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コラム:「イカロス」のドル高に備え必要か=山田修輔氏
2017年1月26日 / 02:43 / 9ヶ月後

コラム:「イカロス」のドル高に備え必要か=山田修輔氏

[東京 26日] - ドル円相場は12月中旬と1月初旬に118円台を達成した後、調整局面に入っており、トランプ相場は終了、円高に反転するとの見方が増えている。非常に難しい局面に突入したが、筆者の見通しは違う。

昨年11月の米選挙で大統領ポストに加えて、上下両院の過半まで獲得するという共和党完勝を受けて、1ドル120円シナリオの現実味が高まったと前回のコラムで書いたが、ドル円は引き続き中期的な上昇トレンドにあり、春にも日銀マイナス金利導入直後(昨年1月29日)の121円台を回復する公算が大きいと考える。

この見方に対する最大のリスクは、ドル安を目指す新たな通貨協定の締結だろう。こればかりは、予測不可能な面があるが、現段階ではトランプ新政権のドル高けん制は、貿易赤字是正に向けて各国との協議への道を開き、譲歩を引き出すためのツールとみる。

以下、筆者のドル高円安見通しの根拠を述べよう。

<円ショート積み増しの余地あり>

まず、足元のドル円相場を確認しておきたい。ここ数週間の調整で、ドル円は水準を切り下げた。米国の金利や株価と比べても、ドル円の調整は目立っている。

ただ、これはあくまで調整局面と考える。米商品先物取引委員会(CFTC)の国際通貨先物市場(IMM)統計を見ると、非商業部門の円ショートは確かに高い水準にあるが、歴史的水準に照らせばショート積み増しの余地はまだある。

オプション市場では、ドル円が下落する中でもドルコール(買い)需要は増加している。米国債券市場では、ヘッジファンドのショート積み増しと、長期投資家のロング積み増しが進んでおり、ポジション戦争の様相を呈しているが、今回はヘッジファンドに分がありそうだ。

実は、ドル円は1月下旬から4月上旬に強い季節性を有している。背景には複合的な要因があるのだろうが、2月前後は世界的に株が上がりリスクオンの円安となりやすく、3月下旬から4月上旬にかけての年度初めには日本人投資家の外債投資が出やすい。また、過去7人の大統領就任後の1カ月間で見ると、5回はドル高となっている。

<トランプ政策への警戒は行き過ぎ>

とはいえ、トランプ新政権の政策をめぐる不確実性は高く、ドル安の進行を招くのではないかとの見方は根強い。本当にそうなのだろうか。

確かに、そうした不確実性は直近のドル円調整を招いたファンダメンタルズ面の主因と言えるが、以下の通り、警戒は行き過ぎとなった可能性がある。

まず、米中貿易摩擦シナリオはトランプ・トレードに対する主要なリスクであるが、短期的なリスクはいくぶん後退している。トランプ大統領は就任初日に中国を「為替操作国」に認定せず、措置を講じる前に「まずは中国側と協議する」とした。

中国の習近平国家主席も17日にダボス会議で行った講演でグローバル化を支持し、融和的な印象を与えることに成功している。中国が「効率性と公平性のバランスをとり、全ての国家、社会階層、人々が経済のグローバル化のメリットを享受できるようにしていく」重要性を認めたことは、米新政権の対中強硬策が今後制約される可能性を暗示していそうだ。

また、一部には、医療保険制度改革法(オバマケア)撤廃問題をめぐる混乱から、トランプノミクスの柱として期待される財政改革が頓挫する可能性を懸念する声があるが、果たしてそうだろうか。

報道などを追うと、共和党議員は当初こそ内紛に陥ったが、代替制度の同時導入なしにオバマケアを撤廃することは政治的にリスクが高いとの認識に至ったように思える。

実際、共和党のポール・ライアン下院議長は「われわれの目標は全てを同時に実現することだ」と述べている。オバマケアに対してより現実的なアプローチがとられれば、財政改革が頓挫するリスクは後退する。

加えて、市場は、米国議会が意外と早く財政改革を実行に移す可能性を見落としている。延長されている債務上限凍結期間は3月15日に期限を迎える。臨時措置を講じても8月の夏季休会前に債務上限に達する見込みだ。

財政改革前の債務上限引き上げは政治的に困難とみられ、議会は財政改革と債務上限引き上げの同時可決に強い意欲を示す可能性が残っている。そうなれば、財政改革法案は7月までに可決される可能性がある。

一方、注目の国境税については、17日付の米紙インタビュー記事でのトランプ大統領発言(国境税調整は「複雑過ぎる」)に対し、市場はネガティブな反応を示した。しかし、スティーブ・バノン氏やラインス・プリーバス氏らトランプ大統領側近の一部は前向きであると報じられている。

下院歳入委員会のケビン・ブレイディ委員長も18日、米系メディアのインタビューで、「この規定を前に進められると確信している」と述べている。最終的には国境税調整も何らかの形で合意に至る可能性がある。国境税調整は、トランプ大統領の公約である法人税減税の主要財源だ。また、貿易収支と財政収支の改善、購買力平価の観点からドル高要因と考えられる。

このように、不確実性は確かに大きいが、米新政権の政策が短期的にドル円に与えるリスクは上向きと言えるだろう。ただ、トランプ新政権は、保護主義の観点からはドル安志向とも受け止められやすく、為替市場のボラティリティー上昇にはつながる。中期的には、ドル高の進行が「強いドル」政策の変更を政権側に迫るシナリオには警戒が必要だろう。

<日米金融政策の「かい離」再認識へ>

さて、より確実性が高いと言えそうなのは、日米金融政策の方向性のかい離である。今月30―31日の日銀金融政策決定会合では、出口論の封じ込めが予想される。株式市場では上場投資信託(ETF)買い入れ減額、債券市場では10年金利目標の引き上げなど、年内の緩和縮小シナリオがささやかれ始めている。

出口政策を徐々に論じ始めることは必要であると感じるが、これまでの黒田東彦総裁の出口論封じ込めの経緯と、目下の低インフレ率を考慮すると、緩和縮小シナリオについて「時期尚早」と一蹴する可能性は高い。

他方、1月31日―2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、逆の方向性で注目される。そこで利上げに前向きな姿勢が示されれば(かつ経済指標が引き続き堅調ならば)、次々回(3月14―15日)のFOMCでの利上げが意識され、長期投資家により構築されてきた債券ロングポジションの巻き戻しにつながる可能性が高い。

市場は3月利上げの可能性を3割程度しか織り込んでおらず、金利上昇リスクは非対称的に大きい。来週の日米における金融政策決定会合を通して、政策かい離と金利差拡大方向が再認識される可能性が高い。

以上まとめると、ドル円が上昇サイクルを再開する公算は大きいと言えるだろう。米新政権が早期に「弱いドル」政策へと舵を切らない限り、1ドル121円を春先に達成する可能性は高い。

しかし、ドル高が急速に進めば、米新政権の反感を買う可能性も高まる。ギリシャ神話の「イカロス」のように、高く飛び過ぎると墜落する危険をはらんでいる。今度の潜在的な円安は「危ない円安」と言えるだろう。

*山田修輔氏はバンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FX株式ストラテジスト。PIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。石川県小松市出身。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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