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コラム:米政権内紛が導くイエレン氏再任とドル安=上野泰也氏
2017年4月11日 / 04:16 / 5ヶ月前

コラム:米政権内紛が導くイエレン氏再任とドル安=上野泰也氏

[東京 11日] - 米国の多くのメディアにより、トランプ政権の内紛が4月7日から報じられている。1月20日の大統領就任式からすでに80日以上が経過しており、29日がこの政権にとって区切りの100日目になるが、「トランプ期待」が大きかった米株式市場の参加者には特に、この間の政策運営実績はどうにも期待外れだろう。

医療保険制度改革法(オバマケア)の改廃が、ホワイトハウスと議会共和党の最優先課題とされていた。だが、共和党内保守派グループ「自由議員連盟」の強い反対から下院本会議での可決見通しが立たず、法案取り下げによる採決見送りとなって、あっさり頓挫した。

トランプ政権は大型の法人・所得減税を含む税制改革に前倒しで着手する構えだが、下院共和党案にある国境調整の問題などで意見の隔たりが大きく、妥協案とりまとめにはかなりの時間を要する見通しである。年内に議会可決まで話を進めるのは、もはや絶望的な状況だろう。また、大統領選が行われていた間のトランプ陣営とロシア政府の関係にまつわる疑惑も、今後の大きな「火種」である。

日本時間4月7日午前には、シリア・アサド政権の軍事施設に対し、米軍が巡航ミサイル50発以上を発射する軍事行動が行われた。この動きの狙いについては、化学兵器を内戦で使用したとみられるアサド政権への懲罰行動、北朝鮮への威嚇メッセージなどいくつかの狙いが指摘されているが、内政の行き詰まりから米国民の目をそらそうとする狙いも含まれていたのではないかと、筆者は推測している。

確固としたストラテジーやロードマップ(工程表)が伴っていない上に、柱となるブレーンがトランプ政権にはおらず、各省庁の政治任用ポストはいまだに空席だらけである。そして、政策運営はあまりに場当たり的に見える。個別テーマにおける取引(ディール)の成果をアピールすることでコアな支持層の人気をつなぎとめているものの、このままではもっと苦しくなるのは目に見えている。

<イエレンFRB議長再任の鍵を握る人物>

このようなトランプ政権の不安定な足取りは、潜在的にはかなり大きなドル売り材料である。債券・為替市場は昨年12月15日までは、米国株の「トランプラリー」に気おされて、金利上昇・ドル高の流れとなっていた。だが、この日につけた水準(米10年物国債利回りで2.64%、ドル円相場で118.66円)を転換点に、これら2つの市場は米株式市場とはたもとを分かち、金利低下・ドル安の方向に動き始めたという経緯がある。

米10年債は4月7日に一時2.26%まで買い戻され、ドル円は3月27日に110.11円をつけた。トランプ政権内部での「綱引き」激化は、政策運営の一層の不安定化と市場の期待減退を通じて、一段の長期金利低下とドル安円高に結びついていくだろう。

ここで1つ注目されるのが、ホワイトハウスの「大番頭」である大統領首席補佐官の交代の有無である。米メディアの報道によると、バノン首席戦略官・上級顧問を中心とする保守的な「バノン派」と、クシュナー大統領上級顧問を中心とする中道寄りの「クシュナー派」にホワイトハウスの内部は割れており、バノン氏とともにプリーバス大統領首席補佐官にも更迭論が出ている。そして、プリーバス氏の後任候補としては、コーン国家経済会議(NEC)委員長やマッカーシー共和党下院院内総務の名が挙がっているという。

仮にコーン氏が大統領首席補佐官に登用される場合、市場はその影響をよく見ていく必要がある。米大手投資銀行出身のコーン委員長は3月12日、FOXニュースに対し、米連邦準備理事会(FRB)による利上げがどうなってもトランプ政権は雇用創出を妨げる障害を減らすよう取り組みを続けるとしつつ、「FRBは独立した機関だ。彼らは経済データを持ち、インフレや労働力を通じて経済成長を調整しようとしている。その点では良い仕事をしていると思う。われわれはFRBの力を尊重する」と述べた。FRBのこれまでの政策運営は良好と前向きに評価した上で、その独立性を尊重すると明言した点は、大いに注目に値する。

また、トランプ政権の経済政策運営でキーパーソンの1人であるムニューシン財務長官は、就任前だった1月下旬に上院議員あてに送付した書簡の中で、FRBは「金融政策を実行するために十分な独立性を与えられている」と述べ、共和党議員の一部がFRBの監査強化などを目指していることからは距離を置く姿勢を示していた。

トランプ大統領は選挙戦中にイエレンFRB議長の政策運営を批判し、2018年2月の議長任期満了に際してその再任を認めない考えを示唆していた。だが、政権内部で一種のパワーシフトが起こり、コーンNEC委員長が大統領首席補佐官に就いてホワイトハウスを仕切る場合、米大手投資銀行出身者など現実主義的な姿勢の人々が経済政策の実権を握り、イエレンFRB議長再任の線が急浮上するのではないかと筆者はみている。

ただでさえ政権運営が不安定な中で、FRB議長交代を図って政治的な難題をまた1つ抱え込むことに、トランプ大統領自身もなかなか前向きになれないのではないか。SNSを通じた大統領の情報発信では、就任後これまでのところ、FRBの政策運営を正面から批判したものは見当たらない。

市場の一部には、イエレン議長が2018年2月までの自らの任期中に再投資政策見直しへの着手という実績(金融政策の正常化に向けたさらなる一歩)を残したがっているのではないか、そのことが年内にも再投資政策の見直しに着手するという3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での多数意見形成に微妙に影響を及ぼしたのではないかという見方がある。

筆者自身は上記のようにはみていないが、仮にイエレン議長が再任濃厚となれば、年末までの利上げ回数・再投資政策見直しの有無に関する市場の織り込みに、それらが後ずれする方向で微妙に変化が生じてくるかもしれない。これもドル売り材料である。

2017年のドル円についての市場の見方は相変わらず二分されているものの、筆者は引き続き、年末までに1ドル=100円前後まで円高ドル安に動く余地があるとみている。また、年内の米国の追加利上げはあっても1回で(時期は9月だろう)、フェデラルファンド(FF)レート誘導レンジの上限が節目である1.5%に到達しないことから、再投資政策の縮小開始は2018年にずれ込むとみている。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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