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コラム:仏大統領選後のリスクオンは正解か=山口曜一郎氏
2017年5月10日 / 07:54 / 5ヶ月後

コラム:仏大統領選後のリスクオンは正解か=山口曜一郎氏

[東京 10日] - 7日に投開票が行われたフランス大統領選挙の決選投票では、中道派のマクロン氏が66.10%の得票率で勝利した。その後の報道を見ると、マクロン氏は消去法での勝利であり基盤が脆い、ルペン氏は2002年に父ルペン氏が決選投票で得た18%弱の得票率の2倍近い票を得ており分断は深刻、といった分析が目につく。

だが、欧州連合(EU)離脱を問う国民投票を実施することを公約に掲げていたルペン氏が勝利するのではないかとの観測が台頭していたことを思い起こせば、少なくとも親EU派および多くの市場参加者にとっては、安心できる結果だったと言っていいだろう。

その上で、あえて選挙結果で気掛かりな点を挙げれば、棄権したか無効票を投じた有権者が全体の約3分の1に達したことだ。これは支持する候補者がいなかった有権者の存在を示すものであり、今後、マクロン大統領が親EUそして緩やかな改革路線へと国民を導いていく上での大きな課題の1つとなる。

<ファンダメンタルズ注視に戻る市場参加者>

仏大統領選を無事こなしたことは、欧州政治リスクの後退だけでなく、さまざまなインパクトを欧州内外に与えることが予想される。これを金融市場という視点から見ると、ユーロ圏経済、地政学リスク、米国経済、トランプ米政権への認識や期待に大きな影響を及ぼす可能性が指摘できる。仏大統領選という今年最大の政治リスクが払拭されたことで、市場のセンチメントや方向性が変わってくる可能性があるのだ。

まず、ユーロ圏経済について言えば、ファンダメンタルズは至って良好だ。今までは、仏大統領選が経済にとっての大きな下方リスクとして存在していたため、良好な状況を素直に受け止められずにいた。改めてユーロ圏の経済データを眺めてみると、第1・四半期の国内総生産(GDP)成長率は速報値で前期比プラス0.5%と昨年第4・四半期に続く強い結果だった。2四半期連続でプラス0.5%となったのは6年ぶりのことになる。

さらに、4月のユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)確報値は、製造業が56.7、サービス業が56.4と、いずれも2011年以来の高水準に上昇している。

金融政策を占う上で注目されるインフレ動向については、エネルギー価格の影響や、イースター休暇の時期のずれから(昨年は3月で今年は4月)、消費者物価指数(HICP)が上下しており、トレンドの判断が難しいが、筆者はこの先、エネルギー・食品を除いたコア・インフレが1%台に定着してくるのではないかと見ている。それに従って、欧州中銀(ECB)は声明文の変更や金融緩和政策の縮小議論に乗り出してくると考えている。これは債券利回りの緩やかな上昇とともに為替市場でのユーロ買い要因となる。

また、市場参加者の地政学リスクに対する感応度にも一定の影響を与えそうだ。仏大統領選が終わったからと言って、北朝鮮やシリアでの地政学リスクがなくなるわけではないが、欧州政治リスクと地政学リスクがともに高まる中では、リスクの存在をメインシナリオのように扱わざるを得ない状況だった。だが、政治リスクが大きく後退する中での地政学リスクの存在については、あくまでリスクとして扱うことができる。予期しにくいリスクを絞れることは市場参加者にとってポジティブだ。

そして、今年のメインテーマとなる米国経済の動向により注目が集まることになる。そもそもファンダメンタルズ的には今年のテーマは米国経済だったが、それに勝るとも劣らないほど仏大統領選などの政治イベントがリスク要因として強い存在感を示していた。後者のリスクが大きく後退したことで、市場の関心は米国に集まる。

そのような中、注目の経済指標は米国の第1・四半期GDPと4月の雇用統計だった。4月28日に発表されたGDPは前期比年率プラス0.7%と弱い結果だったが、内訳を見ると、個人消費が自動車販売の減少と強かった昨年第4・四半期の反動減から前期比年率プラス0.3%と鈍かったこと、在庫が大幅減少してGDPを0.9%ポイント押し下げたことが主因として挙げられる。

それ以外の項目を見ると、設備投資、住宅投資、輸出はいずれも強かった。今後の自動車販売は気にはなるが、米経済が変調を来している兆しは見られず、第2・四半期には成長が大きく反発する展開が期待できる。3日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文にも「第1・四半期の成長減速は一時的」との文言が入っていた。

さらに、5日に発表された雇用統計では、非農業部門雇用者数は21.1万人増で2カ月ぶりの20万人台となり、3カ月平均は17.4万人増と良好、失業率は4.4%と2001年5月以来の水準に低下し、次回6月のFOMC会合での追加利上げをサポートする内容となった。年内計3回の利上げ観測が高まることは、金利上昇につながり、為替市場でのドル買い要因となる。

<1ドル=120円乗せのチャンスもある>

加えて、この展開ではトランプ政権の動向もポジティブに効いてくる可能性がある。トランプ大統領は4月29日に就任100日目を迎えたが、今のところ公約で実現できたのは、環太平洋連携協定(TPP)離脱と最高裁判事の任命のみで、市場が注目する財政政策や税制改革は、議会との調整が進まず失望的な状況だ。ただし、裏を返すと、期待はかなり剥落し、現在はポジティブ要因がほとんど織り込まれていない。

そのような中、4日に医療保険制度改革法(オバマケア)改廃法案が下院で僅差ながら可決された。上院可決のハードルは高いが、政権と議会の関係に対する不安が後退したこと、この先の減税法案の審議にも希望の光が見えてくることなど期待値の低さゆえにポジティブな評価が出てきている。

つまり、1)今年最大のリスクだった仏大統領選は無事終わった、2)米国の経済ファンダメンタルズは良好であり米連邦準備理事会(FRB)は追加利上げに踏み切りそう、3)期待が剥落していたトランプ政権にもポジティブな動きが出てくる可能性がある、という展開で、為替相場にはリスクオン・サイドで新たな動きが出てくると考える。

ドル円は再びドル高円安の動きが強まるだろう。筆者は今なお、年末水準118円がターゲットで、120円乗せのチャンスもあるとの見方を維持している。ユーロドルは、この先、興味深い展開となりそうだ。仏大統領選終了で、一時1.10ドル台まで上昇したが、ここには政治リスクの払拭とECBによる緩和縮小の可能性が織り込まれていると見る。そこを出発点としてしまうと、今後の仏国民議会選で不透明性が台頭したり、ECBの政策姿勢がすぐには変わらないというだけで、ユーロの上値が重くなる。

最終的には、ユーロ圏の成長・インフレの上昇とECBの政策姿勢の変更を受けて、年末のユーロドルは1.11ドル水準での底堅い着地になると見るが、そこまではユーロへの期待の剥落や、強い米国サイドの動きによるドル買いで、ユーロドルは上下にもみ合う局面が出てくると予想する。

ユーロ円は、これらドル円とユーロドルの影響を受けながら、130円が視野に入る展開もありそうだ。来年に入ると、イタリア選挙など欧州は再び政治リスクにさらされる可能性があるが、その前に為替市場では楽観が先行する局面がやって来ると考えている。

*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部長で、ヘッド・オブ・リサーチ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年にニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。ロンドン大学修士課程(金融学)修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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