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コラム:中国危機封じ込めで世界株高へ=武者陵司氏
2016年3月27日 / 01:37 / 1年前

コラム:中国危機封じ込めで世界株高へ=武者陵司氏

[東京 27日] - 年初の急激な世界株安を経て、主要国の経済政策運営は新たなステージに入った。端的に言えば、協調的危機対応だ。これによって、リスクオフの大元になっている中国危機の封じ込めに成功すれば、世界株式が大きく反転上昇する可能性も高まってきた。

前回のコラムで指摘したように、2016年の世界経済は、ナンバーワンのポジティブ(米国経済)と、ナンバーツーのネガティブ(中国経済)のバランス、綱引きによってどうなるかが決まる。1月と2月こそネガティブがポジティブに勝ったが、今後は勝敗が逆転しよう。

米国経済は、15年12月の利上げ後も堅調な拡大を続けている。雇用の強さはあらためて指摘するまでもないが、消費も持ち直し、インフレ率も高まり、軟化していた製造業景況指数の復調も顕著である。また、賃金上昇圧力により労働分配率にも上昇の兆しが見られる。過去、労働分配率の上昇は景気の6合目あたりで起きており、この経験則に照らせば、米国景気後退シナリオが間違っていることは明らかだろう。

1―2月に1万5500ドル付近まで急落したニューヨークダウ平均株価もすでに1万7000ドル台を回復している。15年5月19日に付けた終値ベースでの史上最高値1万8312ドルも年内に更新する可能性がある。

日本株についても、現在1万6000―1万7000円付近で低迷する日経平均株価が年央までに1万9000―2万円台を回復し、中国の情勢次第では、年後半に向けて予想される大相場でアベノミクス後の最高値(2万0900円台)を上回る可能性もあると考える。

このようなリスクオフからリスクオン相場への投資家マインドの転機は、後で振り返れば、2月末に中国・上海で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議だったということになるだろう。G20声明に盛り込まれた「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」との文言は、中国の政策自由度を大きく高めた。

つまり、世界にリスクオフの毒をまき散らす人民元急落を防ぐためには、中国の資本規制も黙認されるということだ。これで、ジョージ・ソロス氏の中国ハードランディング発言などで勢いづいた投機筋の人民元売りも鳴りを潜めることになろう。

9月4、5日には中国・杭州でG20首脳会議(サミット)が予定されている。国際社会に中国の国威を示す晴れ舞台で、面子(めんつ)を最重視する習近平指導部がいかなる成果を強調するかは目に見えている。強権的な手段も辞さない政策総動員で人民元相場の安定性を演出するのは必至だ。

むろん、中国の問題は根本から解決されるわけではなく、緩慢な長期衰退が待ち受けているにすぎないが、中国危機が当面封印される可能性は大きく高まったと言えよう。

<マイナス金利政策批判は的外れ>

中国危機が封印されれば、日銀によるマイナス金利政策導入も、日本株にとって大きな追い風となろう。1月末の導入発表からほどなくして円高・株安にマーケットが一時急激に振れたこともあり同政策に対する世間の評価は低いが、私は、時間が経過するにつれて相当大きな効果を発揮していくと考えている。

第1に、日銀当座資産からの資金の押し出し効果だ。確かに、量的緩和によるポートフォリオリバランスは、必ずしも当初の狙い通りに進展しているとは言えない。金融機関が得た国債売却代金はそのまま日銀当座預金に滞留してしまった。しかし、日銀当座預金残高の一部に対してマイナス金利が導入されたことで、滞留資金がいよいよリスク資産や貸し出しへと押し出されることが期待できよう。

第2に、量・質・金利の3次元で緩和が可能になったことで、無限の弾丸を持つ日銀(金融政策)の威圧感が格段と高まることになった。欧州中銀(ECB)同様、必要とあれば、日銀はマイナス金利幅をさらに拡大していくことになろう。副作用を恐れない黒田日銀総裁の覚悟は、リスク回避的な市場参加者を追い落とし、マーケット心理を大きくリスクテイクに誘導していくことだろう。

むろん、マイナス金利によって日銀当座預金から資金が流出すれば、マネタリーベースが縮小し、インフレ期待が弱まる恐れもある。よって、引き続き量の追求、すなわち国債購入額の増額も必要となる。その意味で、マイナス金利と量的緩和はペアで効果を発揮していくと見ている。

<超過利潤の背景に「新たな生産性革命」>

ところで、金融緩和に対して懐疑的な論者たちに、もう1つ言っておきたいことがある。それは、主要国の中央銀行が前代未聞の金融緩和を推し進めている理由だ。私は、その背景に、各国中銀が直面する未曽有の金融困難があると考えている。

ここで、トマ・ピケティ氏の著書「21世紀の資本」で有名になった不等式「r>g」を思い出していただきたい。「r(リターン=利潤率)」が「g(グロース=経済成長率)」よりも高く、それゆえに格差が拡大しているという議論だ。

実は、この不等式は、中銀の金融困難を説明するうえでは不完全だ。正しくは「r1>g>r2」だと私は考えている。r1は利潤率、つまり企業の儲け、r2は金利・利子率、つまり企業の資本コストである。

教科書的な経済の普通の姿では、利潤率と利子率は連動すると考えられ、実際そうだった。景気拡大に伴い、企業の収益が向上する時には当然ながら金利は上がる。しかし、今起こっているのは、両者の極端な乖(かい)離である。

企業は大儲けしているが、儲かったお金を再投資できなくて遊ばせ、金利が下がっている。利潤率は市場価格ベース(株式益回り=利益/株価)で見ても、簿価ベース(ROE=利益/株主資本簿価)で見てもほぼ8%と高いのに、長期国債利回りは日本でマイナス、ドイツやフランスで0%台、米国でも1.9%台と異常に低い(3月25日時点)。

こう話すと、悲観論者からは、それは資本主義が退廃しているからであり、その退廃している経済実態に対してマネーを供給すればバブルをあおるという主張が聞こえてきそうだ。しかし、私は、まったく別の見方をしている。この状況は資本主義の進化であり、新たな産業革命がもたらした生産性向上によって、企業が著しい超過利潤を獲得しているという見方だ。補足すれば、IT化とグローバリゼーションの進展によって、空前の生産性向上が起こり、労働投入、資本投入の必要量が著しく低下しているのだ。

このように見れば、量的緩和政策やマイナス金利政策は、市場に存在する経済のスラック(余剰)を有効に稼働させる適切な政策ということになる。むろん、必要な政策は金融緩和だけではない。確かに、主要国は最近、金融緩和に偏り過ぎていた感はある。今後は、緩和的金融政策を維持しつつも、機動的な財政政策や税制改革、所得分配是正策を打つなど、余剰資本の有効活用を促す政策総動員がますます求められていくことになろう。

その意味で、上海G20声明は正しい方向だと考える。経済のスラック解消に向けた総合的マクロ政策が今後、主要各国でとられるならば、長期経済繁栄と長期株高も見えてくる。逆にスラックを放置する政策がとられれば、資本は安全資産に逃げ込みデフレと株式暴落が引き起されるだろう。政策選択が決定的に大切である。

*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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