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コラム:ロシアゲートでドル円を語る「限界」=佐々木融氏
2017年5月22日 / 03:39 / 4ヶ月前

コラム:ロシアゲートでドル円を語る「限界」=佐々木融氏

[東京 22日] - 先週はトランプ米政権とロシアとの不透明な関係に関する疑惑「ロシアゲート」が一気に広がりをみせ、ドル円相場は週初めの113円台後半から一時110円台前半まで急落した。背景には、先々週の金曜日(12日)に発表された米消費者物価が予想を下回ったこともあって、米利上げ期待が大きく後退し、ドル独歩安となったことも影響した。

過去2回の当コラム(下記参照)でも指摘したように、筆者は4月23日のフランス大統領選挙第1回投票以降、市場のリスクテーク志向が強まる(リスクオン)とみて、短期的な見通しを円安方向にシフトさせた。

――関連コラム:円安はどこまで続くか、117円到達の条件(5月11日付)

――関連コラム:短期円安トレンドの現実味(4月27日付)

さらにもう少し円安方向への動きが続いてもおかしくないとみていたが、急に始まったドル安の流れを受け、ドル円相場はあっさりと4月23日以降の上昇分の8割近くを失ってしまった。

短期的な見通しとして、ドル円相場が再びテクニカル上の重要ポイント(現在200日移動平均線は109.80円近辺、月足一目均衡表の雲の上限は109.50円)の明確な下抜けをトライしに行くのか、再び114円台方向へ反発するのかどうかは、今後の「ロシアゲート」の行方に影響を受けそうだ。

コミー前米連邦捜査局(FBI)長官は上院情報特別委員会で証言を行う予定であり、またワシントン・ポスト紙は、トランプ大統領の上級アドバイザーの1人が参考人として特定されたと報じている。仮にトランプ大統領が弾劾訴追され、罷免される可能性が高まるような新たな情報が出てくる場合、ドルはさらに売られる可能性もあるだろう。

<トランプ支持率は本当に低いか>

先週のトランプ政権に関するスキャンダルの広がりは、トランプ大統領が弾劾・罷免される可能性がないとは言い切れないところまで高まりつつあることを市場に認識させ始めた。米国の憲法では、大統領を弾劾訴追する権限は下院にあり、過半数の賛成が必要となる。その後、弾劾裁判は上院で行われ、3分の2の賛成で大統領は罷免されることとなる。

変動相場制導入以降、米大統領が深刻なスキャンダルに見舞われたことは3回ある。1972年のニクソン大統領のウォーターゲート事件、1986年のレーガン大統領のイラン・コントラ事件、1998年のクリントン大統領とモニカ・ルインスキー氏との関係である。

このうち、ニクソン大統領は下院が弾劾訴追を決定することが確実となったところで自ら辞職した。クリントン大統領は上院の弾劾裁判まで行ったが無罪となった。

もっとも、トランプ大統領の場合、上記3人のケースと大きく異なるのは、現在共和党が上下両院で過半数の議席を有している点だ。ニクソン(共和)、クリントン(民主)両大統領が所属する政党はそれぞれの疑惑発覚時に上下両院で過半数を確保していなかった。レーガン(共和)大統領の時は、共和党は上院だけ過半数を有していた。

したがって、今回のケースでは、共和党支持者内でのトランプ政権に対する支持率が重要になるとみられる。トランプ大統領の全体の支持率は40%前後まで低下しているが、共和党員による支持率は低下してはいるものの80%前後を維持している。

<万一の大統領罷免でもドル安とは限らない>

ただ、中長期的な影響を考えると、今回のスキャンダルだけでドルの行方を占うのは無理があると考えられる。仮に事態が進展して、弾劾訴追まで行くとしても、それまでには少なくとも数カ月の時間を要すると思われるからだ。

ちなみに、ニクソン大統領の時は発覚から辞任まで2年を要し、クリントン大統領の時は発覚から弾劾裁判まで1年かかった。ドルにとっては、その間に発生するマクロ経済動向も含めた、さまざまな要因から受ける影響の方が大きくなっていくだろう。

ドルは実効レートベースではすでに昨秋の大統領選直前とほぼ同水準まで下落している。仮にトランプ大統領当選以降のドル上昇が、積極的な財政支出や減税策に対する期待によるものだったとするならば、期待は全て失われていると言えなくもない。英ポンド、スウェーデン・クローナ、ユーロ、スイス・フランなどの欧州通貨に対してドルは大統領選直前よりも低い水準まで下落している。

もちろん、米株や米長期金利は大統領選直前よりかなり高い水準を維持しているが、トランプ大統領が弾劾・罷免される可能性を完全に無視できない状況になっている中でも高水準を維持しているということは、そもそも米企業収益やタイトな雇用市場などを背景とした米利上げ期待が強いことが株式市場や債券市場にとっては重要と言えるのかもしれない。

また、筆者はトランプ大統領の保護主義的政策がドルにとってネガティブに働くと予想しているが、仮にトランプ大統領が罷免され、ペンス副大統領が大統領権限を継承した場合、こうした予想にも影響が出てくる可能性もある。もしもペンス副大統領が、トランプ大統領よりも保護主義的政策を取らないのであれば、トランプ大統領罷免の可能性が高まることは、中長期的に考えれば必ずしもドル売り材料ではないだろう。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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