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コラム:米大統領選前のリスクテイクは得策か=山口曜一郎氏
2016年10月5日 / 02:12 / 1年前

コラム:米大統領選前のリスクテイクは得策か=山口曜一郎氏

[東京 5日] - 現在の金融市場には種々のリスクが蔓延している。足元で懸念が高まっている欧州銀行問題、11月の米大統領選挙、来年3月末までと言われている英国の欧州連合(EU)離脱正式通告、日銀の新しい政策運営の行方、米国の経済動向と年内利上げの可能性、中国の経済活動など、相場を揺るがすリスク要因は枚挙にいとまがない。

そして、金融市場は一部でそのような展開を織り込む価格形成となっている。為替や金利市場では、リスク回避的な行動から円が買われ、米国の大統領選や利上げに対する不透明性から、ドル売り圧力がくすぶり、米金利は低水準にとどまっている。

そう考えると、実は、リスク要因が実現するとの見通しが、市場参加者の間でメインシナリオになっていると言える。つまり、リスクシナリオがメインシナリオになっている状況だ。

それゆえ、ドル円は90円台への円高予想が勢いを強め、シカゴ・マーカンタイル取引所の通貨先物市場における投機筋の円のネット・ロングポジションが4月に7万1870枚(1枚1250万円)のピークを付けたあとも6万枚前後の高水準を維持し続け、米フェデラルファンド(FF)金利先物の価格は来年末まで1回ちょっとの利上げしか織り込んでおらず、米10年物国債利回りは1.6―1.7%付近にとどまったままなのだろう。

株式市場でも欧州株は銀行問題への不安から上値が重たい。米国株は堅調地合いを維持しているが、景気への楽観というよりは米利上げへの慎重な見方が支援材料となっている。

もしもこの考えが正しければ、市場参加者の目線はリスクシナリオの実現というメインシナリオにそろってきており、そうでなかった場合は逆の動きが出る公算が大きい。その観点で現在のリスク要因を分析すると、必ずしも悲観的ケースの実現が確実となっているわけではないことが見えてくる。

筆者は、いまや楽観シナリオというリスクを取りに行く必要があるのではないかと考えている。

<市場心理の悲観傾斜>

まず欧州銀行問題について言えば、イタリアなどの不良債権問題と一緒になって、欧州全体の銀行システム不安につながり、グローバルなシステミックリスクの引き金になることを、マーケットは懸念している。背景には、問題視されている銀行が、「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)において、システミックリスクへのネットでの寄与が最重要となる銀行」と、国際通貨基金(IMF)によって位置付けられていることもあろう。

しかし、基本的には個別行の問題であり、和解金の減額交渉などを踏まえて、最終的にどの程度の追加資本が必要なのか、それを自己調達できるのか、政府の関与が必要となるのかが、さしあたっての重要ポイントとなる。

米大統領選についても然りで、ドナルド・トランプ共和党候補が勝利した場合の米国の政治・経済に対する不透明性がマーケットのセンチメントを支配しがちだが、冷静に見てヒラリー・クリントン民主党候補が勝利する確率が低いわけではない。

リスクの大きさと、英国のEU離脱決定で気付かされた「何が起こるか分からない」という不安感が市場の価格形成に影響を与えている。米経済についても弱気派の見方に目が向きがちだが、悲観シナリオの実現が確実視されているわけではない。筆者は、米経済の成長継続によってFRBが12月に利上げを行うと見ている。

そこで、楽観シナリオが台頭した場合に予想される相場展開について考えてみたい。

<円安回帰やインフレ上昇も>

ドル円相場から見ていこう。注目は、いわずもがな、米大統領選と米連邦公開市場委員会(FOMC)会合だ。確かに、米大統領選でトランプ候補が勝利し、かつ12月のFOMC会合で米連邦準備理事会(FRB)が利上げを行えない状況に陥れば、ドル円が95円あるいはそれを超えて下落する可能性は排除できない。

しかし、米大統領選でクリントン候補が勝利し、かつ12月のFOMC会合でFRBが利上げを実施し、さらに来年も利上げが続くとなれば、筆者が推計するドル円のフェアバリューは102―108円となり、105円を超える展開が予想される。

タイミングは米国の第3四半期国内総生産(GDP)と10月雇用統計の発表後、米大統領選の結果が判明する11月前半だろう。さらに、12月に入って良好な11月雇用統計が発表されれば、この流れに勢いが出ると見る。

次に、日米欧の金利・債券相場はどう動くか。特にイールドカーブの形状はどのように変化するのだろうか。

現在、エコノミストらの予想に対して市場参加者が十分に織り込んでいない事象の1つにインフレ動向がある。日本、米国、欧州とも、エネルギー価格のマイナスのベース効果剥落などから、総合インフレ率(ヘッドライン)が緩やかに上を向いてくるフェーズに差しかかっている。

以前指摘した通り、各国・地域において差はあるものの、エネルギー・食品を除くコアインフレはヘッドラインに一定期間のラグ(遅れ)をおいて動く傾向がある。また、インフレ期待は実際のインフレの影響を受ける。

このことを市場が認識すれば、米利上げ期待が上昇する一方で、ユーロ圏と日本に対する追加緩和期待が後退する可能性もある。中央銀行のレトリックは別として、市場参加者のインフレ動向と量的緩和への見方が変われば、イールドカーブにはスティープニングの動きが出てきそうだ。

現在の金融市場では、これらのシナリオはもはやリスクシナリオという位置付けだが、それゆえ実現した場合の報酬も大きいと考える。ただし、この場合の想定期間は必ずしも長くはない。取りあえずは来年前半までというタイムスパンでの話だ。

ポイントは、現在のようにリスク要因が実現するとの見通しに偏っているマーケットの地合いの中で、楽観シナリオというアップサイド・リスクを取りに行けるかどうかだ。金融市場が悲観を織り込みに行けば行くほど、それが実現しなかった際の逆の動きは大きくなる。

*山口曜一郎氏は、三井住友銀行市場営業統括部副部長で、ヘッド・オブ・リサーチ。1992年慶應義塾大学経済学部卒業後、同行入行。法人営業、資本市場業務、為替セールスディーラーを経て、エコノミストとして2001―04年にニューヨーク、04―13年ロンドンに駐在。ロンドン大学修士課程(金融学)修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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