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コラム:「消費増税で教育無償化」の本末転倒=河野龍太郎氏
2017年9月26日 / 02:16 / 22日前

コラム:「消費増税で教育無償化」の本末転倒=河野龍太郎氏

[東京 26日] - 安倍晋三首相は2019年10月の10%への消費増税について、その使途を広げ、幼児教育の無償化など、新たな歳出拡大の財源に充てる意向を示した。衆院選挙で国民の信を問うという。筆者がかねてより懸念していた通りの展開になってきた。

しかし、驚いたことに、エコノミストの間でも、今回の見直し論に賛同する人が少なくないのだという。10%から先の増税の必要性を考えると、「希望の党」の小池百合子代表が主張する増税凍結など再度先送りに比べれば、まだましということなのだろうか。

あるいは、税収増の全てを新たな歳出の財源に充てるという民進党の大盤振る舞いの主張に比べればまだまし、ということなのだろうか。確かに皆が思い描いていた最悪の事態よりは、まだましな選択ということなのかもしれない。

とはいえ、政治的に容易ではないとしても、あるべき最善の政策について提言をするのが、我々エコノミストの役割でもある。政治的に容易な政策にお墨付きを与えることであってはならない。

仮に目先の経済状況が改善しても、長期的な均衡から遠ざかり、あるいは社会制度の持続性が損なわれ、国民の経済厚生を低下させるような政策は何としても避けなければならない。今回は消費増税の使途変更について考える。

<どこから見ても財政赤字による歳出拡大>

もともと、2012年の民主党政権(野田佳彦内閣)で取り決められた民主党・自民党・公明党の三党合意では、消費税率の5%から10%への引き上げによって得られる14.0兆円について、社会保障の充実として2.8兆円、基礎年金の国庫負担引き上げの財源として3.2兆円、後代への負担のつけ回しの軽減として7.3兆円、消費増税に伴う費用増として0.8兆円をそれぞれ充てることになっていた。

今回、幼児教育の無償化など新たな歳出は、「後代への負担のつけ回しの軽減」に充てる財源を減少させて捻出するという。つまり、後代への負担のつけ回しで、新たな歳出を拡大するのである。言葉尻を捕らえたわけではない。新たな歳出拡大は、以下述べるように、文字通り、後代への負担のつけ回しとなる。

報道の中には、借金返済(公的債務削減)に充てるはずの財源を新たな歳出に割り当てると、説明しているものもある。しかし、これはやや誤解がある。お金に色は付いていないが、そもそも日本のプライマリー収支は赤字が続いているのであって、このことは、経常収入によって経常費用が賄われていないことを意味する。

利払い費などの国債費も借金によって賄われている。もともと、借金返済には充てられていないのだ。このため、正しくは、借金膨張(公的債務膨張)の抑制に充てるはずだった財源を新たな歳出に割り当てると説明すべきである。もちろん、どのような説明を行おうと、公的債務が新たに増えることに変わりはない。

実際、プライマリー収支赤字が増大する最大の要因である社会保障関係費は、2000年度に17.6兆円だったが、2010年度は28.2兆円に達し、2017年度は当初予算で32.5兆円と見込まれている。この間、社会保障関係費の増大は、景気の循環的な拡大による税収増や2014年度の消費増税による税収増を除くと、財政赤字によって賄われてきた。

つまり、増大する社会保障関係費は、「後代への負担のつけ回し」で賄われてきたと言える。その「後代への負担のつけ回し」を軽減するというのが、5%から10%への消費増税を決めた三党合意の目的だった。

しかし、今回、増税による税収増の一部を社会保障関係費に割り当てず、新たな歳出拡大の財源とすることは、文字通り、後代への負担のつけ回しによって、歳出を拡大することに他ならない。経常収入を新たに確保しないまま、経常費用を新たに決定することであり、どの角度から見ても、財政赤字による歳出の拡大である。

消費税収を教育費に充てるのは、全てを社会保障関係費に限定するとした三党合意に反するという批判もあるが、それ以前の問題として、消費増税の使途見直しということ自体が、実は単なるレトリックなのである。幼児教育の無償化など次世代のための政策と言いつつ、負担を後代へつけ回ししていたのでは、本末転倒である。

<「全世代型社会保障」が画餅に帰す恐れ>

念のために言っておくと、筆者自身、安倍首相が掲げる「全世代型社会保障」を目指すことの意義は大いに認める。グローバリゼーションが進む中で、現役世代でも困窮する人が増え、高齢者向けを中心とした現行の社会保障制度では、とっくの昔に対応できなくなっている。

例えば、増大する非正規雇用に対し、セーフティーネットが不十分であるため、マクロ経済ショックが日本経済を襲うと、社会の最も弱い部分に大きな調整圧力が加わる。人々の将来不安を拭うことができないのは、社会全体でリスクを分担できなくなったからであり、それゆえ、所得が多少増えても、なかなか消費回復につながらないのである。財源が確保できるのなら、教育費を含めた上で、社会保障の対象を困窮する現役世代に広げるという発想は望ましい。

