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コラム:トランプ相場は世界動乱期の「あだ花」か=斉藤洋二氏
2016年11月22日 / 09:16 / 10ヶ月前

コラム:トランプ相場は世界動乱期の「あだ花」か=斉藤洋二氏

[東京 22日] - 来年1月のトランプ大統領誕生を前にして、ご祝儀的な「トランプラリー」が続いている。トランプ氏の勝利確定直後こそリスクオフで円高が進み日本株は急落したが、その後一転してリスクオンとなり米株史上最高値更新、長期金利上昇そしてドル全面高の状況に勢いが増している。

背景には、「トランプノミクス」つまり大規模な減税やインフラ投資による財政拡大と雇用増大への期待が政権発足前から独り歩きしていることがある。

また、トランプ氏が選挙前に、2010年に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)を廃止する意向を示していたことも大きく作用しているようだ。報道によれば、現在は一部見直しにトーンダウンしているようだが、金融界ではリーマンショック以前のように今よりも自由な環境で「貪欲」に利益を追求できるとの期待感が高まっている。

加えて、財務長官候補にJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)やゴールドマン・サックス元幹部のスティーブ・ムニューチン氏ら米金融業界の住人の名前が浮上していることも、ウォール街の安心感につながっているのだろう。

このように1月20日のトランプ新大統領就任を前に市場は大きな期待感に包まれているが、果たして夢見心地はいつまで続くのだろうか。トランプラリーの先に訪れるのは、本格的な米国経済の復活そして相場の続伸と読む向きもあるが、いずれドル高への懸念、金融危機再発の恐れ、安全保障体制への不安などが浮上し、相場の揺らぎがもたらされるのではないだろうか。

<グローバリゼーションの正念場>

2016年を総括するにはまだ少し早い気もするが、結局、今年は英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)と米大統領選の1年だったと言えよう。

これら政治キャンペーンの行方をめぐって市場は大きく揺れたが、ブレグジットとトランプ氏勝利が共通して持つ意味は、戦後70年間続いたヒト・モノ・カネの移動を自由にするグローバリゼーションとエリート主導の既成政治が大きな曲がり角に立ったということだろう。つまり、欧米先導の国際政治・経済システムが足元から大きく揺さぶられている。

そもそも自由貿易主義の利点は重商主義を批判したアダム・スミスに始まり、国際分業のメリットなどを説いたデビッド・リカードら多くの経済学者によって研究されてきた。そして、このような学問的な裏付けに加え、1930年代のブロック経済が第2次世界大戦の原因の1つになったとの猛省から、戦後の自由貿易体制は整備されていった。

近年で特に大きな原動力となったのは1980年代にサッチャー英首相とレーガン米大統領が進めた規制緩和と一体化した新自由主義的な政策だ。その流れの中で、欧州ではEU統合が進み、アジアでは「世界の工場」である中国を軸に国際分業体制の構築が図られた。

もともと自由貿易の追求は、国内で弊害が生じる点が指摘されていたため、産業保護などの手当てが各国で打たれてきた。しかしここにきて、世界では格差が進行し、過去20年で所得を増やしたのは富裕層と新興国の中間層のみと言われる時代に突入した。米英の労働者層ですらグローバリゼーションの恩恵を感じにくくなっており、格差と移民問題への不満はもはや許容範囲を超えたということだろう。

特に自由貿易を推進してきた英国では「国民国家」回帰への熱望(その裏側で高まるEUやドイツへの反感)がブレグジットへと国を動かした。また、米国でも中国からの輸入増大により100万人単位で雇用が失われたと言われるなど、白人貧困層の不満の声が高まった。

つまり、仏歴史学者のエマニュエル・トッド氏の言う「グローバリゼーション・ファティーグ(疲労)」が蔓延しているというのが現在の先進国の実情だろう。

<中国主導の新パラダイム到来か>

世界が高度成長を享受していたときならいざ知らず、現在は未曽有の金融緩和を推し進めても経済停滞を回避できなくなっている。この環境下、米国民の負託を受けたトランプ次期大統領は、環太平洋連携協定(TPP)を葬り去り、そして1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)も狙い撃ちにしようとしている。その結果、メキシコに進出した自動車産業に対して高率の輸入関税がかけられるのではないかとの憶測も飛び交う状況に至っている。

つまり、保護主義の台頭に伴い、各国の報復関税が横行し、加えてアンチダンピング(不当廉売)措置の連発など最悪のスパイラルが展開される恐れが高まっているのだ。

現在の反グローバリゼーションの遠因は、中国の低コスト労働力だったと言っても良いだろう。これは、日本にデフレ不況をもたらし、米国において白人の低所得者層を苦しめた。このような状況を踏まえて国際貿易システムの再構築が図られていたのだが、今後、反グローバリゼーションの潮流の中でその先行きは見通しにくい。

そもそもオバマ米大統領のTPP構想の狙いは中国に対抗する経済圏の確立だったが、同構想の頓挫が確実となった現在、中国の経済圏が今まで以上に拡大する可能性は高まった。それを推し進める役割を果たすのが東アジア地域包括的経済連携(RCEP)だろう。

RCEPは、東南アジア諸国連合(ASEAN)を核として、日中韓印などのアジア主要国、さらにオーストラリア、ニュージーランドなどオセアニア諸国も参加する巨大経済圏構想である。これまではTPPの動向をにらみ、交渉が遅れていたが、トランプ次期大統領の離脱宣言でTPPが漂流すれば、一気に進み出す可能性がある。今後、RCEPはアジア経済圏の拡大と深化に貢献するだけでなく、中国をリーダーとする新興国主導の国際秩序構築を目指す試みの中心となっていく可能性が高い。

こうした中、米国が「AMERICA FIRST(米国第一主義)」を主張し、保護主義色を強めれば、世界はより早く米国一極集中体制から中国をリーダーとした新興国主体の新たなパラダイムへと移行していくことになる。その歴史的な分岐点が2016年だったと将来回想されるのではないだろうか。トランプラリーは、そうした新時代が訪れる前に咲いた「あだ花」なのかもしれない。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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