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コラム:「荒れ相場」示唆する世界経済事情=山口曜一郎氏
2016年3月14日 / 04:32 / 2年前

コラム:「荒れ相場」示唆する世界経済事情=山口曜一郎氏

[東京 14日] - 現在のマーケットは今なお不安定だが、2月に比べると幾分落ち着きを取り戻している。この一因はドルの下落であり、米国経済、新興国、原油市場といった懸念要因に対してドル安がクッションになっているとみられる。

米連邦準備理事会(FRB)が発表している26カ国を対象としたドルの実効為替レートは、1月20日の高値126.24から今月4日の122.16まで3.2%下落した。ドル安は、米国経済にプラスに効き、米国の利上げとドル高の影響にさらされる新興国経済への不安を和らげ、人民元の売り圧力を緩め、原油などドル建ての商品価格の反発を助ける。

とはいえ、米国経済の不透明性、金融政策の効果への疑問、中国や原油価格などのリスクオフ要因が早晩消え去るとは思わない。これら経済および金融市場の不透明性の背景には、世界経済の「成長の源泉」不足という問題があるからだ。

<前倒し需要枯渇で金融政策の効果が減退か>

例えば、国際通貨基金(IMF)が発表しているドル建ての世界の名目国内総生産(GDP)を見ると、昨年10月時点での2015年の予想値は前年比マイナス4.9%に落ち込み、16年はプラス3.8%の反発にとどまる見通しとなっている。

昨年はドル高の流れが続いていたことから、世界経済をドル建てにすると目減りして見えるということはあるが、ドルをベースにすると、世界経済全体では付加価値の増価が起こっておらず、今年の反発も大きなものになりそうにない、という点は認識しておくべきだろう。

また、世界の貿易取引を見ても経済活動の停滞がうかがえる。オランダの経済政策分析局(CPB)によれば、15年の世界貿易額(ドル建て)は前年比マイナス13.8%減少となった。貿易取引が伸びていないということは、ある国が通貨安を実現することで取り込める外需の規模は以前よりも小さくなっている可能性がある。そうであれば、外需の取り合いで各国が金融緩和による通貨安を目指しても、緩和効果は以前ほど強くは出ない。

加えて、各国が金融緩和を実施した場合、今まではドルがそれを受け止めることで通貨安が実現されていたが、米経済の不透明性からドルが買われなくなり、かつ多くの国が金融緩和競争に陥ると、通貨安自体も起こりにくくなる。

さらに議論は内需にも及ぶ。金融緩和は投資の要求リターンを低下させることで投資活動を活発化させ、内需を刺激するのだが、これは一部、将来の投資や消費を先食いしている側面がある。

先進国は、政策金利の引き下げや、資産購入による量的緩和など、長期にわたる金融緩和で、過去5年間、1.1%から1.9%の成長率を達成してきた。いずれ、追加の金融緩和なしに、自律的な経済成長を実現できると期待されていたが、今なお多くの国は金融緩和のサポートによってプラス成長を維持している状況だ。

悲観的に考えると、前倒しする需要が枯渇しつつあるのではないか、そのため金融政策の景気刺激効果が減退しているのではないか、との考えが頭をもたげる。

<所得格差拡大も経済活動抑制の一因に>

つまり、話はどうしても所得と所得分配に行き着く。成長の源泉不足を解決する方法の1つとして、家計所得が増加する循環を作ることが必要であり、生産性の向上と労働分配率の改善に加えて、所得階層別での分配も重要となってくる。日本でも所得格差が問題となっているが、米国では上位10%の富裕層が総所得の47%を占めている。

中低所得者よりも高所得者の消費性向が低いことを考えると、所得格差の拡大が、消費の伸びをはじめとして、経済活動を抑制する一因となり得る。状況証拠に過ぎないものの、米大統領選挙におけるトランプ候補やサンダース候補の予想外の健闘には、格差とその影響の深刻さの一端が表れているようにも見える。労働者と企業の分配、所得階層別の分配が経済成長の下方圧力に影響を与えていることは間違いないだろう。

その観点で考えると、単月の数字とはいえ、2月の米雇用統計において時間当たり賃金が前月比マイナス0.1%と弱い結果になったことは、米経済の所得分配において、労働分配率の改善が進まず、将来の消費を支える家計所得が伸びないとの懸念を抱かせる。また、2月の中国の貿易統計(ドル建て)で、輸出が前年比マイナス25.4%、輸入が同マイナス13.8%の大幅減少となったことは、世界経済における需要不足を示唆する。

<マイナス金利にとどまらない金融緩和の限界論>

一方、金融政策は限界に近づく。10日の欧州中央銀行(ECB)理事会後にドラギ総裁は記者会見で「われわれの措置が、成長やインフレにもたらす支援を勘案すると、一段の金利引き下げが必要になるとは思わない」と発言した。これを受けてユーロドルが大きく反発したため、ドラギ総裁が市場との対話に失敗したという声が聞かれる。だが、筆者は確信犯的行動だったと見ている。

ドラギ総裁は、「マイナス金利は少なくともわれわれのケースではこれまでポジティブだった」が、「銀行システムに何の影響も与えずに望むだけマイナス幅を深めることができるか」というと「答えはノーだ」と述べ、この先、マイナス金利が深まっていくと、ネガティブ面の方が強まることを示唆していた。それゆえ、追加のマイナス金利引き下げに対する市場の期待を修正したかったのだろう。

ECBは、14年6月にマイナス金利を導入した後、15年3月に公的セクター債券購入プログラム(PSPP)を開始し、いったんは資産購入による量的緩和に舵を切ったものの、昨年12月はPSPPの増額がなかった一方でマイナス金利の引き下げを実施し、金融緩和の長期戦に備えたマイナス金利への再傾斜を印象づけていた。

しかし、ドラギ総裁は今回の記者会見で「金利手段から非伝統的手段へのシフト」に言及しており、再び前者から後者への回帰を匂わせた。追加の非伝統的手段の余地が限られていることを考えると、これはマイナス金利の限界のみならず金融政策の限界を感じさせる。

このような懸念は、機動的な財政政策や構造改革の必要性を指摘した2月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の声明からも、金融・財政・構造の3方面からのアプローチが必要だとするリプトンIMF筆頭副専務理事のコメントからも、読み取れる(リプトン氏は、3方面からのアプローチが必要な理由として、前回下方修正した最新見通しでさえ今はもう当てはまらず、以前より下方リスクは明白だと述べている)。

なお、上述したG20声明での指摘とリプトン氏のコメントは、まるでアベノミクスの3本の矢だ。筆者は成長の源泉不足を解決する方法の1つとして、生産性の向上と労働分配率の改善に触れたが、これもアベノミクスの成長戦略に組み込まれている。

しかし、日本では現在、これら一連の戦略の成果が見えにくい状況に陥っている。まさに「言うは易く行うは難し」であり、世界各国が協調してこの課題を達成することができるかには不透明性が存在する。

そう考えると、心持ち安心感が出ている現在のマーケット環境も楽観はできない。相場は今なおリスクオフに振れやすいと見る。

*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部副部長兼調査グループ長で、ヘッド・オブ・リサーチ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年に ニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。ロンドン大学修士課程(金融学)修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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