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コラム:トランプ相場でドル125円へ=田中泰輔氏
2017年1月6日 / 02:17 / 9ヶ月後

コラム:トランプ相場でドル125円へ=田中泰輔氏

[東京 6日] - ドル円は、トランプ政権下の米景気加速に沿って、2017年末までに125円へ上伸すると見る。長期停滞論まで出ていた米経済の根本問題が新大統領の誕生でどれほど変わるのか訝(いぶか)る向きもあろう。しかし、近年のアベノミクス、1980年代前半のレーガノミクスが示す通り、しかるべきマクロ政策の発動は相応に市場の様相を変える。

米成長予想は2017年3.0%、18年3.3%へ押し上げられ、12年以来のドル円の上昇サイクルは俄然、息を吹き返す公算だ。

ドル円の主なけん引役は当面、5―10年債利回りに敏感な海外投機筋だろう。米国債10年利回りは6―9月に3.6%まで上伸した後、今年末3.1%へ低下すると予想する。

一方、米連邦準備理事会(FRB)は今年2回以上、来年4回利上げすると見込む。この利上げ予想が正しければ、米政策金利はオーストラリアを上回る可能性すらある。たとえ長期金利が来年中に天井を打っても、中期的には米日短期金利差拡大を背景にした円キャリー取引がドル円相場の上昇ドライバーになろう。

<ドル円の短期調整リスク>

ただし、ドル円の上昇トレンドが一本調子とは見ていない。トランプ相場は初期には、ドル円ブル(上げ相場)派の投機的買いと既存ショートの巻き戻しが相まって急進行した。しかし、日本のリアルマネー投資家や実需筋は、割高領域へと一気に上伸したドル円ラリーにあまり追随していない。

このため、相場は下値が脆く不安定化する恐れがある。いったん調整モードに転じると、投機ポジション巻き戻しで110―115円ゾーンへ深押しする可能性が排除されない。

こうした反落は単にテクニカルな自律調整として起こるかもしれない。具体的なきっかけ要因としては、第1に米財政政策の具体的中身が注視される。トランプ政策には多大な不確実性があり、それ次第で市場予想の多くが見直しを迫られる可能性がある。

また、トランプ政権が貿易重視姿勢の一環で円安をけん制するかもしれない。ただし、口先介入でドルを反落させても、ドル高促進的な財政政策を投入する限り、ドル高基調は変わらないだろう。

<円から見る非ドル通貨>

ドルは、対円のみならず、欧州・新興国・資源国の通貨全般に対して強いだろう。ユーロドルの今年末予想は0.95ドルだ。ユーロは、米欧の景気・金利格差、仏独選挙に伴う政治的懸念に圧迫され、米政策次第でさらに下ぶれる可能性も排除されない。

ユーロと円は異なる下方ドライバーにけん引される可能性があり、両通貨間の優劣を評価するのは難しい。120円の上下5円程度のコアレンジ観を基本に相場に臨みたい。

新興国・資源国通貨は、ドル自体の強さに圧迫される一方、ファンダメンタルズや需給の改善で底固さを見せるものが散見されよう。円が対ドルで125円へと急落する場合、日本の投資家にはいくつかの高金利で底固い新興国・資源国通貨は魅力的に見えるかもしれない。

しかし、ドルベース投資家にとってこれら通貨はあくまでベア(下げ相場)。円から見るかドルから見るかで世界の景色は明るさが異なろう。2―3年後にはサイクルとして円高リスクが大きいこと踏まえ、投資妙味の程を冷静に計算したい。

<短期の安堵と中長期の教訓>

2016年中のドル円の下落と反発は、長期・中期・短期でどう行動すべきかの良い教訓になったはずだ。一般的に、長期的視座からのドル円の中心水準は、購買力平価など適正価値の尺度に基づいて90―105円付近とされることが多い。

長期投資家としての年金基金は、外貨資産をこうした適正価値かそれ以下の円高時に購入し、円安進行で増価したときに売却するポートフォリオが望ましい。日本企業の海外M&Aも、円安局面の株高と収益増を背景としたリスク志向の高揚で実行すると、その後の円高場面で連結決算に悪影響を被ろう。

中短期的観点からは、トランプ相場で円安・株高に戻ったことに、多くの投資家や企業は安堵しているに違いない。ただし、日本の長期的ポジションを再構築する上では、100円付近かそれ以下のドル円水準がもう少し長く続いた方が好ましかったと言える。

割高なドル買いへの参入になること、2―3年後にピークアウトしているリスクが高いことを踏まえ、長期・中期・短期でとるべき行動を整理する必要がある。

<ドル円変動の基本ロジック>

ドル円の変動には美しいロジックがある。しかし、必ずしも広く正しく認知されてはいない。

円相場は、日本の好景気、株高、日本人の外国証券買い、外国人の日本証券買いといった円高の基本指標が現れるときに円安に向かう性向がある。この「あまのじゃく」な振る舞いが相場変動の基本ロジックの理解を惑わしやすい。しかし、この「あまのじゃく」さ自体が基本ロジックに貫かれている。これを正しく理解しなければ、相場の潮目を捉えられない。

誤解を恐れずに割り切って言えば、ドル円相場の基調を決める「主エンジン」は米景気の堅調さである。2012―15年のドル円急騰の過程では、日銀政策が市場の注目の的だった。しかし、ドル円相場にとって日銀政策は「副エンジン」にすぎない。主エンジンが不調なら、日銀が何をしても持続的な円安にはならない。16年1月末に日銀はマイナス金利導入という円安政策を決めたが、折悪く米景気は急減速中。案の定、ドル円は急反落した。

円高・ドル安に転じると、それを正当化する理屈が出回るのが相場の常だ。日本の経常黒字拡大とか、安倍相場で割高になったドル円の購買力平価(PPP)など適正価値への修正といった類(たぐ)いだ。

経常黒字やPPPでの円高論は完全に間違いとは言わないが、相場実践上は役立たない。トランプ相場でドル円が急反発した背後で、日本は経常赤字化したのか、ドル円の適正水準観に重大な変化があったのか。

ドル円急騰のポイントは米景気観の変化である。経常黒字やPPPの円高論を信じる向きは円安転換の潮目を捉えられまい。筆者は米選挙後に躊躇(ちゅうちょ)なく2017年のドル円予想を90円台から115円へ切り返し、その1カ月後に125円へさらに上方修正した。円高から円安への予想の急展開を節操がないと思われるかもしれない。しかし上述の通り、固守すべき節操とは、相場を見極める上で有効な分析ロジックである。

このことから、トランプ相場にとってのリスクも明白だろう。トランプ政権の政策が具体化する中で、中身が事前の想定を下回り、米経済へのインパクトが下方修正される事態である。しかし、無用なロジックに振り回されることなく、米景気に焦点を絞っていれば、このリスクへの対応もひどく後手に回ることはないはずだ。

*田中泰輔氏は、ドイツ証券のグローバル・マクロ・リサーチ・オフィサーでチーフ為替ストラテジスト。日本長期信用銀行、クレディ・スイス、野村証券などを経て、2011年11月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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