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コラム:米利上げ年内見送りの現実味=鈴木敏之氏
2016年9月23日 / 07:46 / 1年前

コラム:米利上げ年内見送りの現実味=鈴木敏之氏

[東京 23日] - 20―21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、またも利上げを見送った。だが、FOMC声明は、強い表現で今後の利上げ再開を示唆。同メンバーの経済予測でも年内利上げ再開が大勢を占めている。また、3人のメンバーが金利据え置きに反対し、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長自身、会見で利上げ再開に意欲を示した。

これを受けて、市場は61%の確率で年内最後のFOMC(12月13―14日開催)で利上げが再開されると見ている。だが、筆者は引き続き、追加利上げのハードルは高いと考える。以下、その根拠を示そう。

<全員投票なら利上げ決定だった可能性>

今後の米金融政策を読み解く上での重要なポイントは、今回の会合で利上げについてFOMC声明が示した前向きなスタンスと、イエレン議長とその周辺が堅持している慎重なスタンスとの綱引きだ。

まず前者から見れば、21日に発表されたFOMC声明には、確かに年内利上げ再開への前向きな姿勢が示されていた。具体的には以下の部分だ。

●「短期的な経済見通しへのリスクはおおむね安定的とみられる(Near-term risks to the economic outlook appear roughly balanced)」

●「委員会はフェデラルファンド(FF)金利を引き上げる根拠は強まったと判断するが、当面は、目標に向けて続く進展のさらなる証拠を待つことに決めた(The Committee judges that the case for an increase in the federal funds rate has strengthened but decided, for the time being, to wait for further evidence of continued progress toward its objectives)」

ここから読み取れることは、もはや利上げの適否をあれこれ議論する「If」の段階ではなく、どのタイミングで行うかの「When」の問題であるということだ。

また、今回の金利据え置きの決定に際しては、上述した通り、3人の反対者が出た。前回7月26―27日のFOMCではカンザスシティー連銀のジョージ総裁が反対しただけだったが、今回はそのジョージ総裁に加えて、ボストン連銀のローゼングレン総裁、クリーブランド連銀のメスター総裁が反対に回った。

この結果が意味するところは、現在17人のメンバーが出席しているFOMC(本来は19人だが、FRB理事2人が欠員中)で、金利据え置きの決定は全員の総意ではないということである。それどころか、激しい意見対立の末に導き出された結論であることがうかがえる。

前述したFF金利に関するFOMC声明の記述は、「しばらく待つが、利上げに進む」と言っているに等しい。これは、利上げを求めるタカ派に据え置きを受容させるための強めの「懐柔策」と思われるが、それでも3人の反対者が出ているわけだ。

ちなみに、現在、FOMCに参加しているメンバーは議長・副議長を含む5人の理事と12人の地区連銀総裁の計17人だが、投票権は理事5人(本来は7人)と地区連銀総裁5人に与えられている。空想にすぎないが、他の地区連銀総裁を含めてFOMC参加メンバー全員(17人)で投票していれば、利上げが決定されていたかもしれない。

<イエレン議長が利上げに応じない理由>

さて、今回のFOMCでは、四半期ごとの経済予測(SEP:Summary of Economic Projections)も公表された。今年の成長率予測、長期の成長率予測(潜在成長率)はともに引き下げられ、経済の先行きについては慎重な姿勢が示された。

だが、SEPの目玉であるFF金利予測(ドットチャート)を見ると、17人中14人が年内の利上げ再開を求めている(次回11月1―2日の会合は大統領選直前のため、12月13―14日会合での利上げが妥当と見ていることがドットチャートからうかがえる)。

利上げを求めていない3人は、推測であるが、ブレイナード理事、タルーロ理事、シカゴ連銀のエバンズ総裁だろう。

肝心要のイエレン議長は、記者会見での発言だけ見れば、年内利上げ再開派のように映る。議長は会見冒頭で、経済成長の加速や労働市場の力強さを理由に、利上げに進む可能性が強まっていると発言している(「the recent pickup in economic growth and continued progress in the labor market have strengthened the case for an increase in the federal funds rate」の部分)。

ただ、議長は同時に、なぜ今回は据え置きだったのかを次のように説明し、利上げへの消極姿勢も示している。

1)労働市場に余剰(スラック)がある、2)インフレ率が2%に達していない、3)ゼロ金利状態では経済の下降に対応するのが難しい。この説明は、かなりハト派色が濃い。FOMCメンバーの総意は、利上げ再開に傾いているが、イエレン議長はそこから距離を置いているようだ。

では、上記3つの利上げ見送りの理由は、果たして12月14日には解消されているだろうか。まず、FRBがインフレ指標として重視する総合ベースの個人消費支出(PCE)価格指数は2%に到達していないだろう。労働市場も、前回8月の雇用統計では、労働投入時間が短くなっている。FRBが公表している労働市場情勢指数(LMCI)も8月は予想外のマイナスに転じた。スラックは2カ月程度で解消されるような問題ではないだろう。

米国の景気拡大は成熟し、世界景気は停滞色を強めている。こう考えると、イエレン議長のもとでは、年内利上げ再開のハードルは依然、高いと見たほうがよさそうだ。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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