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コラム:人民元安は円高加速を促すか=佐々木融氏
2016年1月12日 / 11:24 / 2年前

コラム:人民元安は円高加速を促すか=佐々木融氏

[東京 12日] - 昨年12月頃から中国人民元の下落が続いている。中国人民銀行(中央銀行)傘下の中国外国為替取引システム(CFETS)は12月11日、貿易加重平均に基づく新たな人民元指数を公表した。同措置により、中国通貨当局は今後ますます対ドルよりも対通貨バスケットの人民元水準に注目していくものと考えられる。

この結果、ドル/人民元相場の動きが大きくなってくる可能性がある。例えば、年初1週間でドル/人民元相場は1.6%上昇(人民元安)したが、CFETS人民元指数は1.0%しか下落していない。

また、人民元の取引時間は昨年までの「朝9時半―午後4時半(北京時間)」から、今年は「朝9時半―午後11時半(同)」に延長されており、より幅広い市場参加者の需給を反映したものになっていくと考えられる。

人民元の下落圧力はしばらく小康状態になる可能性もあるが、中長期的にはさらに下落が続くと予想している。多額のドル建て借り入れを行っていた中国企業が、米連邦準備理事会(FRB)による利上げ予想の高まりや人民元安懸念によって債務返済に動いている可能性がある。

また、2014年7月からの急速なドル高の進行にもかかわらず、対ドルでの変動を小幅に抑えていた人民元は実質的にかなり割高となっている。国内景気の鈍化などから、中国当局が一定程度の人民元安を必要と考えている可能性もある。

当社は今年末までにドル/人民元相場が6.90元まで上昇(ドル高・人民元安)する一方、ドル/円相場は110円まで下落(ドル安・円高)すると予想している。これらの予想が正しければ、人民元/円相場は年末までに15.94円まで人民元安・円高が進む計算となる。

人民元/円相場は昨年6月のピーク(20.28円)からすでに12%程度下落しているが、予想通り15.94円まで下落すれば、現状レベルからさらに10%程度下落することになる。ちなみに、16円前後の水準は、アベノミクス開始後の円安のちょうど半値戻し近辺である。

<人民元安・円高で、デフレ圧力は高まるか>

ここまで大幅に人民元安・円高が進んだ場合、マクロ的に見て、日本経済に対し、どのような影響を与えるのだろうか。次の3つのポイントを検証する必要があろう。

まず、中国は最大の輸入相手国だ。人民元安・円高が進めば、輸入コストは抑えられるが、デフレ圧力は高まるのだろうか。

貿易統計の最新データは昨年11月までしか公表されていないため、14年12月から15年11月までの1年間で見ると、中国に対する輸出額は13.3兆円で、米国(15.3兆円)に次いで国別・地域別で2番目に多い。一方、中国からの輸入額は19.6兆円と圧倒的に一番多く、中東からの輸入(10.1兆円)の倍近い。

つまり、人民元安・円高は、輸入コスト抑制を通じて日本企業の収益を引き上げる効果があると思われる一方、全般的に日本の物価上昇圧力を抑える可能性があると考えられる。

中国からの輸入品で多いのは衣料・同付属品、通信機、半導体等電子部品、金属製品などだが、中国における人件費高騰で輸入価格が上昇しているモノに対しても、市況が悪化している素材関連に対しても、価格低下圧力がかかるだろう。

ただし、人民元建てで取引されているのは、輸出・輸入ともにそれぞれ年間0.5―0.6兆円程度にとどまっている。主な影響は、ドル/人民元相場の上昇とドル/円相場の下落双方から来る間接的なルートが中心になると思われる。

<「爆買い」は鳴りを潜めるか>

次に、中国人観光客の爆買いが鳴りを潜めるかどうかも気になるポイントだ。

これまでの円安進行もあって、訪日外国人客数は15年1月から同11月までの合計で1796万人と前年同期比47.5%も伸びている。そのなかでも顕著な伸びを示しているのは、中国からの訪日客数で、前年同期比2倍以上伸びて465万人に達している。

このあたりからも、人民元がかなり割高になっており、中国人観光客にとって、日本への旅行や買い物が割安になっていることがうかがえる。今後、人民元が対円で下落することによって、中国人観光客の数が著しく減ることはないと考えられるが、日本での消費額にはマイナスの影響が出てくる可能性もあるだろう。

ちなみに、観光庁の推計では、訪日外国人が14年第4四半期から15年第3四半期までの間に日本国内で支出した額は3.2兆円程度であり、同時期の日本の民間最終消費支出の1.1%となっている。

<中国からのレパトリが円高圧力を増幅する可能性>

3つ目のポイントは、中国に滞留している留保利益の日本への還流・ヘッジが年度末に向けて円高圧力を高めるかどうかだ。

前述の通り、日本から中国への輸出はデータがある直近(14年12月から15年11月)の1年間で13.3兆円となっているが、日本から香港への輸出の8割は中国向けとも言われており、同時期の香港向けの輸出額(4.3兆円)の8割を加えたら、中国は輸出先としても米国を抜いてトップとなる。

日本企業は過去数年間、海外でのビジネスを拡大しており、海外に留保している利益は増加の一途をたどっていると考えられる。特にアベノミクス、量的・質的金融緩和が始まって以降、円安期待が強かったことから、企業は海外で得た収益をそのまま現地に滞留させるインセンティブを持っていた。当社は、足元で日本企業による海外留保利益は50兆円近くに上っている可能性があると推計している。

国別のデータは13年度時点までしか判明していないが、その時点で、日本企業が最も多く海外留保利益を保有しているのは米国で約6.5兆円、次が中国で約3兆円だ。それから約2年が経過している現在、日本企業の中国における留保利益が5兆円程度まで膨らんでいてもおかしくないだろう。

もちろん、ドル/円相場でのドル安・円高傾向も米国からの留保利益還流を促し円高圧力を加えるだろうが、人民元の下落が中国からの留保利益還流を促すシナリオも十分に想定される。

ただ、中国からは制度的に留保利益をスムーズに還流できないことも考えられる。この場合、日本企業が何らかの方法でヘッジをしない限り、企業が保有する資産価値の目減りにつながることになる。

ちなみに、日本企業による海外利益の本国送金(レパトリ)は、以前は3月末に集中することが多かったが、最近は3月、4月、7月に分散する傾向がある。それでも15年3月は6932億円と当時としては過去2番目に多い送金額となっている。円の先安観が薄れるなか、今年も3月、4月の送金額が多くなり、円高圧力を強める可能性が高い。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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