また、成長戦略として、多くの人が迂遠だと退けてきた教育投資についても、筆者は、人的資本の蓄積が最も確実で効果的な生産性改善、ひいては実質所得の改善につながると常々主張してきた(とりわけ、大学院教育の普及による人的資本の底上げが有効というのが筆者の持論である)。

仮に設備投資を促す政策を行っても、単に労働が機械やソフトウェアに置き換わるだけなら、生産性が上昇しても、増加した付加価値のほとんどが資本の出し手に帰属することになるかもしれない。しかし、人的資本が増えた結果、新たな付加価値が増大するのなら、その多くを働く人が手にすることができる。

もちろん、人的資本の底上げと言っても、大学教育や大学院教育がもたらすメリットはあくまで私的なものだから、費用を国がカバーすることについては相当慎重でなくてはならない。ただ、教育制度の基盤拡充にとどまらず、能力がありながらも財政的な余裕が十分ではない学生に対する資金の貸し付けであれば、機会均等の観点からも容認され得るのではないか。ばら撒きとならないよう警戒しつつ、数少ないワイズスペンディングとして検討する余地はある。

しかし、いずれにしても問題は財源だ。既存の社会保障制度をこのまま放置したままでは、年金だけでなく、今後、医療費、介護費の大膨張が続く。そうなると、新たな歳出のための財源確保どころではなくなる。新たな歳出は今回の幼児教育の無償化に終わり、財源難を理由に、それ以外は頓挫し、「全世代型社会保障」は絵に描いた餅に終わりかねない。それだけでなく、このままでは、いずれ既存の高齢者を中心とした社会保障制度の存続も危うくなる。

では、どうすればよいのか。唯一の解決策は、既存の社会保障制度を全面的に見直し、世代にかかわらず困窮した人をサポートすると同時に、世代にかかわらずゆとりのある人はサポートする側に回るという制度に移行することである。つまり、高齢者であっても、ゆとりのある人はサポートする側に回り、給付の抑制、負担増を甘受する。高齢者向け中心の既存の社会保障関係費が抑制されることで、財源が捻出され、現役世代向けの新たな歳出の拡大が可能となる。

もちろん、大幅な見直しは容易ではないが、世代にかかわらず困窮した人をサポートするという社会保障制度の本来の理念に回帰しなければ、超高齢化社会の中で、日本の社会保障制度は存続できなくなる。

これまで論じたように、今回の消費増税の使途見直しの本質は、財政赤字、すなわち赤字国債による教育無償化に他ならず、筆者は反対である。時代が要請する新たな歳出であれば、財源として新たに課税するか、あるいは相対的に優先順位が低下した歳出を削減すべきだ。

また、増税の度に、政治的理解を得るため、新たに歳出を広げていったのでは、増税を続けても、プライマリー収支の黒字化はいつまで経ってもおぼつかない。政治的に可能な消費税率の上限は存在する。

もし、今回は政治的にやむを得ないのだとしても、今後も「全世代型社会保障」を掲げるのなら、次回の新たな歳出の拡大の際には、同時に、世代にこだわらず困窮する人をサポートする制度への移行を開始しなければならない。

いうまでもないことだが、日本には、ゆとりのある人をサポートする財政的余裕は存在しない。また、世代にかかわらず困窮する人をサポートするというのは、新たな財政健全化プランの理念となり得る。

<景気拡大だけではプラマリー収支赤字は解消しない>

最後に言い添えれば、財政問題を論じる際、驚くことがあるのは、アベノミクスの成果でプライマリー収支が着実に改善しているのだから、公的債務問題を心配する必要がないと主張する政権関係者がいまだに少なくないことである。

確かに景気拡大が続いているから、税収は増え、プライマリー収支も、マイナスの領域ではあるが、改善傾向にある。もし、このまま景気拡大が続けば、多少後ずれしても、いずれ黒字化が達成できると考えているのだろうか。しかし、景気拡大は永続しない。拡大期もあれば、後退期も訪れる。

世界経済の拡大はすでに丸8年が経過しており、今後何年も続くとは言えない状況にある。2016年度は景気拡大が続いていたにもかかわらず、円高が進んだことで、税収減となった。

もちろん、日本経済に大きなスラック(余剰)が残っているのなら、税収増はまだ期待できる。しかし、現在の日本経済はすでに完全雇用にあり、人手不足傾向は相当に強まっている。それにもかかわらず、2017年度のプライマリー収支は国内総生産(GDP)比でマイナス3.4%と推計されている。このことは、景気循環を調整した構造的なプライマリー収支は、現在よりかなり低い水準にあるということだ。

2014年度の消費増税によって若干水準は改善したが、客観的事実として構造的プライマリー収支は大きな赤字のままであり、公的債務は明確な発散経路にある。つまり、過去5年間のアベノミクスの実験で明らかになったのは、循環的な景気拡大だけでは、プライマリー収支の赤字が解消できないという厳然たる事実である。

念のために言っておくと、1980年代末から90年代初頭にGDPギャップが大きく改善し、税収も大幅に増えたのは、バブルだったからだ。バブルを醸成することは、当然にして解決策にはならない。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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