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コラム:韓国政治混迷で日本に降りかかる「火の粉」=西濱徹氏
2017年3月15日 / 09:05 / 7ヶ月後

コラム:韓国政治混迷で日本に降りかかる「火の粉」=西濱徹氏

[東京 15日] - 足元の世界経済を巡っては、米国をはじめとする先進国を中心に自律的な回復局面を迎えるなど改善の動きが広がっている。こうした動きは、輸出依存度が相対的に高く世界経済に連動しやすい新興国にとって外需を足掛かりにした景気底入れを促している。

事実、アジアをはじめとする多くの新興国では、景気の回復感が強まる動きがみられる。しかし、韓国はそうした波に乗れないでいる。

<対中関係悪化で韓国経済は苦境に>

昨年の韓国の経済成長率は前年比プラス2.7%と前年(同2.6%)を辛うじて上回るも、10―12月期については前期比年率プラス1.56%と前期(同2.49%)から減速感が強まった。他のアジア新興国が景気の底打ちを示唆する状況とは対照的な展開が続いている。

この背景には、韓国の内需と外需を取り巻く環境がともに厳しいことが挙げられる。外需については中国との関係悪化が大きく影響している。

韓国は対北朝鮮戦略の一環として、在韓米軍による「高高度ミサイル防衛システム(THAAD)」の配備を決定したが、その決定がなされて以降、中国国内では韓国製品・コンテンツの締め出しや、韓国旅行を自粛する動きが広がっているとされる。

韓国にとって中国は、財輸出の3割超を占め、テレビ番組をはじめとするコンテンツ関連でも輸出の半分を占めるほか、来訪者の半分が中国人観光客であるなど、さまざまな面で依存度が極めて高い関係にある。韓国国内では一連の動きが「禁韓令」として報道されているが、今月に入って以降、THAAD配備に向けた準備が着々と進むなか、中国による「圧力」は一段と強まっている模様であり、輸出に一段と下押し圧力がかかることも予想される。

一方、内需を巡っては、家計部門の抱える債務残高が国内総生産(GDP)比80%と高いなか、家計部門の資産の大部分を占める不動産価格の低迷が長期化したことで逆資産効果の影響が続いている。

さらに、若年層を中心に雇用を取り巻く環境も厳しい展開となるなか、中銀が政策金利を過去最低水準に引き下げるなどの取り組みをしているにもかかわらず、個人消費は弱含む動きが続いている。

また、中国との関係悪化などをきっかけにした外需に対する不透明感は、国内需要の弱さと相まって企業マインド回復の勢いを削いでいる上、設備投資意欲にも悪影響を与えている。

<THAADと慰安婦合意のちゃぶ台返しはあるか>

さらに、韓国経済にとって痛手となったのが、朴槿恵前大統領に対する弾劾を巡って政府が長期にわたって機能不全状態に陥ったことである。朴前大統領は今月10日に憲法裁判所によって弾劾妥当との判決を受けて即日失職したことから、5月9日に出直しの大統領選挙が行われる。

次期大統領選に関しては、さまざまな候補者の出馬が取り沙汰されているが、世論調査で上位に挙がるのはいずれも野党候補であるなど、政権交代は必至とみられる。

なかでも「共に民主党」は、朴前大統領に対する弾劾を巡って与党が分裂した影響で国会において最大の議席数を有している上、上位5人の候補のうち3人が所属するなど、大統領選を経て同党に政権が移行する可能性は高いと見込まれる。今後は各党内における予備選挙などを通じた候補者調整の行方に注目が集まる。

「共に民主党」で大統領選への出馬意向を示しているなか、世論調査で最も人気を集めているのが前代表の文在寅氏であり、文氏は前回の大統領選に出馬して朴前大統領に惜敗した経緯がある。文氏のほかには、支持率の高い順に同国中部の忠清南道知事を務める安熙正氏、同国北西部の京畿道城南市長を務める李在明氏が出馬に意欲を示している。

文氏は同党内の主流派とされる中道路線を標榜する一方、安氏は党内では穏健派に位置し、対する李氏は強硬派とされる。こうした姿勢は韓国が直面する課題(THAAD、慰安婦合意など)への対応にも違いを生んでいる。

穏健派の安氏はTHAADについては米韓合意を尊重し、慰安婦合意についても歴史問題と日韓関係の発展を切り分けるとの考えを示しているが、強硬派の李氏はTHAADの配備撤回、慰安婦合意も全面的な再検討を求めるなど、ちゃぶ台返しを示唆している。

他方、文氏は現時点でTHAADについては次期政権が決定するとし、慰安婦合意についても再交渉が必要とするなど、明確な態度は示していない。その意味ではこれらの方向性については、いかようにも変化し得ると判断できる。

<世論動向に左右されやすい韓国の外交>

ただし、朴前大統領に対する弾劾訴追を巡る動きなどから分かったことは、韓国の政治と外交は国民世論の動向によって大きく左右される傾向が強いことであり、次期政権がいかなる形で誕生し、支持基盤を固めることができるか否かによって、THAADや慰安婦合意を取り巻く環境はどちらにも転び得る不安定な状況に置かれていると言えよう。

なお、韓国の次期政権が比較的高い支持率を得られれば、対外的な強硬路線をとる必要性は低下するとみられる。ただし、日本へのリスクについて考えると、慰安婦合意については韓国国内に強硬な反対論が存在し、多くの候補がいかなる形であれ再交渉を求める姿勢をみせるなか、日本にとっては合意で示された「最終的かつ不可逆的な解決」が反故(ほご)にされることへの反発も予想される。

また、THAADについては中国による「禁韓令」を通じて韓国経済にすでに深刻な悪影響が出ており、次期政権にはその緩和に向けた対策が求められる。しかし、仮に次期政権がTHAAD配備を再検討する事態となれば、きな臭い動きを続ける北朝鮮に付け入る隙を与えることで朝鮮半島情勢の混迷が懸念されるほか、米韓関係の急速な悪化を招くとともに、日韓間で昨年合意された秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の見直しも必要になるかもしれない。

日本にとっては、韓国次期政権の身の振り方により、さまざまな火の粉が降りかかるリスクが懸念される。

*西濱徹氏は、第一生命経済研究所の主席エコノミスト。2001年に国際協力銀行に入行し、円借款案件業務やソブリンリスク審査業務などに従事。2008年に第一生命経済研究所に入社し、2015年4月より現職。現在は、アジアを中心とする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析を担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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