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コラム:日銀緩和「出口」で待つ円安加速リスク=河野龍太郎氏
2016年10月11日 / 09:21 / 1年前

コラム:日銀緩和「出口」で待つ円安加速リスク=河野龍太郎氏

[東京 11日] - 日銀は現在、「インフレ率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続する」としている。とはいえ、新しい政策枠組みにおける操作変数に関して言えば、マネタリーベース以外、必ずしもそうした約束を示しているわけではない。

黒田東彦・日銀総裁が量的・質的金融緩和(QQE)の際に使っていた解釈を当てはめれば、将来、2%のインフレが安定的に見通せる状況になれば、2%インフレが実現する前であっても政策の方向転換が可能ということになる。

2013年4月のQQE導入直後の記者会見において、解除条件の解釈に関し黒田総裁は「2%になっていなくても、すでに2%の物価安定目標が持続的に維持できる状況になっていれば、それ以上の緩和は必要ないかもしれない」と答えている。

ということは、インフレ率の実績値が2%超には到達せず、マネタリーベースの拡大が続けられていても、一方で、短期金利や長期金利の誘導目標の引き上げや上場投資信託(ETF)・不動産投資信託(REIT)の購入減額の開始はあり得るということである。

一体、どのように手じまいが行われるのだろうか。今回は、出口の手順について考えてみる。

<出口の基本的なプロセスはFRBと同じ>

今のところ、日銀が出口の手順を示す気配はない。しかし、基本的には、米連邦準備理事会(FRB)が2011年6月、14年9月に示した量的緩和(QE)の出口の原則が参考にされるはずである。

FRBはその原則に従って14年1月から緩和縮小(テーパリング)を開始し、14年10月に国債購入を停止、その後、15年12月にゼロ金利解除を行っている。

同原則の概略は、以下のようなものだ。1)まずコミットメントが達成され、国債購入の減額(テーパリング)が開始される、2)国債購入が終了しバランスシートの拡大が止まった後に、付利の引き上げが開始される、3)付利が一定程度引き上げられた後、国債の元利金の再投資を減額・停止する、4)再投資の停止後に国債の償還が進むことでバランスシートは徐々に圧縮されていく。

現在、QEとゼロ金利政策は解除されたが、元利金の再投資が続けられ、バランスシートの圧縮はまだ始まっていない。2度目の利上げにてこずっている状況であり、バランスシートの圧縮開始は近い将来予想されない。

日本では今回、量的緩和から金利政策にシフトしたこと、さらに金利の操作目標として当座預金にマイナス金利が適用されただけでなく、長期金利ターゲットも導入されたことから、FRBの手順とは多少異なる部分があると見られるが、基本的なプロセスは同じだと思われる。

つまり、短期金利(付利)の引き上げ開始は、国債購入が終了し、バランスシートの拡大が止まった後ということだ。また、長期金利ターゲットが採用されているため、国債購入が終了するタイミングでは、長期金利の誘導目標はある程度引き上げられていると思われる。

要するに、まず長期金利ターゲットの引き上げが始まり、これに伴い国債購入が減額され、その後、国債購入の終了でバランスシートの拡大が止まり、付利の引き上げが開始される。先は遠いが、FRBに倣い元利金の再投資の減額・停止は、付利の引き上げがある程度進んでからということになる。

<短期金利引き上げは国債購入終了後>

マネタリーベースの拡大停止後、短期金利の引き上げが始まるということは、「インフレ率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続する」というオーバーシュート型コミットメントが、短期金利の引き上げについても基本的には適用されるということである。

付利引き上げは、インフレ率の実績値が安定的に2%を超えるまで実施されない。また、最も早く開始される長期金利ターゲットの引き上げについては、2%のインフレが安定的に見通せる状況であれば、「インフレ率の実績値が2%に達する」前であっても着手されると考えられる。

もちろん、マネタリーベースの拡大が続いている状況でも、付利を引き上げることは理屈上、不可能ではない。しかし、バランスシートの拡大が停止される前の状況、つまり、拡大はしているものの、拡大ペースが鈍化する状況において、長期金利の誘導水準は何度か引き上げられているはずである。

正確に言えば、長期金利ターゲットにおいては、長期金利の誘導水準を引き上げるために、国債購入量が減額され、バランスシートの拡大ペースが鈍化する。出口戦略を開始する際、短期金利(付利)を同時に引き上げると長期金利が誘導目標を超えて急騰するリスクがあるのではないか。FRBの出口の経験において、日銀が重視しているのは、13年5月のテーパータントラム(緩和縮小による金融市場の混乱)での長期金利急騰である。

<問題は円高よりも円安とインフレの連鎖>

出口のスタート時点に話を移そう。2%インフレを安定的に見通すことができる状況となり、長期金利の誘導目標の引き上げが始められるが、前述した通り、その時に必ずしもインフレの実績値が2%になっている必要はない。

長期金利がうまくコントロールできず、急騰する場合には、金融システム問題や公的債務問題を引き起こすため、それらを避けつつ、長期金利の誘導水準を徐々に引き上げ、それを可能とすべく長期国債の購入量も減額されていく。急変を回避するという点からしても、インフレ率が2%になった後で動くより、2%に達する前に、長期金利の誘導目標を徐々に引き上げ始めるのが安全だと思われる。

前倒しで長期国債の購入額が減額されれば、長期金利が急騰すると懸念する人もいるかもしれない。ただ、短期金利はまだ動いていないこと、潜在成長率の低下で自然利子率そのものがかなり低い状況にあることなどから、理屈上、インフレが相当に高まっていなければ大きな問題はないはずである。

