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コラム:ドル円こう着終焉へ、上抜けか下抜けか=佐々木融氏
2017年3月6日 / 10:56 / 6ヶ月前

コラム:ドル円こう着終焉へ、上抜けか下抜けか=佐々木融氏

[東京 6日] - ドル円相場がレンジ内での取引を続けている。先週は、米連邦準備理事会(FRB)高官のタカ派的なコメントが相次ぎ、市場の早期利上げ期待もかなり高まった。当社ニューヨークのエコノミストも、これまで年内2回の利上げを予想していたが、先週末に年内3回に変更し、次の利上げ予想は5月から3月に前倒しした。

それでもドル円相場はレンジの上限を上抜けられなかった。市場は14―15日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ決定を8割以上の確率で織り込み、年内の利上げ回数も2.6回程度織り込んでいる。

フェデラルファンド(FF)金利先物から見た年内の利上げ織り込み回数とドル円相場はこの2週間ほど相関が強い。このままの相関が続くならば、年内の利上げ織り込み回数が3回になると、ドル円相場は115.50円まで上昇する計算となる。つまり、レンジの上限は抜けられない。

1月12日から現在までの約2カ月弱のレンジは111.60円から115.62円の4円レンジだ。この「2カ月程度、4円レンジ」は最近よく見受けられる。2015年2月半ばから5月半ばまでと、同年8月下旬から11月初までは、ともに118円から122円という4円レンジ内での取引を続けた。

昨年はドル円相場が比較的よく動いた年だが、それでも2月上旬から4月初までの2カ月弱はおおむね111円から115円の4円レンジ内で上下動を続けた。興味深いことに、この111円から115円のレンジは今年とほぼ同じレベルであり、かつ今のところ時期まで一緒だ。

ドル円相場がレンジ取引になるということは、一定水準まで下がってくるとそこでドルを売ろうとする人よりドルを買おうとする人が多くなり、逆に一定水準まで上がってくるとそこでドルを買おうとする人よりドルを売ろうとする人が多くなることを意味する。比較的その時の相場観やマクロ経済に基づいた需給が影響していると考えられる。

そうした観点から、2015年中に「2カ月、4円レンジ」が2回とも同じ水準で発生し、2016年と今年の「2カ月、4円レンジ」が同じ水準で発生しているのも納得できるが、興味深い現象だ。

逆に、ドル円相場が比較的長く続いたレンジを抜けるということは、相場観やファンダメンタルズを変える何かしらのイベントやニュース、もしくはフローが発生したことを意味しているとも考えられる。

そうなると、過去のレンジ相場の後、結果的にどのような理由で「2カ月、4円レンジ」を抜けていったのかについて振り返れば、今回のレンジがどのような理由で終わるかを予測する上で参考になるかもしれない。

<7日公表の米貿易収支、保護主義に火を付けるか>

2015年2月半ばから5月半ばの「2カ月、4円レンジ」は最終的に上抜けしたが、この時、米国経済指標は強かったものの、米長期金利があまり上昇していない中で、特段の理由もなくドルが買われていったことによりレンジを上抜けした。

日米金利差との相関はこの時かなり低下している。ただ、だからということもないかもしれないが、この時のドル円上昇はすぐに終わり、6月初に125.86円の高値、つまりアベノミクス後のピークをつけて反落している。

2015年8月下旬から11月初のレンジ取引も最終的に上抜けした。きっかけは予想を上回る雇用統計で、米長期金利も上昇した。この時は12月の利上げ期待が70%程度まで高まりドルを押し上げた。しかし、レンジを上抜けした日の高値からそれほど大きく上昇することなく、FRBが実際に12月に利上げを行うと、ドル円は反落し、下落基調をたどった。

2016年2月上旬から4月初のレンジ取引は最終的に下抜けした。2015年の2回のレンジ取引上抜けは結局、ドル円の上昇基調につながらなかったが、2016年のレンジ取引下抜けはドル円の下落基調につながり、記憶にも新しいように111円のレンジの下限を下抜けた後、6月の英国民投票における欧州連合(EU)離脱選択を受け、99円台まで下落している。

2016年4月初にレンジを下抜けしたきっかけは、世界的に株価が軟調に推移する中で、円の買い戻しが続き、米紙のインタビューで安倍晋三首相が介入に否定的なコメントを発したことが引き金となった。

こうした少ない例だけで判断するのはやや無理があるが、それでもやはりFRBの利上げ期待の変化は重要と言えるだろう。前述のように年内3回の利上げを完全に織り込むだけでは現在のレンジを上抜けるのには不十分だが、仮に年内4回の利上げを完全に織り込むと、現在の相関によればドル円は119円ちょうど近辺まで上昇する計算となる。

一方、円高方向に下抜けるパターンとしては、政治的な要素が重要になってくるかもしれない。米政権が保護主義的圧力を増してくるという思惑が強まることがレンジ下抜けのきっかけとなる可能性はやはり高いだろう。

当社は米国の法人税制改正において、現在提案されているような形の国境調整措置が導入される可能性はかなり低下していると予想している。さらに、トランプ大統領や共和党は、国境調整により増加した税収を法人税率引き下げの原資にしようと考えていることから、法人税率引き下げも容易ではなく、トランプ大統領が主張する15%への引き下げの可能性は極めて低いだろう。

国内政治が順調に進まないと、国民の目を外に向ける必要が高まってくるかもしれない。米国では来週、14―15日のFOMCに加えて、15日には連邦債務上限凍結期間が期限を迎える。さらに、大統領予算教書が提出され、4月になれば財務省が半期為替報告を公表する予定だ。

連邦政府の資金繰りが怪しくなり、大統領予算教書も市場の期待に応えられないと、米政権は貿易相手国への批判を強めて国内の目をそらそうとするかもしれない。この観点から、実は7日に1つ重要なデータ公表が控えている。それは1月米貿易収支だ。

市場のコンセンサスは485億ドルの赤字、当社の予想も489億ドルの赤字だ。どちらにしても約5年ぶりの赤字額の大きさとなる。ドルは実効レートベースで見るとかなり割高になっており、これがじわじわと効いて今後も貿易赤字が拡大する可能性がある。そうなれば、当然、トランプ大統領の保護主義的姿勢も強まってくるだろう。

筆者は今回も昨年同様レンジは下抜けとなり、円高・ドル安基調が始まる可能性が高いと予想する。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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