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コラム:ドル円急騰の背景に「2つの損切り」の影=佐々木融氏
2016年11月24日 / 22:31 / 10ヶ月前

コラム:ドル円急騰の背景に「2つの損切り」の影=佐々木融氏

[東京 25日] - 米国市場がサンクスギビングデー(感謝祭)で休場だった24日のドル円相場は、欧州勢が参加し始めたタイミングで113.53円まで上昇、今年3月末以来約8カ月ぶりのドル高円安水準に達した。

ドル円相場を終値ベースで見ると、直近のボトムは9日の米大統領選前の3日だ。そこからちょうど3週間で10%も上昇している。これほど早いペースで上昇するのは1995年以来21年ぶりのことである。

ちなみに、日中の最安値も含めて見ると、直近の安値は米大統領選の開票中、共和党ドナルド・トランプ候補勝利の可能性が高まった直後の101.20円で、24日の最高値は113.53円。12営業日で12.2%も上昇したことになる。2週間弱でこれほど大きく上昇したのも1995年以来のことだ。

つまり、11月に入ってから発生しているドル円相場の上昇は、歴史的な急騰だと言える。そして、この背景には、「ドル高」と「円安」双方の要因がある。

<円ロングポジションの損切り>

米大統領選後の約2週間で見ると、新興国を含む主要国通貨の中で最強通貨は英ポンドだが、その次に強いのが米ドルとなっている。一方、最弱通貨はメキシコペソだが、円も下から4番目に弱い通貨となっている。

興味深いのは、円とともに、トルコリラ、南アフリカランド、ブラジルレアルといった高金利エマージング通貨が弱くなっている点だ。むろん、米金利上昇・ドル上昇を受け、こうした動きは理解できるが、円も一緒に弱くなっていることは何を意味しているのだろうか。

筆者は、もともと投機的な円ロングポジションが積み上がっていた状況下で、ドル上昇により、ドル円相場が上昇圧力を受ける中、円ロングポジションの損切りを余儀なくされたことを意味しているのではないかと考えている。ドル円相場の歴史的な急騰の背景にある円安は、ポジションの巻き戻しという側面が強いのではないか。実際、オプション市場では、大統領選直前に円を買う権利の価格が大幅に上昇していた。つまり、円急騰に備えたポジションが着々と積み上げられていた可能性があったということだ。

日米10年金利差とドル円相場の相関は米大統領選前も後も強い状態が続いている。しかし、日米10年金利差に対するドル円相場の感応度を見ると、米大統領選前は日米10年金利差が10ベーシスポイント(bp、0.1%ポイント)拡大するとドル円相場は1.6円上昇していたが、米大統領選後は3.0円の上昇になっている。つまり、感応度が倍近くに達している。こうした事実も、特に米大統領選後の円売りは、投機的な円ロングポジションが損切りを余儀なくされていることを示唆しているのかもしれない。

<債券ロングポジションの損切り>

今回のドル円急騰のもう1つの主役はドル高だ。ドルを名目実効レートベースで見ると、約3週間(13営業日)で4.3%上昇している。これだけのスピードでドルが上昇したのは2011年9月以来、約5年2カ月ぶりのことだ。

そして、このドル急上昇を支えているのは、米長期金利の上昇である。米10年国債金利とドル名目実効レートの相関はかつてないほど強くなっている。そして、このように米長期金利が急騰していることが、ドルの急騰につながっている。米10年国債金利の上昇スピードは2013年5月以降のバーナンキショックのときよりも速くなっているのだ。

バーナンキショックの際には米10年国債金利は約4カ月間で137bp(1.37%ポイント)上昇した。今回、米10年国債金利は7月上旬のボトムから、約4カ月で105bp(1.05%ポイント)上昇している。米長期金利の上昇トレンドは、期間で言えばバーナンキショックのときにほぼ匹敵しているが、米大統領選前後の短期的な上昇スピードは同ショック前後を上回っている。

なぜ、米長期金利はこれほど急速に上昇したのだろうか。もちろん、トランプ次期米大統領による積極財政政策に対する期待はあるだろう。これにより、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ期待は高まり、今では来月の利上げは100%織り込み、来年の利上げも2回弱織り込んでいる。

むろん、トランプ次期大統領の政策にはまだ不透明な部分が多いが、当社の米国エコノミストもそれは認めつつ、2017年7―9月期と10―12月期の経済成長率をそれぞれ0.5%ポイント程度押し上げるのではないかと予想している。

ただ、これは、来年1年間を通じて見た場合、日本の補正予算による財政からの成長率押し上げ効果の方が大きいことを意味する。そうした状況下で、これほど米長期金利が急速に上昇するのはやや違和感がある。

そもそも、日銀がイールドカーブコントロール政策を採用した9月後半、米国を含め世界の長期金利は上昇基調に転じている。今年前半までは、米国など一部の国を除き、日本や欧州の債券利回りは、中央銀行の金融政策により、かなりの割合がマイナス金利入りし、そうした状況が長く続くと考えられていた。

しかし、日銀がイールドカーブコントロールを採用し、量的緩和政策の限界を暗に認めると、世界の長期金利は上昇し始めた。こうした流れが、米大統領選におけるトランプ氏の勝利により加速し、世界の投資家の債券買い持ちポジションの損切りを加速させている可能性も考えられる。そして、年末の薄いマーケットで、そうした損切りが増幅している側面もあるだろう。

筆者にとってドル円相場がここまで歴史的な急騰を見せるのは全くの予想外だった。だが、こうした動きはポジション調整による部分が大きく、いずれ急速に反転、つまり米長期金利もドルも反落するのではないかと見ている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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