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コラム:五輪では克服できない日本経済3つの壁=斉藤洋二氏
2016年8月26日 / 03:02 / 1年前

コラム:五輪では克服できない日本経済3つの壁=斉藤洋二氏

[東京 26日] - リオ五輪も終わり、いよいよ4年後の東京五輪に向けて日本は動き出した。半世紀前の東京五輪では開催前から東海道新幹線はじめ発電所、製鉄所、高速道路といった31に上るインフラ投資が世界銀行のファイナンスなどにより進められた。おかげで日本は高度成長へとスムーズに離陸することとなった。

その後の日本経済は1980年代半ば以降の円高を受けて上昇力が低下し、過去四半世紀の実質国内総生産(GDP)成長率は年平均で1%に満たない。この長期停滞からの脱却に向けて、前回同様に五輪を起爆剤にしようと政府は拡張的な財政政策を企図しているが、果たしてその効果は期待できるだろうか。

2012年末に安倍政権が発足して以来、アベノミクス3本の矢、そして新3本の矢が放たれたが、その効果は円安・株高などに限定され、しかも一時的に過ぎないとの見方がもっぱらだ。日本経済はデフレスパイラルから脱しておらず、個人消費も設備投資も盛り上がらない。安倍政権は8月、事業規模28.1兆円に上る経済対策を打ち出したが、金融市場にほとんど動意はなく、その反応は冷めたものとなっている。

経済対策は「未来への投資」を掲げ、リニア新幹線大阪延伸の前倒しなどを盛り込んだが、その実態は旧来型の公共投資であり、バラマキであることは明白だ。公共投資はしょせん、需要の先食いに過ぎず、その経済効果は一過性のものである。五輪特需の再来を目指した大型投資はかつての高度成長期ならいざ知らず、社会が成熟し同時にデフレ圧力に苦しむ日本経済を救済できるかは、はなはだ疑問と言わざるを得ない。

<「人口減」「中国」「円高」の克服>

さて、日本を覆うデフレ不況の背景として「人口減」「中国」「円高」の3点を挙げることができるが、これらの原因の克服こそが経済活性化の条件であり、その道のりは厳しいものとなるだろう。

まず人口については、生産年齢人口と総人口がそれぞれ1995年と2008年をピークに、減少局面に突入している。この影響を受けて、国内消費市場の縮小が進むことが予測されるが、「人口動態は宿命」と言われるように、この事実から逃れようはないだろう。今後40年余りで人口が3割程度減少するとの予測を正視して日本の向かうべき道を見定め、企業活動の方向性を考えねばならない。

人口オーナス期(少子高齢化の進展で生産年齢人口が減少する状態)に入った成熟社会で取られるべき経済対策は、人口ボーナス期(生産年齢人口が多い状態)の成長社会において有効とされた需要不足を補う公共事業などではない。つまり、医療や介護といった分野の潜在需要を顕在化させる一方で供給構造の転換を図ると同時に、技術革新を目指すことこそが労働生産性を高める施策となる。

そして、日本が乗り越えねばならない2つめの課題は、1990年代以降「世界の工場」へと発展し、陰に陽に日本経済に大きな影響を与えた「中国」である。その成長ぶりは巨大な生産地と消費市場が突如、近隣に出現し、日本の経済システムをのみ込んだと形容しても過言ではない。

この時期に国際分業体制が世界的に定着したが、日本からも半導体や自動車など多くの産業が国内生産から労働コストの安い「世界の工場」へとシフトした。そして、基幹部品の輸出・最終製品の輸入という形で日本海を挟んで物流を活発化させた結果、安い製品が日本に流入し、日本経済は直接的・間接的に中国の安い労働力の影響にさらされることになった。

とはいえ、中国の高度成長もすでに30年を超え、労働コスト上昇など矛盾も顕現化し、経済発展も曲がり角に来ていることから、中国による日本経済への圧力もこれまでに比べれば縮小する可能性を見逃せない。

実際、中国では中間層が成長し消費市場が拡大していることから、日本の対中関係はサービス分野での広がりが期待される。この結果、これまでデフレ要因として負の側面ばかりが強調されがちだった「中国」がビジネスチャンスへと転じる可能性が高まった点は特筆されよう。

そして、日本のデフレ不況の3番目の要因である「円高」。1990年代半ばの1ドル80円割れや2011―12年の同70円台と円高が進むたびに日本企業はアジアでの競争力低下に悩まされ、またその対応として慎重な経営を余儀なくされてきた。

円高を受けて始まった生産拠点の海外シフトは中国の躍進さらに東日本大震災で拍車がかかり、現在の海外生産比率は製造業で25%水準に接近している。つまり、「円高」と「中国」が日本企業に安全志向を植えつけた結果、企業活力を削ぐこととなった。

<アニマルスピリッツの回復>

これまで述べてきたように「人口減」「中国」「円高」という三大リスクを抱えてデフレマインドにとらわれた日本企業は、今後どのような成長戦略を描くことができるだろうか。

ドイツでは2012年以来、産官学の連携により「インダストリー4.0(第4次産業革命)」が進められている。これは生産工程のデジタル化や自動化を大幅に進め、コスト削減とモノづくりの高度化を実現しようというものである。

日本政府も米国やインドの後塵を拝しつつもドイツにならい、AI(人工知能)やロボット、IoT(モノのインターネット)を活用したビジネス創出を支援することで民間投資の呼び水にしようとしている。果たして企業はそれに応えて、研究開発に本腰を入れ、技術革新への挑戦意欲を取り戻すだろうか。

ちなみに、日本企業は今も、デフレスパイラルの下、投資活動を先送りしている。日本企業の内部留保はすでに300兆円を超えている。内部留保は本来、再投資に回されるべきであり、手元に置くだけではただの遊休資本に過ぎない。

これまでの日本企業はデフレ圧力下で研究投資を削減し、設備投資を先送りしては内部留保を膨らませてきた。成熟社会において日本が経済成長を目指し、また企業が海外の下請け化から逃れるためにも技術革新への種まきを行うことは優先課題と言えるだろう。

一方、世界経済のグローバル化が定着し、東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなどアジア経済が急速な成長過程に入った現在、「内向き化」は日本にとって選択肢になり得ず「共生」がキーワードとなる。実際、国内需要の停滞、労働コストの格差、さらには円高対応なども勘案すれば、海外シフトの流れを反転させることはできない。

デフレ環境下において日本の企業経営者は今こそ「アニマルスピリッツ」を取り戻し、これまでのコスト圧縮最優先から高付加価値型の経営を目指した投資を行う時だろう。つまり、成熟社会における企業は、内部留保を原資として「研究投資」「工場のデジタル化」「海外の生産拠点づくり」により企業価値の増大を図るべきであり、その結果として労働生産性の向上を通じ、日本経済の再生がもたらされるのではないだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。()

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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