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コラム:米大統領選とドル円、最も警戒すべき展開=山田修輔氏
2016年9月26日 / 02:42 / 1年前

コラム:米大統領選とドル円、最も警戒すべき展開=山田修輔氏

[東京 26日] - 筆者はかねてより、秋に円高の最終局面が訪れ、その後、円安トレンドに回帰すると予想しているが、その1つのカギとなるのが米国の大統領選挙と連邦議会選挙だ。

11月の米大統領選と議会選の結果は、金融市場に大きな影響を及ぼし得る。主要世論調査とアイオワ電子市場(様々な事象を予想して取引を行うオンライン市場)によれば、現在のところ、大統領選は民主党のヒラリー・クリントン候補が共和党のドナルド・トランプ候補に勝利。議会選は共和党が下院、民主党が上院で、それぞれ過半を占める「ねじれ議会」となるシナリオが最有力視されている。

市場もこのシナリオを織り込んでおり、2010年中間選挙の下院選で民主党が敗れて以降の「決められない政治」とハト派的な米金融政策が続くとの見通しから、低金利・ドル安・株高となっている。だが、共和党、民主党のいずれかが大統領選・議会選とも完勝するシナリオに対しては、市場は脆弱になっていると言える。

以下、共和党完勝、民主党完勝、そして「民主党大統領または共和党大統領+ねじれ議会」の3つのシナリオ別に、ドル円相場の行方を占いたい。

●共和党完勝シナリオ:景気刺激的、短期ドル安、中期ドル高

トランプ氏、クリントン氏とも景気刺激的な財政政策を志向している。積極的な財政刺激策が期待できるのは、一党が大統領選と議会選で完勝する展開だ。

共和党が完勝すれば、より大規模な減税や米国への資金還流に対する税負担優遇を含む法人税改革、インフラ投資などが予想される。財政に対する長期的な影響を中立に保つため、そうした施策は長い時間軸で見るとオバマケアなど他の支出の削減によって相殺される公算が大きいが、中期的な政策ミックスとしては景気刺激的となろう。

なかでも、海外から米国に還流した資金に10%の税金を1回限り課すというトランプ氏の提案は、為替市場に大きな影響を及ぼし得る。全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーによれば、海外利益の本国送金促進を目的に2004年に成立した米本国投資法(HIA、Homeland Investment Act)は2005年に3000億ドルの資金還流をもたらし、同年のドル指数が13%近く上昇する一因となった。

海外からの資金還流が経済成長を促す効果を持つとすれば、後述する「政策の乖(かい)離」というテーマを補強する形で、ドル高を後押しするかもしれない。

米国の非金融法人企業は国外で1.7兆ドル程度の現金を保有している。当社の2015年企業リスク・マネジメント調査によれば、海外子会社の機能通貨は、回答企業の62%で現地通貨、13%で親会社のファンディング通貨、25%で現地通貨と親会社ファンディング通貨のミックスとなっている。単純計算では、米国の非金融法人企業には最大で1兆ドルの潜在的な還流資金が存在するということだ。

むろん、すべての企業が「HIA」に参加しているわけではないので、1兆ドルは言い過ぎかもしれない。ただ、当社の2011年企業リスク・マネジメント調査では、当時議論されていた「HIA第2弾」に参加すると回答した企業は44.3%に達した。仮にこの比率を当てはめれば、資金還流額は4400億ドルと推計され、これは月間360億ドル程度のドル買いを意味する。2005年のケースと同じように、こうした資金の流れは、米連邦準備理事会(FRB)が政策金利の正常化を続ける中で、より広範なドル高を後押しする要因になるとみられる。

短期的には、トランプ氏が大統領選で勝利した場合、政策をめぐる不透明感の高まりから、当初はリスクオフに伴い長期金利が低下すると考えられる。英国民投票前後のように、米FRBも様子見姿勢を強めるだろう。

また、トランプ氏が輸出競争力の回復を目指したドル安政策を前面に打ち出すとの警戒感が高まれば、短期的にドル安に拍車がかかり、この点は確かに中期的リスク要因でもある。一時的なリスクオフとFRBの見通し修正が特に円とユーロに対してドル安を誘発し、短期的には円高が進行する可能性がある。

