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コラム:小池旋風が生んだ市場の歪み、総選挙後に修正か=山田修輔氏
2017年10月12日 / 10:18 / 5日前

コラム:小池旋風が生んだ市場の歪み、総選挙後に修正か=山田修輔氏

[東京 12日] - 金融市場は選挙好きだ。票読みはもとより、選挙結果が政策、経済、相場に与える影響について、議論が白熱する。

10月22日に投開票を迎える第48回衆議院選挙に関しても、当然、諸説紛々だ。今回は、小池百合子東京都知事による新党「希望の党」の結成もあり、海外投資家の関心も俄然高まっている。そんな中、主要紙による序盤情勢調査が12日朝、公表された。

いずれも安倍晋三首相率いる自民党優勢を示唆する内容である。しかし、選挙は水もの。情勢は変化し得る。ここでは頭の体操も兼ねて、選挙結果シナリオ別に市場へのインプリケーション(含意)を検討してみたい。

<「希望の党」は本当に市場フレンドリーか>

まずシナリオ別の分析に話を進める前に、今回の総選挙における最大変数である希望の党について、市場の見方を簡単に整理しておく。

希望の党の登場が、市場にとってネガティブ (株安円高)要因なのか、それともポジティブ(株高円安)要因なのかについては、意見は統一されていない。しかし、筆者が話をした海外投資家からは、主に以下の3点において、同党の潜在的躍進はポジティブ要因になり得るとの見方が聞かれた。

第1に、希望の党の代表となった小池氏がかねて供給サイドの政策を選好していたことから、規制緩和、民営化の取り組みが加速し得る点。第2に、自民党以外の保守政党の台頭が、建設的な政策競争を促進する点。第3に、希望の党が政策として掲げる消費増税凍結の実現と引き換えに、憲法改正で自民党と協力する可能性がある点だ。

筆者も長期的にはこれら3つのポジティブ要因の存在を否定しない。だが、短中期的な視点では懐疑的だ。もしも希望の党が大躍進すれば、ねじれ国会となり、立法プロセスが停滞し得ることに加えて、その政策にはベーシックインカム導入など相当の政治的資本を必要とするものが散見されるためだ(しかも政策優先順位は不明)。同党の首班指名候補が依然分からない点も気になる。

ただし、希望の党は自民党との連立の可能性を示唆している。その点では、大躍進したとしても、政治安定に対するリスクは杞憂に終わる可能性が高いと言えそうだ。また、市場の関心事として、安倍政権の求心力低下は日銀次期総裁人事に影響し得るとの声もあるが、小池氏は日銀政策に大きな方向転換は不要であると発言している。

加えて、良好なマクロファンダメンタルズを考慮すると、株式市場は売り材料よりも買い材料を探している可能性がある。選挙戦に対してポジティブな反応が出やすい相場環境とは言えるだろう。

いずれにせよ、短期的な相場は海外投資家の動きに強く影響を受けるため、選挙結果について海外発でどのようなストーリーが語られるか注視する必要があろう。

<5つの選挙シナリオ別に見た日本株・円相場予想>

では、本題であるシナリオ別の分析を進めたい。ドル円については、中長期的にはやはり米国経済やドルのファンダメンタルズを中心とした海外情勢が重要な変数だが、総選挙も材料視されることは間違いない。

選挙結果の市場への含意という観点からは、以下の5つのシナリオ別に頭の体操をしておくことをお勧めしたい。ちなみに、自民党と連立政権を組んでいる公明党については、全シナリオで公示前勢力の35議席を確保すると仮定した。

●シナリオ1:自民大勝

自民党(公示前勢力は290議席)が275議席以上を獲得し、自公の連立与党が新定数465議席の3分の2にあたる310議席を確保すれば、安倍首相の求心力は高まり、2021年までの長期政権の可能性が見えてくる。野党分裂の中で自民党が大勝した2014年の総選挙シナリオである。

憲法改正の蓋然(がいぜん)性は高まるため、政策優先順位の観点から警戒する声も聞かれるかもしれないが、政治安定の回復と現行の経済政策継続が好感され、短期的には株高・円安要因とみなされるだろう。