また、他の条件が同じだとすれば、金融政策が長期金利に影響を与えるのは、フローの購入額ではなく、購入総額、つまり国債発行残高に占める日銀の保有比率を通じてだ(いわゆる「ストックビュー」)。このため、フローの購入額が減っても、購入総額、保有比率が増えていれば、むしろ長期金利は低下する可能性さえある。

このことは、日銀が出口を開始するかなり以前の段階において、国債購入の減額が始まっていることを意味する。例えば現在の10年金利のターゲットであるゼロ%に誘導するため、国債購入額は80兆円を大きく下回る水準で十分ということだ。

すでに、長期金利が誘導目標を下回る傾向が見られることに対し、9月30日に日銀は10月の長期ゾーンの国債購入予定額を減額している。国債保有比率の上昇に伴い長期金利に低下圧力が加わることから、円高や株安に配慮しつつも、長期金利を誘導目標で維持するため、フローの国債購入額は今後、徐々に減っていくと見られる。

もちろん、インフレ率が上昇し、出口が近いとの思惑から長期金利に上昇圧力が加われば、それを抑えるべく日銀はフローの国債購入額を再び増加させる必要があるだろう。問題は、為替レートがその時、どちらに動くかということだ。

日銀の現行政策は基本的に「ビハインド・ザ・カーブ」(意図的に金利変更のタイミングを遅らせる金融政策)を前提にしているため、出口の際に懸念すべきは、利上げによる円高の進展ではなく、インフレ上昇による円安の進行であると思われる。出口の際に、円高が進むのなら手じまいはむしろスムーズに進んでいるということである。もし仮に懸念するほどの円高が進むのなら、それがインフレを抑えるため、出口開始のタイミングを先送りすれば良いだけだ。

では、具体的にどのような状況となる可能性が高いのか。例えばインフレ率が1.6%まで上昇し、日銀が翌年に2.0%、翌々年は2.5%を予想する状況になったとしよう。2%インフレには到達していないが、2%インフレを安定的に見通すことができる状況である。出口戦略が開始され、長期金利の急騰を避けつつ、徐々に長期金利の誘導水準は引き上げられていく。

しかし、基本的には緩和的な金融環境の継続が前提とされているから、長期金利の上昇はインフレ上昇に追い付かず、実質金利のマイナス幅が拡大し、円安の一段の進展とともにインフレ率はさらに上昇する。この結果、今年のインフレはより2%に近づき、翌年は2.5%、翌々年は3%を見通すことができるかもしれない。

長期金利ターゲットとオーバーシュート型コミットメントで、インフレが上がってくると金融緩和効果が増幅される制度設計となっているのだ。目標達成が早まり、めでたし、めでたしとなるのだろうか。

順調に進む可能性もあるが、問題となるのは、緩和的な金融環境をあえて放置する制度設計が、一段の円安とインフレ高進のスパイラルをもたらすリスクだ。この場合、円安を回避するため、長期金利ターゲットの引き上げだけでなく、場合によっては、実績値が2%を超えた後としていた短期金利(付利)の引き上げも行われるかもしれない。

もちろん、こうした金利上昇を反映し、円安が止まるのなら、あるいは、円高が進むのなら、結果的にスムーズな手じまいとなる。米国のケースのように手じまいを開始した際、通貨高が進むのはむしろ望ましいことである。

しかし、こうした措置にもかかわらず、円安が止まらず、インフレスパイラル的様相が強まる場合はどうなるのか。その際、生じているインフレスパイラルの根底には、財政インフレの存在があることに人々は気が付き始めるだろう。この場合、短期金利や長期金利の誘導目標の引き上げそれ自体が利払い費の急増懸念をもたらし、事態は一段と深刻化する。

確かに、日銀は指値で無制限に国債を買い入れることができるため、長期金利の急騰を避けることはできる。しかし、公的債務の膨張を懸念し、円安とインフレのスパイラルが生じているのだとすると、日銀が無制限購入で長期金利の急騰を抑えにかかることは、事態をさらに悪化させる。

この時、事態を改善するには、財政引き締めが必要となる。金利政策は財政破綻を避けるために長期金利の上昇回避に割り当てられ、円安とインフレのスパイラルの回避には財政政策が割り当てられる。

インフレ抑制のために財政を抑制するのは、政治的な観点からも機動性の観点からも容易ではないが、他に手立てがない。国民がインフレ加速を嫌悪することから、財政健全化が渋々開始されるのだろうか。あるいは金融抑圧が続けられるだけで、結局、インフレタックスが進むのだろうか。

日銀の出口戦略がうまくいくかどうかは、結局のところ、日銀の金融調節の技量というより、政府の財政健全化の進展にかかっている。政府の財政健全化が足踏みし、国債発行量が減少しなければ、日銀は長期金利の誘導目標を引き上げることも難しい。同じことだが、国債購入量を減額することも難しい。この場合、最終的に長期金利の上昇を抑え込むことができても、円安によるインフレの加速は避けられない。

<ETF購入策の手じまいは後回しの公算大>

最後に、ETFやREITの購入政策について言えば、本来、2%のインフレが安定的に見通せるようになり、長期金利の高め誘導が始まった段階で、それらの購入も減額・停止されるべきである。

しかし、株価下落懸念から、特にETF購入の手じまいについては、政治的反発が相当に強いと思われる。

日銀も、長短金利水準やバランスシートの正常化を優先し、ETFやREITの購入減額・停止については、後回しにする可能性が高い。また、テーパリング終了後、国債は元利金の再投資が当面行われるとしても、最終的には償還が進むことで日銀のバランスシートから外れるが、ETFやREITについては持ち切りのままで、半永久的にバランスシートから外れることはないだろう。

近年の金融政策はどれもそうだが、とりわけETF購入倍増は行うべき政策でなかったと思われる。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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