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コラム:データが示唆する「逆リーマンショック」=重見吉徳氏
2016年11月22日 / 04:04 / 10ヶ月前

コラム:データが示唆する「逆リーマンショック」=重見吉徳氏

[東京 22日] - ドナルド・トランプ氏の米大統領選挙での勝利は、データ上は「逆リーマンショック」もしくは「上向きのブラックスワン」と考えられる。まずはこの点について、できる限り簡単に見ていく。

11月9日は、開票が進んだ東京市場での値動きは非常に大きかったものの、ロンドンやニューヨーク市場は比較的小動きだった。例えば、ドル円相場は東京時間の午前中に1ドル=105.47円の高値を付けた後、昼前に急落し、午後に入って101.20円の安値を付ける。その後、ロンドン市場で値を戻し、ニューヨーク市場での値幅は104.17円から105.89円の2円に満たない動きだった。

24時間取引されているS&P500指数先物もドル円相場と同様の動きであり、変化率で見ると11月9日の日中高値と安値の値幅はプラス6.8%、前日比ではプラス1.2%だった。

このプラス6.8%という日中値幅は、データをさかのぼることができる1982年4月22日以降では、全9022サンプル中、57番目の大きさである。しかし、この「57」のサンプル中には、11月9日のような「大幅上昇もしくは大幅反発」ばかりでなく、1987年10月19日のブラックマンデー当日のような「大幅下落もしくは大幅反落」の日も含む。そのため、「57」のサンプルから、前日から下落した日を取り除くと、「26」になる。

つまり、この「26」のサンプルは、日中のうちに、景況感を大きく改善させるようなポジティブな材料が表れた日と考えられる。ここで、「過剰反応」というマーケットの常に照らして、1つの仮説を立てると、そうした「大幅上昇もしくは大幅反発」の直前には、「大幅下落」が生じていた可能性が考えられる。データはこの仮説を裏付ける。

「26」のサンプルのうち、今回を除く「25」は、その直前の時期に、金融危機や株式市場の大幅下落を経験している。例えば、ブラックマンデーやブルーフライデー(1980年代のジャンクボンドやLBOブームの終わり)、アジア通貨危機、ロシア・LTCM危機、ITバブル崩壊からエンロンやワールドコムの不正会計へと続く弱気相場の最終局面、リーマンショック、米国債格下げなどである。

一方、11月9日はその直前に「大幅下落」を経験していない。もちろん、その当日に「大幅下落」が生じたと考えるほうが適切かもしれないが、いずれにせよ、「こんなに下げが続いて、大幅に割安な状態なのだから、そろそろ上げるはず」と、反発を想定しながら取引をしている状況とは全く異なる。

金融危機など「(下向きの)ブラックスワン」が生じることはマーケットの常である。今回の局面は、それとは対照的に、まさに何の前触れもなく上向きのショックが生じたと言える。まさに、データをさかのぼることができる1982年4月22日以来、初めての「逆リーマンショック」もしくは「上向きのブラックスワン」とも呼べる出来事だった。日中値幅を無視して、過去の上向きのショックを考えると、最近では、安倍政権の誕生や日銀の量的・質的金融緩和(QQE)導入が挙げられるかもしれない。

<決して「いいとこ取り」ではない>

ただし、「上向きのブラックスワン」といっても、筆者はトランプ大統領の誕生を、楽観も悲観もしていない。今回の「トランプ相場」のポイントは、楽観のために価格が上昇している資産クラスもあれば、懸念のために価格が下落している資産クラスもあるということだろう。決して「いいとこ取り」ではない。

上がる資産もあれば下がる資産もあるという状況は、過剰な流動性やリスクテークが取り払われ、金融市場が正常化の方向に向かっている兆しである。リーマンショック以降、これまで「低金利の継続期待でリスク資産が買われる」という金融相場が続いてきた。

今年も、英国の欧州連合(EU)離脱決定(ブレグジット)を受けて、日欧では追加の金融緩和期待が高まり、米国の利上げ期待は遠のく中、米国の長期金利が過去最低水準を更新し、米国の株式や不動産投資信託(REIT)は過去最高値を更新した。いわば、当時は債券と株のどっちを見ても買えないような割高な状態だった。

思考実験をしてみると、仮に事前の予想どおり、「トランプ氏の勝利で大幅なリスクオフ」そして「米国の利上げが遠のき、金融相場で何でも買われる」というブレグジットの二の舞になっていたら、買われるときは(国債を含め)すべての資産が買われ、売られるときはすべての資産が売られるという金融市場の不安定性継続につながっていた可能性がある。トランプ氏の勝利が「同氏が何をするか分からない」という不確実性を含め、金融市場の過剰なリスクテークを終わらせたのであれば、それは評価に値する。

米国が利上げを開始し、日欧でも来年にはテーパリング(債券買い入れの縮小)が想定されるという巨大金融緩和の転換点を迎えている中、トランプ氏の大統領選挙での勝利はそのトレンドを後押しする出来事だったと考えられる。

<逆リーマンショックはどこまで続くか>

このショックはいつまで金融市場や実体経済に影響を残すだろうか。現時点では誰にも何も言えるはずがないが、ポイントは、完全雇用に近い米国経済の状況とドル高、さらには米連邦準備理事会(FRB)の政策反応に集約されるだろう。今回と同様に上向きのショックだったアベノミクスが長続きした理由は、雇用と円安と金融政策に拡大の余地があったためだろう。

ただし、我々は、貿易のない閉鎖経済ではなく、国際経済で生きている。このため、完全雇用下の財政出動による米国の総需要押し上げやドル高が、米国の輸入拡大として漏出し、米国以外の生産拡大を後押しする可能性が考えられる。

この点、1つの参考になるのは、前回2014年7月からのドル高局面である。世界全体の鉱工業生産は、14年6月時点には前年比で3.5%の伸びを示していたが、15年10月時点では伸びが同2.0%にまで鈍化している(6カ月移動平均値、オランダ経済政策分析局のデータより筆者が算出)。しかも、その内訳として、先進国と新興国、米国と米国を除く先進国、新興アジアなどいずれのセグメントを取っても生産の伸びが鈍化している。

現在、ドルの平均レートは指数によって2012―14年来の高値であり、いずれも当時の水準を超えている。イエレンFRB議長は17日の議会公聴会で、完全雇用下の財政出動に対し、金融政策は「考慮する」と述べ、高圧経済というよりも、適切に利上げで反応する姿勢を示唆した。いずれも、過剰な期待は禁物との示唆だろう。

*重見吉徳氏は、J.P.モルガン・アセット・マネジメントの日本におけるグローバル・マーケット・ストラテジストで、エグゼクティブ・ディレクター。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了後、農林中央金庫にて、外国証券・外国為替・デリバティブ等の会計・決済事務および外国債券・デリバティブ等の投資業務に従事。その後、野村アセットマネジメントの東京・シンガポール両拠点において、グローバル債券の運用およびプロダクトマネジメントに従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年3月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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