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コラム:金融政策の温度差が招く円安の賞味期限=佐々木融氏
2017年7月10日 / 22:18 / 3ヶ月前

コラム:金融政策の温度差が招く円安の賞味期限=佐々木融氏

[東京 11日] - 今年のドル円相場は、年初からドル安が主導する展開で下落基調をたどった。さらに、日米貿易摩擦、北朝鮮問題に加え、3月のオランダ総選挙、4月、5月のフランス大統領選挙に向けた不透明感、そして5月中旬に急速に広がったトランプ米政権とロシアとの不透明な関係に関する疑惑を受け、円が強い通貨となった。

年初から6月中旬までの主要通貨のパフォーマンスをみると、ドルが最弱通貨、円が最強通貨だった。この結果、ドル円相場は年初の118円台から一時108円台まで下落した。

しかし、6月半ば頃から主要国中央銀行から相次いでタカ派的なコメントが続き、金融政策正常化に向けた動きが進む可能性が示唆されると、各国の長期金利は上昇基調をたどった。一方、日銀は引き続きイールドカーブ・コントロール政策により10年国債金利をゼロ%近辺に固定している。このため、日本とその他主要国との金利差が拡大し、為替市場では円安が進んだ。

米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが行われた6月14日以降、円は最弱通貨となっており、その他主要通貨のパフォーマンスと各国10年金利の動きは比較的相関が高くなっている。日銀は、7月7日には上昇圧力が強まった長期金利を押さえるべく、指値オペと10年債入札額の増額を発表し、何としても長期金利の上昇を抑えようとしている。

また、7月19、20日に予定されている日銀金融政策決定会合と同時に公表される「経済・物価情勢の展望」(いわゆる展望レポート)では、物価上昇率の見通し引き下げが予想されている。当社のエコノミストチームは、日銀が2017年度のコアインフレ率について、これまでの前年比プラス1.4%から同1.0%へ、2018年度については同1.7%から同1.6%に見通しを引き下げると予想している。

日銀はすでに年間55―65兆円のペースでしか国債を購入しておらず、量の面ではテーパリング(緩和縮小)を行っている。そうした意味では、日銀も一段の金融緩和に向かっているわけではない。したがって、日本とその他主要国の金融政策の方向性が違うとまでは言えないが、温度差がかなり出てきたことは否めない。

<2014年と16年のドル急騰局面とは異なる>

各国と日本の10年金利差とそれぞれのクロス円相場はそれなりに高い相関を維持している。当社の金利ストラテジストチームは、今年末の日本10年国債金利は0.05%、米10年国債金利は2.65%と予想しており、現状230ベーシスポイント(bp)程度の日米金利差が今後30bp程度拡大すると想定している。これをそのまま6月15日以降の相関関係に当てはめると、年末時点のドル円相場予想は117.30円程度ということになる。

また、6月半ば以降の円安トレンドを支えているのは金利差だけではないかもしれない。7月10日に公表された5月国際収支によれば、直接投資は1.6兆円の流出超となり、1―5月の合計では7.8兆円、前年同期比58%増とかなりの高水準となっている。

対外直接投資は全てが円売りを伴うとは言えないが、半分程度は円売りを伴っている可能性もあり、これがラグを伴って6月半ば以降の円安に効いてきている可能性は否定できない。ちなみに、当社推計によると、証券投資と対外直接投資に伴う5月の円売り額は、2008年10月以来となる3.2兆円に達している。

加えて、同じく7月10日に公表された6月の対外証券投資データによると、本邦投資家による外国株式投資は1.1兆円となり、5月の1.2兆円に続いて2カ月連続の1兆円台の外国株買い越しとなった。買い越しが多い主体は5月も6月も投信で、特に6月の投信の買い越し額(7932億円)は、現在の基準でさかのぼることができる2005年以来最大の水準となった。

当社の2017年末のドル円相場予想は105円となっているが、このまま日本と他国との金利差拡大が続き、日本からの対外直接投資、対外株式投資が続くようであれば、予想をドル高・円安方向に修正する必要が出てくる可能性がある。

もっとも、金利差と円相場の相関関係は常に一定というわけではなく、実際、ドル円相場に関しては最近の相関は感応度が下がってきている。

また、1)北朝鮮情勢、2)安倍内閣の支持率急落、3)日米貿易摩擦の拡大リスク、4)それを警戒した本邦当局の円安けん制リスク、5)米政権のロシアとの関係に関する疑惑、などに鑑みると、年前半同様、投資家の不安心理が高まり、円が再び強い通貨となるリスクは排除できない。

さらに、米商品先物取引委員会(CFTC)が公表しているIMMの投機的ポジションは、円ショートポジションが年初と同程度の水準まで積み上がっていることを示唆している。何かしらの軽いショックでポジションの巻き戻しから円が買い戻されるリスクは小さくない。

そもそもドル円相場に関しては、短期間で急騰した2014年11―12月、2016年11―12月の時とは状況が異なると考えている。前者は日銀の追加金融緩和、後者はトランプ大統領が当選したことによる米長期金利の急騰が背景にあった。

これらのケースでは、円が今回同様、主要通貨の中で最弱だった一方で、ドルは最強通貨となっていた。つまり、ドル円相場の上昇は、円安だけではなく、ドル高の要素もかなり強かったと言える。しかし、6月中旬以降の円安局面では、ドルは2番目に弱い通貨となっている。ドルがさほど強くない中でのドル円相場の大幅急騰は見込めないだろう。

そのうえ、今回は日銀が追加緩和を行うところまでは予想されていない。金融政策の方向性が違うとまでは言えず、温度差があるといった程度である。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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