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コラム:市場覆う米FRBの「2018年問題」=鈴木敏之氏
2017年5月9日 / 03:53 / 5ヶ月前

コラム:市場覆う米FRBの「2018年問題」=鈴木敏之氏

[東京 9日] - 「(3月の利上げの)シンプルなメッセージは米国の経済状況が良好であるということだ」。昨年12月に続く利上げを決めた3月14―15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、イエレン連邦準備理事会(FRB)議長はこう述べた。

実はその後、FRBの金融政策運営は、イエレン議長が常々強調していた「Data dependent(データ次第)」ではなくなっている。弱いデータが発表されても、利上げを進める姿勢を堅持しているのだ。

5月3日に公表されたFOMC声明は、短い文面でしかないが、経済情勢の判断に言及する際には指標の弱い動きを徹底して否定する言葉を書き連ね、政策の進め方に関しては文言を一切変更しなかった。そのメッセージは、素直に受け止めれば利上げを徐々に進めるということであり、深読みすれば量的緩和からの正常化とバランスシート圧縮に進む意向を示したということだろう。

米金融政策の進め方に関する不確実性は、年内については比較的小さい。0.25%ずつ2回の利上げ、満期が来る保有証券の償還分の再投資を抑えることでバランスシート圧縮に着手する方向にあると思われる。

しかし、2018年について考えると、以下説明するように、あまりに不透明だ。

<トランプノミクス始動で景気・財政は視界不良に>

端的に言って、2018年の米金融政策の見通しは立たない。何よりも、米景気の行方がつかめないからだ。

全米経済研究所(NBER)の認定では、前回の米景気の底は2009年6月で、景気回復・拡大期間はまもなく8年が経過する。通常であれば、次の景気後退を警戒しなければならないほど時間が経っている。

米供給管理協会(ISM)が公表する製造業景気指数は、米経済に占める製造業のウエートが低下した今も、景気の指針であり続けているが、その数字は3月、4月と2カ月連続で低下している。長短金利差から試算した1年後の景気後退入り確率も若干高まってきている。

もちろん、イエレン議長が強調しているように、今の米経済はすこぶる順調であり、第1・四半期の落ち込み(成長率は前期比年率0.7%増と2014年第1・四半期以来の弱い伸び)が一時的なものだったと言える証拠も出てきてはいる。しかし、景気拡大の成熟を示すサインも見逃すことはできない。例えば、自動車販売はピークを過ぎたように見える。

一方で、インフレ圧力は弱い。失業率が4.4%(4月)まで下がっているのに、インフレ率は2%に届いていない。4月の賃金上昇率は2.5%にとどまった。賃金上昇率が2.5%では、一般物価は2%の上昇率には届かない。また、インフレ率に大きな影響を与える原油価格も上昇が続かない可能性はある。

しかし、だからと言って、FRBの利上げ路線が、景気・インフレが弱いとの判断で頓挫すると決めつけることはできない。トランプ政権が、当初の主張通り動くならば、減税・インフラ投資の財政拡張路線をとることになるからだ。

確かに就任100日までは政策は停滞していたが、ここにきて医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案や9月末までの歳出法案が下院を通過した。何もできない政権ではなくなっている。トランプノミクスの本丸と見なされている税制改革についても、ゼロ回答とはならないだろう。こうした景気刺激策が経済を上向かせる可能性はある。

ちなみに、米経済の先行き不透明感を示す格好のデータがある。経済政策不確実性指数と、テールリスクの大小を見るSKEW指数(別名・ブラックスワン指数)はこれまでVIX指数(別名・恐怖指数)と連動していたが、最近は乖(かい)離し始めているのだ。

SKEW指数は3月17日に史上最高を付けた。ところが、VIX指数は史上最低に近いところで推移している。近年、両者に大きなかい離が見られたのは、世界金融危機(リーマン・ショック)前だ。先進各国がその後行った未曽有の金融緩和が、何らかの見えない歪みをもたらしているとの懸念が拭い去れない。FRBが引き締めに前のめりになると、不都合が起きる恐れもある。

ところで、5月5日の米スタンフォード大学フーバー研究所主催のパネル討論で、印象深いやりとりがあった。パネリストは、シカゴ地区連銀のエバンズ総裁、セントルイス地区連銀のブラード総裁、ボストン地区連銀のローゼングレン総裁である。

その3人に向けて、アトランタ地区連銀の総裁を退任したばかりのロックハート氏が「2018年に利上げとバランスシート圧縮をどう関係付けるのか」と質問した。これに対して、エバンズ総裁は、「つい先日、FOMCメンバーを退いたばかりだから、あなたはその問題の事情はよく知っているだろう」と返し、大きな笑いを誘った。しかし、利上げとバランスシート圧縮をどう関連付けるのかについて明瞭な説明はなされなかった。

このやりとりから考えると、FOMCメンバー内でも定見は固まっていないのだろう。利上げとバランスシート圧縮を同時並行で進めるつもりなのか、それともどちらか片方を優先的に進めるのか、FRBの金融政策を巡って大きな不確実性がある。

<人事刷新後も政策の連続性は維持されるのか>

何よりも、FRBの理事会7人の構成が固まっていない点が気掛かりだ。目下、空席が3人。さらに、イエレン議長の任期は2018年2月、フィッシャー副議長の任期は同年6月に切れる。7人の理事のうち5人の人事を、トランプ大統領が握っていることになる。

また、トランプ大統領は、ブッシュ政権で財務次官を務めたクオールズ氏を銀行監督担当のFRB副議長に指名する計画だと報じられている。仮にFRB副議長が2人体制になれば、副議長間で見解が異なるかもしれない。そうした事態に、市場は慣れていない。これだけの人事の刷新があれば、政策の連続性が維持されるかも分からなくなる。

大方の市場関係者は現在、FRBが6月14日と9月20日に0.25%ずつの利上げを行い、12月13日に再投資政策の変更(バランスシート圧縮)に着手する日程を見込んでいるだろうが、そこから先は見通しにくい。市場は早晩、FRBの2018年の金融政策が読めない問題に対し、いら立ちを募らせ始めるだろう。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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