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コラム:ドルはなぜ下落を続けているのか=佐々木融氏
2017年8月7日 / 10:43 / 1ヶ月前

コラム:ドルはなぜ下落を続けているのか=佐々木融氏

[東京 7日] - 主要10(G10)通貨の年初来のパフォーマンスを見ると、米ドルは目下、「最弱通貨」となっている。2番目に弱いスイスフランに対しても5%弱下落、まさに独歩安の状態だ。

また、G10に主な新興国12通貨を加えた主要22通貨で見ても、ドルは最も弱いトルコリラと同程度のパフォーマンスであり、ほぼ最弱通貨と言って良い。

こうした状況下、ドル円相場は年初につけた118円台半ばから一時108円台まで下落、現状でも110円台で推移している(日本時間7日午後6時)。しかし、これも円が強いからではなく、ドル安が主因だ。円は、主要22通貨の中で下から数えて9番目に弱い通貨となっている。

実際、名目実効レートの年初来の動きを見ても、円が上下動し、結局、現在は年初とほぼ同水準に位置している一方、ドルはこの間、ほぼ一貫して下落基調にある。なぜドルは下落基調をたどっているのだろうか。

<投資資金が再び新興国に戻り始めた可能性>

ドル下落の背景としてまず指摘できるのがトランプ米政権を巡る状況だ。当社は、昨年11月のトランプ大統領当選を受け、2017年はその保護主義的な姿勢がドル安につながり、ドル円を下落させる可能性が高いと指摘した。

ただ実際には、トランプ政権はいまだに多くの政治任用ポストが決まっておらず、保護主義的な姿勢を強める以前の問題として、内政にてこずっている感がある。ドルに関しては、むしろロシアとの不透明な関係を巡る疑惑の高まりが下落につながるきっかけとなった局面が複数回あった。

また、ドル下落の2つめの理由として考えられるのが、新興国への資本の流れだ。この点を考察する上で重要なのは、2014―15年の動きである。この2年間、新興国の平均成長率が急速に鈍化した一方で、先進国経済は比較的堅調に推移した。そのため、両者の平均成長率の差は急速に詰まった(当社試算では、2015年には2.1%ポイントと2001年以来14年ぶりの僅差にまで縮小)。

そうした中で、米連邦準備理事会(FRB)は2014年初から量的緩和縮小(テーパリング)を開始、同年10月には債券購入を終了した。その後、利上げ期待が高まり、実際に2015年末には利上げを開始した。2014年、2015年の両年に、ドルが主要22通貨の中で最強通貨となった背景には、こうした流れがあった。

そして、その2年間を通じた主要22通貨のパフォーマンスを見ると、ドルが圧倒的に強かった一方で、新興国通貨は軒並み弱くなった。つまり、新興国から投資資金が米国に回帰し、その結果、ドルが強くなったものと考えられる。

ドルは2016年には最強通貨とはならなかったものの、さらに上昇。FRBが算出する実質実効レートで見ると、2016年12月に1990年以降の平均から10%割高な水準まで上昇し、ピークをつけた。

もっとも、2016年には新興国と先進国の平均成長率の差は再び拡大。2017年には新興国の成長率が回復するとの期待のもと、割高となったドルから一部の新興国へ、投資資金の流れが戻ってきているものと考えられる。実際、当社のデータによれば、今年に入ってから新興国市場に流入しているフローは、2012年以来の大きさを記録している。

<米金利動向だけでは説明できない>

ところで、FRBが利上げを継続できており、まだ利上げ期待が続いているということは、それだけ世界経済が安定しているということである。これは、投資家のリスクテーク志向が強いことを意味している。

通常、このような環境下ではドルや円は資本調達通貨として売られることになる。年初来、円もさほど強い通貨になっていないことも、こうした見方をサポートしている。

リスクテーク志向が強い状況下では、円の方が大抵「弱いドル」よりも弱くなり、ドル円は上昇するケースが多い。だが、今回の場合、これまでの数年間で、ドルは割高な水準まで上昇し、円は逆に割安な水準まで下落していたため、「弱い円」よりドルが弱くなり、ドル円が下落しているものと考えられる。

ちなみに、前回のFRBによる利上げ局面(2004年6月から2006年6月)でも、利上げ開始日から最後の利上げ日までのドルのパフォーマンスは主要22通貨中16位で、名目実効レートベースでは5%程度下落している。

しばしば指摘しているように、ドルが利上げ期待の高まりを背景に上昇するのは利上げ前までの数カ月間であることが多い。前回の利上げ局面でも、ドルは利上げ開始の1カ月半前までの4カ月間、力強く上昇し、主要22通貨中で最強通貨となっていた。

もちろん、当初予想されたほどFRBによる利上げ期待が高まらず、米長期金利が上昇しないこともドルの弱さの1つと考えられる。ただ、ドルと米長期金利の相関は不安定であり、米長期金利の動きをドルの弱さの主な要因として扱うのはやや無理がある。

確かに、過去1カ月間に限って見れば、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む2018年末までの利上げ期待とドル名目実効レートの相関は急速に強まっている。しかし、それ以前の相関が不安定だったことを考えれば、過去1カ月間の動きだけを捉えて、どこまでドル下落の要因として指摘できるかは不透明である。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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