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コラム:米国で感じた「トランプ大統領」の確率=佐々木融氏
2016年10月8日 / 10:17 / 1年前

コラム:米国で感じた「トランプ大統領」の確率=佐々木融氏

[東京 8日] - 筆者は4日から7日まで米国のボストンとニューヨークに滞在し、多くの現地投資家と会合を持った。印象的だったのは、やはり11月8日の投票日まで1カ月となった米大統領選に対する注目度が急速に高まっていることだった。

むろん、一部の現地投資家としか話をしていないわけだが、大統領選に関する見方には2つの共通点があった。

1点目は、「共和党のドナルド・トランプ候補が大統領になる可能性も出てきたと考えていたが、9月26日の第1回テレビ討論会を受けて、その可能性は低くなった」という意見だ。

2点目は、「それでもトランプ大統領が誕生するようなことがあれば、ドル円相場は少なくとも一時的に急落する可能性が高い」との共通認識である。

ただし、この場合のドル円急落予想は、決して「トランプ候補当選=ドル安」というロジックではない。主にリスク回避姿勢の強まりによる「ドル高・円高」予想である。実際、トランプ候補当選の可能性に備えたトレードで最も注目されているのは、ドル買い・メキシコペソ売り、ドル買い・カナダドル売りだ。

メキシコペソ売り、カナダドル売りは、もちろん北米自由貿易協定(NAFTA)に絡んだものである。第1回テレビ討論会でもトランプ候補はNAFTAを繰り返し厳しく批判していた。メキシコペソは、すでにかなり売られている印象もあるが、それでも「トランプ候補の当選が決まったら、さらにドル買い・メキシコペソ売りが進むだろう」と見る投資家は多かった。

ただ、トランプ候補の主張の多くは実際には実現しない(大統領だけで決められることは限られ、議会を通す必要がある)との見方から、ドルが一段と対メキシコペソ、対カナダドルで上昇した局面は、むしろドル売り・メキシコペソ買い、ドル売り・カナダドル買いの好機になると考える投資家もいた。

いずれにせよ、米投資家との議論で感じたのは、短期的な反応はともかく、中長期的にはトランプ候補より民主党のヒラリー・クリントン候補が大統領に当選した方が、全体的に保護主義的な色彩が強くなることから、ドル安方向に進むとの見方が優勢だったことである。

トランプ候補が大統領に当選した場合は、その実現性は別として、「減税や財政支出の拡大から景気が良くなり、株価が上昇、インフレ率も上がる。多くの不法移民が国外追放となるため、労働市場がひっ迫し、賃金も上がる。ハト派的なイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が交代する可能性も高く、金利は上がることから、中長期的にはドル高になる」との予想が意外に多かった。

<「トランプ候補に投票したい」投資家の本音>

米大統領選後のドルの行方は市場動向を占う上でもちろん重要だが、今回の米国出張では、実はもう1点、非常に気になることがあった。

それは、先ほど米投資家の共通認識としてトランプ大統領誕生の可能性は第1回テレビ討論会後に低くなったと述べたが、それでも依然として巷間言われているよりは高いのではないか、と感じさせられたことだ。

今年4月に米国を訪問した際には、筆者が出会った米国人の中で、トランプ大統領誕生を望む声やその可能性が高いと見る向きは皆無だった。それゆえ、「米国経済や国の将来を真剣に考えている人は、やはり冗談でもトランプ候補を応援したりはしないのだろう」と解釈していた。

ただし今回は、話をしているときに「この人はトランプ候補を貶(けな)しているが、最後はトランプ候補に投票するのではないか」と感じることが何度かあった。

投資家の1人はかなり正直だった。生まれたときから共和党員だと主張するその人は、「トランプ候補はあまりにひどいから、国の将来を考えたら自分は喜んで民主党候補に投票するが、クリントン候補も国の将来に良いとは思えない。だから、結局国のためではなく、私にとって有利になる候補に投票したいという自分勝手な思いが強くなってしまう」と切々と語り始めた。

そこで筆者が「あなたにとって有利になる候補はどちらか」と聞くと、彼はためらいもなく、「トランプ候補だ。私の払う税金を減らしてくれると言っているのだから」と頭を抱えながら答えた。

また、あるヘッジファンドのパートナーは、「今年のヘッジファンド業界は成績が芳しくない。正直なところマーケットが大きく動いてくれた方が良いので、そのことだけを考えると、トランプ候補が大統領になった方が良いと言うこともできる」と話していた。

実際、テレビ討論会で、トランプ候補が実業家の顔を見せて、これまでの政治を批判するときなどは、「何かを変えてくれそう」との期待を抱かせないわけでもない。逆にクリントン候補がいわゆる正統派政治家の顔を見せて、表面的なプロパガンダを主張していると、「何も変わらないだろう」と感じさせられる。

「内心、最終的にはクリントン候補が順当に当選して欲しいが、自分はトランプ候補に投票しておきたい」と思ってしまう米国人の気持ちは理解できないわけでもないのだ。だが、もしも多くの米国人がそのような気持ちでいるとすれば、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)と同じ現象が起こる可能性は排除できないことを意味する。

7日に発表された9月の米雇用統計はそれほど中身が弱いわけではなかったが、ドル円は下落した。雇用統計発表後に会合を持った投資家、当社ニューヨーク本店のトレーダーは一様に「週末(日本時間10日月曜日朝)の第2回テレビ討論会を前にした、ポジションの手じまいだろう」と話していた。今後1カ月間は、米大統領選の行方に一喜一憂する(もはや、どちらが喜でどちらが憂なのかは分からない)相場展開が続きそうだ。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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