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コラム:共和党完勝でドル高再起動、120円も視野=山田修輔氏
2016年11月14日 / 00:41 / 10ヶ月前

コラム:共和党完勝でドル高再起動、120円も視野=山田修輔氏

[東京 14日] - 2017年は、2016年とは打って変わって「円安の年」になると筆者は予想している。共和党完勝は、ドル円上昇シナリオの阻害要因ではなく、上振れ要因となるだろう。

「トランプ米大統領=円高」という見方は確かにある。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策運営や外交安全保障への影響、ドル安誘導の可能性、そして何より不確実性の上昇を考慮すると、短期的には円高となりやすいことは当社も予想してきたことである。

しかし、筆者は米国選挙のインプリケーションは財政政策を通したものになると論じてきた。複数のシナリオの中で、大統領選と上下両院での共和党完勝がドル高、金利上昇の最大の要因になり得ると9月にも書いた

共和党完勝は、米国政治のねじれ解消と財政拡大を意味するため、ドル高、金利上昇につながる。不確実性上昇に伴う短期的なリスクオフの動きがひとまず限定的だったことは、こうした見方が米国投資家に共有されている可能性を示唆している。

もちろん、短期的には上下動が繰り返される恐れはあるし、何よりトランプ次期政権については不確実性が大きい。まずは、トランプ氏の閣僚人事や1月の一般教書演説の中身を確認する必要があろう。

<トランプ版「本国投資法」もドル高を後押しか>

ただ、米国政治において一党が大統領選と議会選を完勝するのは稀なことだ。1965年以降の51年間で見ると、一党が大統領のポストと上下両院の過半数を押さえたのは18年間に限られている。

完勝は財政緩和となりやすい。その18年間では、米国の構造的財政収支は国内総生産(GDP)比で年平均0.4%ポイント悪化した。

財政緩和は金利上昇要因である。 GDP比1%の財政刺激策は、米国10年金利を推定48ベーシスポイント(bp)押し上げる。そして、金利上昇はドル高要因である。米国が最後に景気後退期以外で財政緩和に踏み切ったのは、1980年代のレーガン大統領時代までさかのぼる。レーガン大統領の財政緩和により、FRBは利上げサイクルに入り、60%ものドル上昇に寄与した。

実は今回は、この財政政策との絡みで強力なドル高材料が視野に入っている。海外から米国に還流した資金に10%の税金を1回限り課すというトランプ氏の提案、いわゆる本国投資法(Homeland Investment Act、以下HIA)第2弾だ。現在2兆円程度ある米企業(非金融法人)の海外保有現金の本国送金促進を狙ったもので、米国第一主義を掲げるトランプ次期政権にとって、これは最も遂行しやすい政策である。

当社の試算では、約4000億ドルの外貨がドルに変換される可能性がある。実際、HIA第1弾が発動された2005年には、3000億ドルの資金還流が発生し、同年のドル指数が13%近く上昇する一因になったとの調査報告もある。

また、財政赤字拡大(=米債発行増)に加えて、規制緩和(=銀行勘定による米債需要の低下)も金利上昇に作用する可能性がある。ドル円は金利感応度が強いため、来年のドル円上昇見通しを後押しするだろう。日本の国内フローも来年は円安要因となる見通しだ。かねて筆者はドル円が1ドル=115―120円の水準を来年回復すると予想してきたが、共和党完勝により、その確率は高まってきた。

<リスクシナリオは中国の人民元安誘導>

もちろん、リスク要因は存在する。日米安全保障条約を批判し、政策の不確実性が大きいトランプ大統領が誕生することで、日米関係を軸とする安倍政権の外交戦略と、短期的には解散戦略に影響を及ぼす可能性が出てきた。

安倍政権の今後数カ月の日程を見ると、内政より外交課題に重点が置かれている。トランプ大統領誕生は、1)環太平洋連携協定(TPP)成立の可能性のさらなる低下、2)日ロ交渉への影響、3)地政学リスクの上昇、を示唆する。安倍政権は外交成果を上げにくくなる可能性が高い。

また、不確実性が高まった中で、政治基盤を強化するために安倍政権が衆議院を解散するという、より受身の政治戦略を取るシナリオも排除できない。安倍政権の政治外交戦略における柔軟性と、日本の政治が市場に与えるポジティブリスクが低下し、日本の安全保障に関するネガティブリスクは上昇した。

もっとも、こうしたリスクはグローバルリスクというよりも、日米関係におけるリスクだ。そのため、必ずしも円高要因とは言えないだろう。また、トランプ次期大統領が意外と現実主義であり、対日関係を重視する可能性もある。となると、「リスクオフの円高」が発生するとすれば、中国当局がトランプ大統領誕生を前にして、駆け込み的に人民元安を推し進めるような場合の方が可能性としては高いだろう。

また、トランプ次期大統領と議会共和党が財政拡大措置について合意できるかどうかについても不確実性は大きい。トランプ次期大統領の政策への不確実性上昇で、米国景気に悪影響が出るとの声も少なくない。これも、ドル高シナリオへのリスクだろう。

とはいえ、重要な点は、金融市場はここ数年、財政緩和よりも金融緩和が大きいとの前提で、低インフレ・低金利継続を見越したポートフォリオを構築してきたため、その逆、つまり金融緩和よりも財政緩和が大きくなり、インフレ上昇・金利上昇となるシナリオに対しては脆弱になっていることだ。

リスクリワードの観点からは「インフレ資産」であるドル円は上方向に利があると見ている。リスクはあるが、筆者の見立ては「共和党完勝=ドル円上昇」である。

*山田修輔氏はバンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FX株式ストラテジスト。PIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。石川県小松市出身。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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