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コラム:ドル高再開へ、不安は「ポスト真実」=山口曜一郎氏
2017年1月16日 / 09:29 / 9ヶ月後

コラム:ドル高再開へ、不安は「ポスト真実」=山口曜一郎氏

[東京 16日] - 昨年12月に、筆者は今年のドル円相場について、第1四半期に112円まで調整したあと、第4四半期には125円まで上昇するという見通しを立てた。現在は、まさにその調整の過程にある。相場はもうしばらく調整が続いたあと、反転上昇に向かうと見る。

そこで、改めて、今年のドル高円安見通しを支える要因とそれに対するリスクを考えてみたい。まず、ドル円の上昇見通しを支えるストーリーは以下のようなものだ。

1)米経済は財政政策なしでも2%前半の成長が可能

2)減税や財政支出による景気刺激が加われば、2%台後半を超える成長とインフレ上昇が見込まれる

3)米連邦準備理事会(FRB)が年3回の利上げを行う可能性がある一方、日銀はイールドカーブ・コントロールによる金融緩和を継続することから、日米金利差は一段と拡大。米国で財政刺激が実施されれば、金利差拡大の確度はより高まる

4)トランプ次期大統領による「米国第一主義」が強い米経済と強いドルを実現する

これに対するリスクを考えると、以下の5点が挙げられる。

1)楽観的な米成長見通しは期待先行であり不確実

2)期待先行でドル高、金利高が大きく進んでしまうことが、先行きの米経済にネガティブな影響を与える

3)財政政策がどの程度の規模となるか不透明

4)トランプ次期大統領は保護主義であり、国内企業と雇用を守るためにドル安政策を取る

5)欧州の政治イベントがリスクオフ要因となって円高が進む

確かにどれも一理ある。だからこそ今年のドル円見通しは上下に大きく分かれているのだ。よって、これらのリスクをどう評価するかが重要なポイントとなる。筆者は次のように考えている。

<足元の調整はかえって望ましい>

まず、トランプ政権はまだ始まってもおらず全ては期待にすぎないと言うには、最近の米経済指標の強さには目を見張るものがある。

景況感などのソフトデータが中心ではあるが、12月のISM製造業指数は54.7と2年ぶりの水準に跳ね上がり、12月のNFIB中小企業楽観指数は105.8と12年ぶりの水準まで急上昇。1月のミシガン大消費者信頼感指数も98.1と約13年ぶりのレベルでの推移が続いている。企業や家計の初期の行動やセンチメントは間違いなくポジティブに動いている。

また、期待先行で金融市場が動いているのはその通りであり、筆者はドル高と金利上昇があまりに先に進んでしまうことを心配していた。期待先行で通貨高と金利上昇が進み過ぎると経済活動に負の影響を及ぼし、年後半から来年にかけて財政政策が実行される前に経済活動が減速してしまう恐れがあったからだ。

しかし、足元では為替、金利ともに調整が入った。財政政策の中身が見えてくるまでしばらく間が空いてしまうことを一部の市場参加者が嫌気したためだが、これによって期待が実体を押しつぶしてしまう展開は避けられたと考える。2月下旬以降になると思われる予算教書演説と、その後の上下院による予算案作成あたりから、財政政策や税制改革に関する具体的な絵が見えてくるだろう。

その財政政策に関する規模の不透明性が、具体化した際に失望を招くという見方もあるが、市場参加者が100%の楽観を織り込んでいるようには見えない。ゼロ回答であれば当然失望だが、インフラ投資には不透明性があるものの、所得税や法人税の減税は実施される公算が大きく、一定の景気刺激効果は期待できると考える。

大統領案と下院共和党案の差異などを指摘する声もあるが、大統領選後にトランプ氏と共和党のライアン下院議長が関係修復した意味は大きい。ライアン議長は今後のキーマンの1人となるだろう。

確かに、保護主義によるドル安政策への転換リスクには警戒が必要だ。ただし、現在のトランプ氏は、国内企業の国外進出けん制、海外進出企業に対する国内回帰圧力、中国やメキシコなどへの攻撃、といった手段を用いて保護主義的な行動を取っており、必ずしも為替レートに焦点を当ててはいない。大統領就任後にスタンスが変わってくる可能性は排除できないが、「強い米国」の実現にはある程度「強いドル」が必要と考えている側面もあり、経済にマイナスの影響が出てくるまで、為替については放置するのではないか。

FRBが発表するドル実質実効為替レートを見ると、足元の102.82は、直近2016年1月の高値を抜け、2003年以来の高い水準だが、過去の最低値が80.26、最高値が128.44であることを考えると、必ずしも今すぐ対処が必要というレベルではないだろう。

また、為替レートは水準とともにスピードも重要となる。2014年からのドル高局面では、一時前年比プラス14%までドルが上昇したが、足元では前年比プラス4%程度にとどまっている。この点においても年始に調整が入っているのは望ましい。年明けから一段のドル高が進むようだと、水準、スピードともに無視できない展開となるところだった。

むろん、欧州の政治イベントがリスクオフ要因となる可能性は排除できない。特に、フランス大統領選で極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首が勝利した場合、欧州は大混乱に陥り、グローバルな金融市場に大きな影響を与えることになるだろう。

ただし、それ以外のケースについては、政治的なショックがドル円に与える影響は永続的ではないと見る。政治イベントによる為替レートへのショックは短期間にとどまることが多く、また為替市場でユーロが大きく下落した場合、円と同様にドルも買われる可能性が高い。円独歩高が続く公算は大きくないだろう。

<事実に基づかない政治がもたらす危険>

なお、今回は深く触れないが、為替に限らず今後の市場・経済動向を読み解く上で、筆者が注視している論点が2つある。1つは米中関係であり、もう1つは「ポスト真実(post-truth)」の政治行動がもたらす危険性だ。中期的にはこれらがストーリーの構成要素として台頭してくると考える。

ポイントだけを簡単に述べると、前者は、通商担当に対中強硬派をそろえ、厳しい姿勢で臨むことにより米中で貿易摩擦が発生する。中国からの輸入規制や関税引き上げによって米国内の製造業と雇用を守ろうとした場合、国内のコスト増加要因となる。

この行き着く結果は企業収益の減少か、販売価格の引き上げか、IT化の促進による生産コスト削減であり、家計にとっては雇用削減や購買力の低下につながる恐れがある。加えて、中国側が報復措置を取って米経済に打撃を与えたり、中国の景気減速がグローバル経済にマイナスの影響を与えたりする可能性もあるだろう。

次に、ポスト真実の政治とは、真実のように感じられるが実は事実無根の主張に依拠した政治のことを指し、英エコノミスト誌などがしばしば懸念を示している。

ポスト真実の政治の下では、客観的な事実よりも感情的な主張が人々の判断基準となり、為政者が情報操作や扇動といった行動に走りやすくなる。そうなれば、真実がますます見えにくくなり、経済や社会の摩擦が高まり、将来的に政治経済に大きな混乱が生じる恐れがある。

むろん、景気が拡大している間は、恐らく問題は表面化しないと思われるが、トランプ次期米政権がこうした政治手法を取るならば、水面下で歪みが大きくなり、2018年以降のリスクとして台頭するシナリオには警戒が必要だ。

*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部副部長で、ヘッド・オブ・リサーチ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年にニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。ロンドン大学修士課程(金融学)修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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