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コラム:相場波乱の種をまいた日銀新スキーム=永井靖敏氏
2016年9月23日 / 04:51 / 1年前

コラム:相場波乱の種をまいた日銀新スキーム=永井靖敏氏

[東京 23日] - 日銀は21日、長期金利操作(イールドカーブ・コントロール)と金融緩和の継続期間明確化(オーバーシュート型コミットメント)を柱とした「新しい枠組み」(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)を発表した。

会合後の記者会見で黒田東彦日銀総裁は、金融緩和をさらに強化したと説明。同日、米連邦準備理事会(FRB)は連邦公開市場委員会(FOMC)で現状維持を決定し、イエレンFRB議長は記者会見で年内1回の利上げが適切と強調した。

まず、FOMCについては、利上げの可能性を指摘するエコノミストもいたが、あくまでも少数派で、市場の関心は声明文や記者会見に集まっていた。声明文では、「フェデラルファンド(FF)金利引き上げの根拠は強まった」と、利上げに向けて一段と踏み込んだ表現を使っている。同じ表現が8月下旬の米ジャクソンホール会議での講演で用いられていたことから、「サプライズ」とまでは言えないが、イエレン議長のペースで議論が行われた様子が読み取れる。

つまり、声明文は年内利上げを示唆する内容だと筆者は見ている。「世界の経済金融動向を引き続き注意深く監視する」とした記述が残った点は気掛かりだが、「年内利上げの障害」とまでは言えないだろう。

今回は3人のメンバーが利上げを求めて反対票を投じた。3人が反対票を投じたのは、2014年12月以来のこと。2016年末のドットチャート(FOMC参加者が考えるFFレートの適正値)を見ても、6月時点から下方修正されたが、「年内利上げなし」は17人中3人に過ぎない。

<10年債利回り以外の変動幅が拡大する恐れ>

一方、日銀については、追加緩和や枠組み変更の有無について、直前まで見方が分かれる中、「総括的な検証」と同時に、「新しい枠組み」が発表された。黒田総裁は、金融緩和を強化したと説明している。

1つめの柱の「イールドカーブ・コントロール」は、過度なイールドカーブのフラット化を避けることを狙い導入した。「総括的な検証」の中でも、金利の各ゾーンが経済・物価に与える影響を実証分析し、中短期ゾーンの効果が長期ゾーンよりも大きかったとしている(ただし、構造変化で、長期ゾーンの効果は過去に比べると高まっている可能性についても指摘している)。

加えて、過度なフラット化は、金融機能の持続性に対する不安をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす恐れもあるとまとめている。

声明文で、「イールドカーブ・コントロールを、新たな枠組みの中心に据える」とした一方、(長期国債の)「買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース」と記載している点が、「新しい枠組み」を分かり難くしている。

確かに、「長期金利」と「量」の両にらみの政策運営を実施することは、不可能ではない。長期国債が一種類しかない世界なら、金利水準と買い入れ額を同時に決定することはできないが、実際には様々な年限が存在する。また、操作の出発点は「10年物国債金利が概ね現状程度(ゼロ%程度)」と現在の水準であり、目標としている水準に幅を持たせている。

だが、不可能ではないとしても、今後イールドカーブをにらみながら、金融政策決定会合で「量」を調整することになるため、問題含みの感は否めない。枠組みの中心は「イールドカーブ・コントロール」としているため、超長期金利が「趣旨」に反する水準まで低下(あるいは上昇)すれば、「量」を調整する必要があるが、その「趣旨」を読み取るのが極めて難しいからである。

金融政策決定会合前の調整の思惑浮上や、予想外の調整を受け、ボラティリティーが高まる恐れがある。10年債利回りについては、日銀の新たな政策運営目標に加わったことで、安定的に推移しようが、その分、他のゾーンの変動幅が拡大する可能性がありそうだ。

なお、「新しい枠組み」では、日銀は、マネタリーベース残高の拡大方針を継続することにコミットしており、長短金利は「操作を行う」だけで、「物価安定の目標」の達成前の引き上げも想定した形式になっている。

ゼロ%という10年債利回りの操作目標水準には、「現状程度」という根拠しかない。理屈の上では、期待インフレ率の上昇により実質金利が低下することで、長短金利の操作目標が過度に緩和的になった場合、「新しい枠組み」を維持したまま、金融政策決定会合で引き上げることができる。

ただし、現実問題として、「物価安定の目標」を「できるだけ早期に実現する」としていること、期待インフレ率を正確に計測することができないことなどから、達成前の引き上げは困難と筆者は考えている。

こうしたリスクが想定されるなか、両にらみの政策運営が採用された背景には、これまでの政策運営を正当化する狙いや、量的緩和の有効性を主張するボードメンバーへの配慮があったと思われる。「総括的な検証」を受け、「量」の政策運営目標を完全に廃止し、「長期金利」に切り替えると、「日銀の量的金融緩和政策は失敗した」という印象を与える。

失敗の印象は、期待に働きかける効果を弱めるため、日銀としては、政策運営の無謬性を強調し続ける必要がある。また、「新しい枠組み」に対して、ボードメンバーの中から多くの反対票が出ると、政策運営の持続性に対する疑念が高まる。

<将来の修正余地がある分、政策効果も小さい>

「新しい枠組み」の2つめの柱の、「オーバーシュート型コミットメント」については、声明文に「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」と、金融緩和の継続期間について具体的な条件を明示した。従来は「物価安定の目標を達成するまで」と、曖昧な表現にとどめていた。

黒田総裁は「両者(2つの柱)が相まって緩和を強化した」と説明しているが、筆者は強化されていない(物価上昇にはつながらない)と考えている。まず、「イールドカーブ・コントロール」は、現状のイールドカーブを基準にしている。スティープ化するリスクを抑えることはできたが、「過度なフラット化は望ましくない」というメッセージを市場に出したことで、フラット化する可能性も低下した。

「オーバーシュート型コミットメント」についても、「物価安定の目標」の達成が近づき、市場が金融緩和解除を織り込みつつある局面では、プラスの影響を期待できるが、現時点では全くといっていいほど織り込んでいない。金融緩和解除が見通せない状況で、解除条件を明示しても、人々の行動に影響を与えない。

これまで日銀が金融緩和解除の条件を曖昧にしてきた背景には、出口の波乱を弱めるためだと筆者は考えていた。すでに極めて積極的な金融緩和を実施しているため、ある程度の波乱は避けられないが、物価上昇後、長期金利の水準に何らかのキャップを付けることで、長期金利の急上昇が景気失速を招き、物価下落につながるというシナリオ回避に注力すると予想していた。

「新しい枠組み」のままだと、金融緩和解除までは10年債利回りは現状のゼロ%程度に釘付けされ、コミットメント終了後、急上昇することになりそうだ。当然のことながら、その前に、「さらに新しい枠組み」が作られると思われる。「新しい枠組み」は、将来の修正余地がある分、政策効果も小さいと見た方がよさそうだ。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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