しかし、共和党が上下両院でも勝利する場合、成長を促進する政策や規制緩和、資金還流政策が2017年初めに打ち出され、このトレンドは反転し、中期的に金利上昇、ドル高相場が予想される。トランプ大統領がドル安ではなくドル高要因となる可能性は低くない。

●民主党完勝シナリオ:景気刺激的、短期ドル高、中期ややドル高

一方、民主党が大統領選と議会選を制した場合はどうか。包括的な財政刺激策が打ち出されるだろうが、中身は高所得者や一部企業に対する課税を財源とするインフラ投資に軸足を置いた措置となる公算が大きい。

民主党は大規模な税制改革に消極的で、より局所的な支出政策を志向しており、共和党ほど野心的な財政刺激策は出てこないとみられる。米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会」の推計によれば、クリントン氏の提案は概して財政中立的である。

短期的には、クリントン氏が大統領選を制した場合、選挙をめぐる「不確実性プレミアム」の剥落がまず起きるだろう。このシナリオでは、市場が想定する将来の利上げ確率が上昇し、長期金利がまず上昇すると思われる。民主党による上下両院制覇が加わった場合、一段の規制強化のリスクがあるが、景気の見通しを大きく悪化させるようなものにはなるまい。

民主党完勝シナリオでは、政策をめぐる不透明感の後退から、全体的なドル高となる中で(特に円やユーロといった安全通貨に対して買われる見込み)、中期的には共和党完勝シナリオと比べてドル高は進まない可能性がある。

●「ねじれ」シナリオ:財政刺激は限定的、低金利、ドル上値重い

政府が「ねじれ」状態に陥るシナリオでは、財政刺激は限定的となる見通しであり、財政政策が若干緩和される程度となろう。

当社の試算では、「クリントン大統領またはトランプ大統領+ねじれ議会」という組み合わせとなった場合、財政刺激策が来年の米国内総生産(GDP)成長率に与える影響は非常に小さくなる。

米国政治が割れた状況が選挙後も続けば、来年3月に復活する連邦債務上限をめぐり、政局が繰り広げられるリスクが高まる。低金利、ドルの上値が重たい展開が想定される。

<金融政策の不透明性は共和党政権なら増幅>

最後に、11月の米大統領選・議会選は、金融規制と金融政策にどのような影響を及ぼすのか、考えてみたい。金融規制の変更としては、銀行監督および住宅金融の見直しや、海外からの資金還流を促す施策などが想定し得る。金融規制改革には法整備が必要だが、一党が完勝すれば実現しやすい。

一方、FRB議長の交代は上院が大統領に協力すれば実現する。直接的な影響が最も顕著となるのは、共和党が完勝するシナリオである。同党は金融規制の再評価を行うことを公約しており、リーマンショック後の2010年に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)を修正する可能性もある。ドッド・フランク法の範囲が縮小された場合には、金利上昇、ドル高が予想される。

民主党が完勝するシナリオでは、金融規制に変更が加えられるとすれば、規制強化の方向となろうが、同党の政治資本に対するリターンは限られるため、大掛かりなものとはならないだろう。

FRBの議長、副議長、空席となっている2つの理事ポストへの影響はどうだろうか。イエレン議長の任期は2018年2月までで、フィッシャー副議長の任期は同年6月までだ。クリントン氏が議長交代を求める可能性は低いが、トランプ氏は議長再任の考えはないと表明している。共和党が大統領選と上院選を制した場合、議長と副議長が交代するリスクが高まる。この点は、共和党が大統領選で勝利した場合の政策をめぐる不透明感を増幅させる。

共和党の政策綱領は、FRBおよびその金融政策決定プロセスを監査する法律の制定も求めている。共和党政権が指名・承認するFRB新議長がこうした見方に理解を示すことも考えられる。政策決定への監査を支持する新議長のもとで金融政策の予測可能性が低下するとは限らないが、政策決定プロセスに対する政治の介入を制限するために、ルールに基づく硬直的なアプローチへの依存が高まるリスクもあろう。

*山田修輔氏はバンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FX株式ストラテジスト。PIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。石川県小松市出身。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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