Reuters logo
コラム:憲法改正なら円と株はどう動くか=山田修輔氏
2017年6月23日 / 10:04 / 3ヶ月前

コラム:憲法改正なら円と株はどう動くか=山田修輔氏

[東京 23日] - 安倍晋三首相は憲法記念日の5月3日に憲法改正に関するメッセージを発表し、次の3点を明言した。「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」「高等教育についても、全ての国民に真に開かれたものとしなければならない」。

憲法改正は、安倍首相の政治家としての究極の目標と認識されてきた。安倍政権発足時から、経済・外交安全保障分野で一定の実績を積み、政治的資本を蓄え、ついに政権の政治アジェンダの本丸である憲法改正に踏み込んだ形となった。

憲法改正が金融市場にとって極めて重要となるのは、政治日程に乗ったことで、今後の政治・政策が憲法改正を軸に展開すると考えられるからだ。要するに、憲法改正の動きが始動したことによって、2018年が日本の政治、マクロ経済政策にとって転換点となる可能性がある。筆者はマクロ市場分析が専門であるため、あくまでマクロ市場に対して、憲法改正がいかなるインプリケーション(含意)を持つかの議論をしたい。

まず今後の憲法改正スケジュールについては、安倍首相の「2020年を新憲法施行の年に」という目標と政治関連の発言をもとに推測すると、2018年年央から2019年初頭に憲法改正の発議を行い、2018年後半から2019年年央に国民投票を衆院選か参院選と同日に実施、あるいは衆院選と参院選の間に実施とのシナリオが浮上する。

2019年中の憲法改正の発議および2020年前半までの国民投票の場合、国会で憲法改正の議論を深めることができるが、長期間にわたって憲法改正が政争の具となる可能性や、北朝鮮情勢によって高まってきた改憲機運の失速、その時点での議席数の不確実性を考慮すると、現時点でメインシナリオとして政権から選好されるとは思えない。

日本株とドル円に対する影響は、以下に示すように、時間軸によって異なりそうだ。

●短期的には景気対策誘発なら株とドル円の下支え要因に

当社では、憲法改正の遂行に多大な政治的資本が必要であり、労働市場の規制緩和や社会保障改革などは当面進まないと想定している。むしろ、憲法改正を遂行する必要性が拡張的なマクロ経済政策を行う政府のインセンティブを高め、株式市場やドル円の下支え要因となる可能性がある。

経済政策面では、日銀の黒田東彦総裁と2人の副総裁の任期が2018年4月と3月に満了するが、政策の継続性が政府の最優先事項であると考えられるため、黒田総裁が再指名されるか、退任の場合はハト派の総裁を後任に据えると考える。

財政の面では、2019年の消費税率引き上げと基礎的財政収支(プライマリー・バランス)目標の延期や変更が想定される。

一方、もしそうした措置が国債格下げにつながれば、日銀の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の実施がより難しくなる可能性もあろう。

●中期的には政治的不確実性上昇で株安・円高招く可能性も

憲法改正が発議から国民投票の段階になると、政治的不確実性の高まりから警戒感が強まり、株式市場に一時的にネガティブとなる可能性はある。憲法改正が否決となれば、安倍政権に対する不信任と受け止められる蓋然性が高く、少なくとも自民党内でポスト安倍の動きが活発化し、政権が不安定化する。

政権(首相)交代となった場合、現在の経済政策からの抜本的な転換の可能性が浮上する。世論の動向によっては、そのリスクシナリオを市場は警戒し、一時的にリスクオフとなり、株安、円高となる可能性がある。

●長期的には改憲実現なら株やドル円にポジティブに作用か

長期的インプリケーションは不確実であるが、憲法改正が成立すれば、安倍政権の求心力は高まり、労働市場や社会保障制度などの政治的資本を要する構造改革に踏み込む可能性が浮上する。

また、憲法改正も、国民の意思に基づき現実に沿うよう憲法を柔軟に改正すると仮定すれば、株式市場にとってネガティブに作用するとの判断は難しい。

逆に、憲法改正が否決されれば、政権交代のリスクは上昇し、株安、円高圧力が発生すると考えられる。これは、将来的にポスト安倍と目される可能性を有する面々の財政金融政策のスタンスが安倍首相ほど拡張的でないか、包括的な経済政策スタンスが不明であるからだ。低インフレ環境に鑑みると、政権交代はデフレへの回帰を想起させるリスクがあろう。

●直近の注目は都議選、自民善戦でも株高・円安は限定的か

ただし、直近の政権支持率の低下を受け、憲法改正の時期と実行可能性についての不確実性は極めて大きく、今後の政治環境の変化を見極めていく必要がある。そこでまず注目されるのが、7月2日に投開票が予定されている2017年東京都議選である。

小池百合子都知事が代表を務める「都民ファーストの会」の躍進の可能性、安倍政権支持率低下、国政で自民党と連立を組む公明党が都民ファーストとの選挙協力に踏み切ったことで、通常より大きな国政と市場へのインプリケーションが発生する可能性がある。

海外投資家も、今のところ安倍政権の支持率低下には反応しておらず、日本株のポジションが軽いということと、直近の政治ニュースについても「何が問題なのかが分からない」という意見が多いが、今回の都議選の結果は金融市場でも注目される可能性がある。

報道をもとに予想すれば、自民党の議席減と都民ファーストの大幅議席増の可能性が高いようにみえるが、自民党が勢力をどの程度維持するか、また都民ファーストがどの程度躍進するか注目される。自民党にとっては、都議選で大きく議席を減らし、都民ファーストが公明党と合わせ過半数勢力となった場合、国政におけるダメージとなろう。

その場合、株式市場にとっては、安倍政権の安定性が低下、政治的不確実性上昇という観点から、警戒感が高まろう。ただし、民進党勢力も大幅な打撃が予想されているため、政権交代リスクがただちに浮上するとは考えにくい。

自民党が現有議席をある程度守るシナリオでは、同党の政権基盤の強さが確認され、株式市場にポジティブに受け止められる公算が大きい。また、憲法改正に消極的な公明党の影響力低下を通じ、9条の抜本的改正(2項の大幅改正など)を含め憲法改正の勢いは増す可能性がある。

ただ、市場の関心が直近の政権支持率低下の方に向いているとすれば、都議選で自民党が善戦しても、日本株・ドル円とも上方向への動きは限定的なものになる可能性が高いだろう。

*山田修輔氏はバンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FX株式ストラテジスト。PIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。石川県小松市出身。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below