうだ。

<水面下で始まった英国とEUの攻防>

短期的な金融市場の動揺が一巡した後は、離脱に向けた英国とEUとの協議を見守る以外にないわけだが、まずはその協議がいつ始まるのかも分からない。

離脱に向けた手続きは、英国がEUに離脱の意向を正式に伝えたときから始まる。EU側が早急な離脱手続きの開始を求めているのに対し、英国側は離脱の通告を先送りしようとしている。協議期限は英国が離脱の意向を伝えてから2年間。延長もできるが、そのためには英国を除くEU加盟国の全会一致での合意が必要となる。

協議が長く、厳しいものになることは目に見えていて、2年以内に終わる見込みはほとんどない。合意しないまま2年が経過すると、英国に対するEU法の効力が停止する。つまり、離脱後の対EU関係などの取り決めが行われないまま、英国は域外に放り出される。EU市場へのアクセスは失われ、EUの貿易取引には域外関税が適用されることになる。

協議がまとまらずに困るのは英国の方で、交渉上の立場が弱い。だからこそ、2年間の時計の針が動き出す前に、EU側と水面下で下交渉をし、ある程度の合意ができた段階で離脱の意向を伝えたいと考えている。キャメロン首相が辞意を表明した今、誰が英国内でEUとの協議を主導するのかも定まっていない。

そもそも離脱派の間でも、離脱後の対EU関係について統一的な見解がない。まずは10月の保守党大会で次期首相を選び、国内の意見集約をしたうえで、EUとの協議に臨むことになろう。

対するEU側は、自国のEU懐疑論者への追い風となることを恐れ、交渉上の立場を少しでも強くしようとする英国の動きをけん制している。離脱投票後の不安定な状況をただ傍観することは、EU側が積極的に対応していないとの誤ったメッセージを金融市場に送る恐れもある。英国側とEU側の水面下での攻防はすでに始まっている。

<ギリシャ危機同様、市場不安の「元凶」に>

金融市場は少なくとも向こう2年間はこうした英国とEUとの神経戦に振り回されることになるが、その構図はどこかギリシャ危機時のギリシャ政府と債権者との関係にも似ている。

英国は新首相の下で、国民投票の結果を尊重しつつ、国益を最大限守るべく、関税、単一市場へのアクセス、国境管理、予算拠出の各点について、EU側に譲歩を求める。EU側は各国で伸張が著しい反EU勢力を勢いづかせないためにも、英国に甘い顔をすることは出来ず、厳しい要求を突き付ける。

その間、英国内では離脱後の先行き不透明感から新規の投資が手控えられ、直接投資の流入も激減し、景気は停滞色を強める。残留票を投じた国民は離脱決定と離脱協議に憤りを感じ、離脱票を投じた国民の一部も「こんなはずではなかった」「離脱派キャンペーンにだまされた」との不満を募らせる。国民投票の再実施や離脱手続きの撤回を求める声が高まったり、スコットランドや北アイルランドで英国からの独立を求める声が高まったりと、英国分裂のリスクも意識される。その間も、交渉期限を伝える時計の針は進んでいく。

一方のEU諸国でも、英国に厳しい要求を突き付けたところで、自国民のEUに対する不満が解消されるわけでもなく、反EU機運は静かに広がっていく。協議期間中には、オランダ、フランス、ドイツなどで重要な選挙が予定され、選挙でEU懐疑政党が躍進するたびに市場はさらにナーバスとなり、EUの政治家は英国にますます厳しい態度で臨もうとする。離脱のタブーが破られたことで、「離脱ドミノ」に対する防波堤は投票以前と比べて低くなっている。

なぜなら、英国に次いで離脱する国が現れれば、雪崩を打ったように離脱国が相次ぎ、EUが解体に向かうリスクが意識されるからだ。実際に国民投票を実施する国や離脱する国が現れるまでには至らなくても、市場の動揺は避けられない。

協議の難航や国内政局の不安定化が伝わるたびに、英国はEUから無秩序な形で離脱を余儀なくされるとの見方が強まる。不安のクライマックスは協議期限が終了する2年後で、恐らくその時点で協議は道半ばとみられ、協議期限を延長するか否かでギリギリの交渉が行われる。お互い簡単には譲歩できないチキンレースの様相を呈し、金融センターとしての地位が脅かされる英国とEUの喧嘩別れのリスクに金融市場は激しく動揺する。

それはあたかも、ギリシャ危機時に、協議の難航や政治リスクが伝えられるたびに市場が動揺し、国債償還が近づくとデフォルトやユーロ離脱への不安が市場に広がった様子を彷彿させる。

少なくとも2年間は続くこうした不安定な状況とEUの弱体化で、欧州発のリスクイベントに対する市場のリスク許容度は著しく低下していく。その間に様々な政治危機が訪れるであろうし、南欧の財政リスクを封じ込めている欧州中央銀行(ECB)の量的緩和策もいよいよ限界に近づいていくはずだ。英国民投票によって「パンドラの箱」は開かれてしまった。離脱投票後の「現実」に向き合わなくてはならない。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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