Reuters logo
コラム:米大統領選後の円高濃厚、来年90円台か=斉藤洋二氏
2016年10月21日 / 07:46 / 1年前

コラム:米大統領選後の円高濃厚、来年90円台か=斉藤洋二氏

[東京 21日] - 11月8日の米大統領選まであと20日を切った。民主党のヒラリー・クリントン候補と共和党のドナルド・トランプ候補は3度にわたるテレビ討論会を終え、主要世論調査ではクリントン氏が支持率で10ポイント超リードしたまま最終盤に入った。

アイオワ大学が運営する「大統領選先物」や合法のオンライン賭けサイト「プレディクトイット」などではクリントン氏勝利の確率は80―90%を超えており、「トランプリスク」もすっかり薄れたと言って良さそうだ。

これまでトランプ氏勝利の場合に予想されるメキシコ・中国・日本などへの強硬政策を懸念し、市場にはリスクオフ・ムードが高かったが、今やその重しから解放されつつある。さらに、原油価格や米金利の上昇期待を受けてドル円相場は9月下旬の100円台から104円台まで反転上昇し、その後も断続的に上値をうかがう展開となっている。

果たして足元のリスクオンは続き、円安相場の本格的な再始動となるのか。それとも腰折れしてボックス圏入りするのか。筆者の予想をまずお伝えすれば、市場はすでにクリントン氏勝利や年内の米利上げをかなり織り込んでおり、トランプ氏敗退が確定したところで若干のドル高に振れる程度にとどまるのではないだろうか。

市場の関心は急速に大統領選後に移りつつあり、中長期的には新大統領の下で保護主義が進みドル安政策が志向される可能性が高いと考える。

<根深い「ABCDリスク」>

市場は10月以降、リスクオンへと傾斜しているが、一方で「ABCDリスク」と言われるように、「A(アメリカの利上げ)」「B(ブレグジット懸念)」「C(チャイナリスク)」「D(ドイツ銀行はじめユーロ圏金融機関の経営懸念)」の不確定要因に取り囲まれたままだ。

まずAについて、米利上げは12月が濃厚となってきた。金融緩和が長期にわたった後だけに金融正常化に向けて2015年12月に続く利上げの影響は世界の隅々にまで及ぶことは必至だ。1994年の米利上げ局面でもメキシコ通貨危機(テキーラショック)が発生し、回り回って超円高がもたらされた。このように米利上げによる国際金融市場への波及経路は見通せず、隠れたリスクがどこでどのような形で顕現化するか注視が必要だ。

さらにBについては、英国がリスボン条約に基づく欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)通知を行う以前の段階ながら、欧州単一市場へのアクセスを失う「ハード(強硬な)ブレグジット」となることを嫌い英ポンドは急落している。

皮肉なことに通貨安で株価が上がるなど目下のところ国内経済への好影響として歓迎されている面もあるが、英国の経済価値が減少するなど大きな爪痕を残すことは必至であり、さらにはEUおよび世界の金融市場に悪影響を及ぼす懸念は拭えない。

そしてCについては、10月24日から27日まで開かれる「六中全会」(中国共産党第18期中央委員会第6回全体会議)の成り行きが注目される。

2016年の成長率は6%台後半の目標を達成すると共産党も国務院も強調しているが、ゾンビ企業が横行する中で同国の過剰債務は肥大化している。また、輸出入合計の貿易総額も9月統計では6.6%(輸出額では10%)もの減少を示し、不動産バブルも警戒水域にあるなど、いつなんどき経済の綻(ほころ)びが表面化するとも限らない。

最後のDについては、ドイツ銀行は米司法省との和解金交渉がいまだ決着していないが、株価は反発し市場は一息ついている。とはいえ、欧州ではモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナをはじめとするイタリアの銀行の経営悪化と株価低迷が続いている。そのイタリアでは12月4日に、上院改革に関連する憲法改革案の是非を問う国民投票が実施される。その結果次第では、政治と金融機関の不安定さが共振する可能性を否定できない。

以上のようにABCDリスクの根深さを考えると、市場が冷水を浴びせられる可能性は、依然として高いと思われる。

<ドル円の鍵を握る原油相場>

では、今後の円相場を決定する材料を整理しておこう。まず為替需給だ。

8月の日本の経常収支は2兆0008億円の黒字となり、2014年7月から26カ月連続で黒字を確保した。原油価格下落で貿易収支が黒字化したことなどから経常収支の黒字基調は続いており、今年の黒字額は2015年(16.4兆円)を上回る見通しだ。このドル余剰感が年初来の円高を後押ししており、目下のところ変化の兆しはない。

したがって、今後の需給を左右するのは原油価格の動向だろう。石油輸出国機構(OPEC)による増産凍結合意やロシアの協調減産に対する前向きな姿勢を反映し、原油価格に先高観が醸成されつつあるように見受けられる。しかし、このような減産枠組みが実効化されるかどうかは現状不透明であり、ひとまず11月のOPEC総会を見守る必要があるだろう。

続いて注目されるのは年金をはじめとする大手機関投資家の動向だ。ドル円が下落し、100円割れをうかがうたびに大口の円売りが観測されている。それはまさに「介入もどき」とも称せられるが、今後も円上昇局面では様々な外債・外株投資がらみの円売りが出るものと予想される。

ただし、その影響はポートフォリオリバランスが進んだ現状では限定的であり、一過性の相場かく乱要因にとどまるだろう。ちなみに、日本政府の高官が執拗に繰り返す「口先介入」にすら米財務省は不満を示していることからも、今後もよほどの円急騰を含む金融市場の混乱が発生しない限り介入実施は難しいだろう。

なお、第3の材料である日銀の金融緩和政策については、9月の「総括的な検証」後に、その柱を「量」から未知の領域である「長期金利操作」へと転換した。換言すれば、これまでの期待に働きかけることによる通貨安誘導の限界性が確認されたわけであり、日銀の為替市場での存在感は今後、一段と低下することになるだろう。

したがって、レームダック化がささやかれ始めた黒田日銀が、初期のような円安・株高を再現させるようなことはもはやないと考えて良さそうだ。

以上述べてきたように原油価格の急上昇により為替需給のタイト感が創出されない限り、一方向の円安は読みにくい。当面のドル円相場は100―106円でのボックス圏で推移し、次の段階ではブレグジット直後につけた98円台の下抜けを目指し、さらに2017年は90円台定着に至るのではないだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。    

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below