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コラム:欧州復権の芽、ユーロ高・円高を示唆か=斉藤洋二氏
2017年6月29日 / 09:35 / 3ヶ月前

コラム:欧州復権の芽、ユーロ高・円高を示唆か=斉藤洋二氏

[東京 29日] - 欧州連合(EU)の原点となった「ローマ条約」調印から今年で60年。加盟国は28カ国に膨れ上がったものの、拡大を急いだツケが近年、一気に表面化している印象が強い。

昨年6月の国民投票で下された英国のEU離脱(ブレグジット)選択はその象徴的な出来事と言えようが、より本質的な問題は、ドイツが経済力で突出する中で、域内の経済格差が一層広がっていることに加え、移民・難民問題を巡る軋轢が示すように、加盟国間(加えて加盟国内の政治勢力間)で統合深化に向けた姿勢の違いが鮮明化してきていることだろう。

今年3月には、イタリア・ローマで開かれたEU首脳会議に合わせて、ローマ法王が各国首脳をバチカンに招いて演説し、反移民を掲げるポピュリズム(大衆迎合主義)や極右勢力などへの懸念を示しつつ、EUが方向性を見失い、新たな将来像を描けないとなれば「長期的には死を迎えるリスクがある」と強い調子で結束を呼び掛けた。

だが、1957年に発足した欧州経済共同体(EEC)の原加盟国が6カ国(西ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)だったことに比べれば、南欧・北欧・中東欧の大部分を網羅するに至った今のEUは途方もなく巨大で、意思統一は難しくなっているのが実情だ。

背景には、強大な官僚機構と化したブリュッセル(EU本部)に対する反発もあることはよく指摘されている。EU設立条約であるマーストリヒト条約(1992年調印、93年発効)を読むと、第F条に、民主主義の諸原則に基づく加盟国の国家としてのアイデンティティー(主体性)を尊重するとはっきり書かれてあるが、現実にはEU官僚が独仏など中核国の意向をくみ上げ、多くの加盟国の頭越しに決定を下す「超国家」的な存在となっている。

域内の小国を中心に、不満が噴出するのも無理のない状況だ。3月のEU首脳会議で英国を除く加盟27カ国が採択した「ローマ宣言」に、一部の国が統合深化を先導するというマルチスピード構想が盛り込まれた背景には、こうした「現実」があるのだろう。

とはいえ、現実に即したはずの、このマルチスピード構想に対しては、置いてけぼりとなりかねないポーランドやハンガリーなどが補助金の削減を懸念してか、異論を唱えている。英国が離脱すれば、EUが加盟国に割り当てられる資金が単純計算で約6分の1減ることも、これらの国々の不安をあおっているようだ。

一方、EUにとっての懸念材料は、ブレグジットに触発される国が出てくることである。というのも、ブレグジット選択から1年が経過し、英国にはさまざまな悪影響が出始めているものの、経済の下振れはこれまでのところ意外と軽微であり、EU離脱のデメリットは小さく見える。つまり、単一市場へのアクセスを失っても、移民・難民の流入を抑制できることをメリットとして捉えるならば、英国に倣う動きが加速してもおかしくないのだ。

<統合再始動へ独仏に良い兆候>

では、今度こそEUは空中分解の危機にあるのだろうか。鍵を握るのは、いわずもがな、欧州統合をけん引してきた独仏2カ国の意向だろう。

結論から言えば、筆者は、EUの行く末をさほど心配していない。単に過去の危機を何度も乗り越えてきたからというわけではない。独仏ともに、良い方向に変化がみられるからだ。

周知の通り、フランスでは6月の国民議会選挙で欧州統合推進論者のマクロン大統領が率いる新党「共和国前進」が過半数の議席を確保し、圧勝。その政治手腕が発揮される準備が整った。

一方、連邦議会選挙を9月に控えるドイツでも、反EUの極端なポピュリズムや極右勢力は以前の勢いを失いつつある。世論調査によれば、メルケル首相率いる保守系与党連合、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が支持率で着実にリードを拡大している。

また、独政権内で、経済一人勝ちの負の側面に対する認識が高まっている点も、良い兆候だ。内需不足を問題視するメルケル首相はじめ政府高官の最近の発言には、ドイツとその他加盟国との経済格差拡大によってEUに対する不満が強まることへの警戒感がにじんでいる。内需主導の成長で膨大な貿易収支黒字を圧縮し、EU域内の格差是正を進めるという、ドイツに課された重大な責務をいよいよ果たすことが期待される。

振り返れば、欧州統合をさらなる高みへと持ち上げた通貨統合に際してドロール氏とともに推進役を務めたのが故ミッテラン元仏大統領であり、その構想に全面的に手を貸したのがこの6月に死去したコール元独首相だった。

今回は、仏大統領であるマクロン氏が、ユーロ圏の統合深化を目指したEU改革を進める可能性を示唆している。例えば、ユーロ圏で将来的に共通予算を創設し、共同債を発行する可能性などだ。こうした構想に、かつてコール氏に政治家として見いだされ、「コールの娘」とまで呼ばれたメルケル氏がどう応えていくのかが注目される。

<ユーロ高ドル安で円安再始動は期待薄>

さて、このような環境下、欧州では景気回復や失業率の改善傾向がみられる。そして、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和の縮小(テーパリング)開始を視野に入れつつあり、ユーロ安政策からの決別へと歩を進めることになりそうだ。

つまり、欧州悲観論とECBによるユーロ安政策が加わり、ユーロドルは2008年の1.60ドル台から16年には1.03ドル台までユーロ安が進んだ。しかし、現在は底値をみた後、1.13―1.14ドル台へと強含んでおり、今後は半値戻しの水準である1.30ドル方向へとさらにユーロ高が進む可能性がある。

為替市場の取引高においてユーロドルの通貨ペアは圧倒的シェアを占めており、ユーロ高は全般的なドル安の流れを促す公算が大きいだろう。

そして、肝心要の米国ではトランプ政権によるインフラ投資への期待がしぼみつつあり、長期金利は2.1―2.2%台で低迷したままだ。また、貿易赤字は米国の損失だと考えるトランプ政権の不満が収まったわけでもない。それだけに今後も中国、ドイツ、日本は通商や為替面において米国の圧力を受け続けることになるのではないだろうか。

これらの結果としてドル円相場も年初の118円台から大きく下げ、110―112円水準での攻防となっているが、今後も円安方向への戻りは鈍くなりそうだ。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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