●シナリオ2:自民勝利

連立与党が3分の2議席を割り込むものの、議席減が57以下にとどまれば、自民党は単独過半数 (233議席)を維持し、与党は絶対安定多数(261議席)を確保する。国政選挙における安倍首相の5連勝となり、政治安定は少なくとも短期的には保たれ、議席数によっては2018年9月の自民党総裁選での3選の確度が高まろう。

安倍政権の経済政策は当面継続となり、憲法改正の可能性も残る。株式市場とドル円にとって中立的で、ボラティリティーは低下しよう。

●シナリオ3:自民苦戦

自民党が58議席以上を失い、単独過半数を割り込むが、自公合わせて議席減は92議席以下にとどまり、与党は過半数を確保する。政権は継続となるが、安倍首相の求心力は大幅に低下し、自民党総裁3選が不透明となり、金融市場では政権交代を意識する展開となる。

選挙での苦戦を受け、与党は経済政策に回帰するとの観測が台頭する可能性がある。しかし、安倍政権がレームダック化し、政権運営が難航する蓋然性は高まることから、「アベノミクス停滞」シナリオとも言える。

このシナリオは株安要因となる公算が大きい。この場合、日銀の緩和政策長期化観測につながる可能性もあるため、ドル円へのマイナスの影響は株式市場に対するものよりは限定的となろう。

●シナリオ4:自民敗北

連立与党が93議席以上を失い、過半数割れする一方、希望と維新も過半数を確保できない場合、政治環境は不安定化する。自民党が第1党にとどまったものの政権を失い、社会党も新党に議席を奪われた1993年の衆議院選挙が想起される。

このシナリオでは大連立を含めさまざまな連立の組み合わせが考えられる。政治と政策の不確実性が高まるため、株安・円高要因となり、ボラティリティーは上昇しよう。

●シナリオ5:希望の党大勝

序盤情勢調査などを考慮すると、現段階では考えにくいが、もし希望と維新で過半数を確保した場合、両党が与党となる衆議院と自公が過半数を占める参議院のねじれ国会となる可能性がある。この場合も、シナリオ4と同じく、市場の反応は予想し難く、ボラティリティーは上昇しよう。

<ドル円オプションは円高方向に歪み過ぎか>

ちなみに、ボラティリティーは上記の4番目と5番目のシナリオ以外では、低下する公算が大きいとみている。為替市場では、選挙日直後に期日を迎えるドル円のインプライド・ボラティリティー(予想変動率)は長期のボラティリティーに比べて高止まっている。主要紙の序盤情勢調査から示唆される通り与党優勢がより意識されれば、下方修正の可能性は高いだろう。

同様に、修正が入りそうなのがドル円オプション市場における「歪み」だ。オプション市場が現在織り込むリスクは円高方向に歪み過ぎていると筆者はみている。ドル円の1カ月のリスクリバーサル (円売りの権利と円買いの権利の価格差)は、過去数カ月で最も円高方向に傾いている。

むろん、ボラティリティーの高止まりやオプションの歪みの背景には北朝鮮リスクや米国政治など他の要因もあろう。ただ、希望の党台頭に対するリスクヘッジの「足跡」という面は大きいのではないか。

序盤情勢調査通りならば、政権交代の可能性は低いことに加えて、そもそも小池氏は日銀政策の継続を示唆している。つまり、いずれのシナリオに落ち着くとしても、少なくともオプション市場の歪みは解消方向に向かうのではないだろうか。

なお、最後に補足すれば、今回の選挙に際して、安全保障政策の優先順位が上昇したとみられる点も市場にとっては重要だ。民進党が保守系と左派系に分裂したことで、自民、希望、維新で構成される保守勢力が選挙後に拡大する可能性が高まっている。

共産党は引き続き極左に位置するため、立憲民主党はその間に入り込む形だ。新たな政党分布が現在よりも安定的かどうかは現時点では定かではないが、北朝鮮情勢の緊迫化を受けた安保体制の強化や憲法改正への最近の世論の変化を反映している可能性がある。

安全保障の強化や憲法改正は引き続き日本における長期的な政治および市場のテーマになるとみられる。このことが為替や株式市場に与える影響については、前回のコラムで取り上げたが、今後さらに議論を深めていきたい。

*山田修輔氏はバンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FX株式ストラテジスト。PIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。石川県小松市出身。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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