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コラム:海外勢が見た日銀マイナス金利の功罪=佐々木融氏
2016年2月27日 / 08:08 / 2年前

コラム:海外勢が見た日銀マイナス金利の功罪=佐々木融氏

[東京 27日] - 筆者はここ1週間ほど、ニューヨークとロンドンを訪問し、ヘッジファンドを中心に計23社とミーティングを行った。訪問先の数は2012年秋のアベノミクス開始直後の出張時ほど多くないが、それに次ぐ程度あり、マイナス金利政策導入後の日本に対する海外勢の関心の高さがうかがえた。

今回のミーティングを通じて最も印象深かったのは、訪問先のほとんどがマイナス金利政策に対して批判的だった点だ。日銀のマイナス金利政策に対してだけでなく、マイナス金利政策そのものに批判的な意見が多かったのだ。

周知の通り、欧州中央銀行(ECB)は日銀よりも前にマイナス金利を導入しているが、その後の経済や市場の動きから、同政策の効果に対して懐疑的な見方が少しずつ広がっていたようだ。そこに、日銀のマイナス金利政策導入をきっかけに、日本の株価が下落し、円が上昇した事実が加わって、懐疑的な見方がさらに強まった模様だ。

ある大手マクロヘッジファンドのポートフォリオマネージャーは、「最初からマイナス金利に懐疑的だったわけではないが、マイナス金利を導入した国々の市場の反応を見ていると、結局、誰かに罰を与える(銀行にマイナス金利を課す)政策では、景気を刺激することはできないのだろう」と述べていた。

この他、「もう量的緩和・マイナス金利を拡大しても、市場へのポジティブな影響は期待できない。他にできるとしたら、何ができるのか」との質問も多かった一方、「世界的にインフレ率が低下している中、日銀はなぜ2%のインフレ率にこだわるのか」との声も聞かれた。また、ニューヨークでは「日本は自動車やゼロ金利政策、量的緩和政策など、いろいろなものを米国に輸出しているが、マイナス金利だけは輸出しないで欲しい」と苦笑いする人もいた。

ちなみに、ミーティングの中でしばしば聞かれたのは、「今回のマイナス金利政策導入の結果が、ヘリコプターマネーにつながるリスクはないのか」という質問だ。つまり、金融政策の限界が見え始める中、政府が自ら景気を刺激するため、日銀を財布として利用し、財政支出を極端に拡大する可能性はないのか、ということである。

<1930年代の日銀国債引き受けの顛末を気にする投資家も>

では、為替相場に対する欧米勢の見方はどうか。今回の訪問先の過半(6―7割程度)は、今後も円高が進むとの筆者の見通しに賛同しており、実際に円ロングポジションを保有している先も多少あるように見受けられた。また、円高予想ではなく、ドル安予想を背景に、円ロングポジションを取っていると話すところもあった。こうした短期的なポジションの巻き戻しが、26日にドル円が114円台まで反発したことの背景だったのかもしれない。

むろん、円売り介入に対する期待も一定程度あり、どのレベル、ないしはどのようなタイミングで介入が実行されると思うかとの質問も多かったことから、全体としては、まだそれほど円ロングポジションは大きくなってはいないのだろう。

ただ一方で「日本は円売り介入などできるのか」との意見もあった。「米大統領選の民主党有力候補であるヒラリー・クリントン氏は新聞への寄稿で日本の為替操作を批判し、ジェイコブ・ルー米財務長官はG20において通貨押し下げで景気浮揚を図ることがないよう一段と強力なコミットを求めている。これは明らかに日本の円売り介入に対する警告」というわけだ。

この他、「今回の急激な円高は市場参加者のリスク回避志向が高まったことが主因であり、今後再びリスクオンの環境になったら、円は弱い通貨になるのではないか」との予想も複数の訪問先で聞かれた。また、個人預金にマイナス金利が課されたら、日本の個人投資家は海外証券投資を増やすと思うか、との質問も比較的多かった。

さらに、結局、ヘリコプターマネーが通貨価値を下落させ(=インフレ率を引き上げ)、長期的に見れば極端な円安になるのではないかとの見方もあった。1930年代の日銀による国債引き受けの顛末について、詳しく教えて欲しいとの質問すら受けた。

最後に株式相場について補足すれば、銀行株に対して楽観的な見方が多かったのはやや気になった点だ。マイナス金利政策が銀行収益に与えるインパクトは、日銀当座預金に課されるマイナス金利だけだと考えているわけである(当社は、その部分から発生するマイナスの影響は小さく、貸出金利の低下、日本国債への再投資、マイナスコストの元になる預金の増加からくる影響が大きいと予想している)。

また、銀行が企業預金に対して手数料を課す可能性があるとの一部報道を事実として捉えていて、銀行に対するマイナスの影響は避けられると考えている人も比較的多かったと思う。

預金に手数料を課されれば、企業は潤沢な資金を自社株買いに使うのではないか、との期待も聞かれた。「米国の投資家は、自国の経験から自社株買いに対してはかなりポジティブなイメージを持っている。したがって、日本企業が自社株買いを今後増加させていくとのメッセージが伝われば、米国投資家は再び日本株買いに向かうのではないか」というわけだ。

円高に沿って一段と日経平均株価が下がる可能性を認めつつも、日本株に対してやや強気の見方もあるようだった。足元のドル円相場と日経平均の相関が弱まり、ドル円が下がっても日経平均はあまり下がっていないことが背景にあるのだろう。

もっとも、当社は最近、グローバルポートフォリオにおける日本株のオーバーウェイト推奨を数年ぶりに中立に引き下げている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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