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コラム:円安はどこまで続くか、117円到達の条件=佐々木融氏
2017年5月11日 / 09:12 / 4ヶ月前

コラム:円安はどこまで続くか、117円到達の条件=佐々木融氏

[東京 11日] - 前回4月27日付コラムで示した筆者のメインシナリオ通り、日本のゴールデンウィーク期間を挟んで、円が売られ始めた。フランス大統領選挙や北朝鮮情勢を巡って、4月下旬に大きな混乱や深刻な事態が起きなかったことから、市場参加者がリスクテーク志向を強めたのだ。

特に前者の仏政治リスクについては、中道派のマクロン氏が4月23日の第1回投票でトップとなった時点で、5月7日の決選投票を待たずに、為替市場の最大の関心事ではなくなっていたと言えよう。

筆者も中長期的な円高予想は維持しつつも、短期的には円安予想に転換し、前回のコラムではドル円相場の上値めどを114円程度としていた。もう少し時間がかかって到達すると思ったが、あっさりと114円台まで上昇してきたため、ここからどの程度の円安余地がありそうか、改めて検討してみたい。

<クロス円上昇がドル円を押し上げる可能性>

まず、前回示した114円程度というドル円相場の上値めどは、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む年内の米利上げ回数と、ドル円相場との間に見られる高い相関性をもとに推計した。年内の利上げ織り込み回数が現状程度で止まるだろうと考えたからだった。

しかし、足元の円安トレンドの勢いからすると、今後の利上げ期待の変化はともかく、もう少し円安が進んでもおかしくないように見える。

日本時間9日早朝に北朝鮮高官が新たな核実験の可能性を示唆したとのニュースが流れると、ドル円相場は114円台前半から113円台後半まで下落したが、すぐに円買いの動きは止まり、24時間も経たないうちに114円台に反発した。このことは、ドル円相場が約2週間で5%近く上昇したにもかかわらず、短期的な円ショート・ポジションはそれほど積み上がっていないことを示唆している。したがって、もう少し円が売られる余地はあると推察される。

ここまでのドル円相場の上昇は基本的に「円安」であって、「ドル高」ではない。実際、4月23日のフランス大統領選第1回投票以降の主要通貨の動きを見ると、円が独歩安となっている一方、最も上昇しているのはユーロで、そのあとを英ポンド、スウェーデン・クローナ、ノルウェー・クローネが続き、ドルはその次、つまり10通貨中5番目のパフォーマンスだ。

市場のリスクテーク志向が強まる中での円安が今回のドル円相場上昇を主導しているため、クロス円相場の上昇がドル円相場をさらに押し上げる可能性もあると思われる。

注目すべきはユーロ円相場の125円と、ポンド円相場の148.50円だろう。前者は心理的なポイント、後者は昨年6月23日の英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択後の安値からの戻り高値である。これらのポイントを上抜けて上昇していく時、全般的に円売りが加速する可能性があり、それがドル円相場を押し上げることも考えられる。

<目先のターゲットは115.50円付近>

また、前述のように、現在のドル円相場は米利上げ期待に対する感応度を高めているため、米国の経済指標や金融政策当局高官の発言にも要注意だ。

中でも12日発表予定の米4月消費者物価指数は重要だ。食品とエネルギーを除くコア指数は3月、前月比で1982年以来の下げ幅を記録した。4月は若干プラスに転じると予想されているが、その程度でも、市場は3月の数字が特殊要因によるものだったと安心し、利上げ期待を高めるかもしれない。

ドル円相場は現在、FF金利先物市場が織り込む利上げ回数との相関をさらに強めている。ここ1週間ほどのドル円相場は、3月初頭以降の相関関係の回帰式で計算される結果通りにほぼ動いている。つまり、現在のドル円相場はそのくらい利上げ期待に敏感に反応していると言える。

FF金利先物市場における、年末までの利上げ織り込み回数は1.7回程度だ。この織り込み度合いが1.8回になるとドル円相場は115円台に乗せ、2.0回になると117円台に達する。

実際の利上げ回数は当然のことながら整数回にしかならない。実際の利上げが1.7回になることはなく、1回になるか2回になるかしかなく、小数点はあり得ない。ちなみに、今後年末までの利上げ期待が1回に後退するならドル円相場は107円台まで下落する計算になる。

少し前までは、ドル円相場は日米10年金利差との相関が強かったが、今は日米2年金利差との相関の方が強くなり始めている。このことも、市場が米金融政策の行方に敏感になり始めていることを示唆している。2年金利は10年金利よりも金融政策の方向性を見る上で有用な金利と考えられているからだ。

ドル円相場の目先のターゲットは、前回の利上げ前に付けた高値である115.50円と見ておきたい。前述の通り、市場が年内にあと2回の利上げを織り込むようなことになれば、117円台まで上昇することになるが、あと2回の利上げは米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる予想(ドット)の中央値が示す回数と同じであり、そこまで市場が完全に織り込むためには、もっと強い材料が必要だろう。

市場があと2回の利上げを完全に織り込む時は、実際にはあと3回の利上げの可能性も出てくるような状況である。したがって、現状ではあと2回の利上げを完全に織り込むところまではいかず、ドル円相場の今回の円安トレンドは115.50円近辺で終了するのではないかと予想する。

繰り返すが、筆者は中長期的なドル安・円高予想を維持している。米国の保護主義姿勢がこれからさらに強まり、ドルが弱くなることによりドル円相場は年末に向けて105円程度まで下落するとの見方は変わらない。トランプ政権は国内であまり目立った得点を挙げられず、むしろ失点が続いている。よって、対外政策で得点を挙げていく必要があり、通商政策を通じて日本に圧力がかかる可能性はかなり高い。

近いうちにロバート・ライトハイザー氏が米通商代表部(USTR)代表に正式就任すれば、その圧力はさらに増してくるだろう。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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