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コラム:国際政策協調、同時ゼロ金利のすすめ=重見吉徳氏
2016年2月18日 / 07:13 / 2年前

コラム:国際政策協調、同時ゼロ金利のすすめ=重見吉徳氏

[東京 18日] - 今月下旬に上海で開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を前に、多方面から政策協調を求める声が上がっている。しかし、新しい政策協調など必要ない。なぜならば、すでに政策協調の枠組みがあり、主要国は長年これを実施してきたからである。

それは「プラザ合意」や「ルーブル合意」といった一時的な協調ではなく、認識されざる永続的な協調である。

ここ1年余りにわたって、そうした協調から離脱する国が出ているために、金融市場が混乱していると考えられる。離脱は、当局者自身がその協調について感知していないことの表れかもしれない。

そのような協調の存在を仮定し、そこからの離脱を考えれば、なぜ世界景気が鈍化し、米国の利上げが困難に見え、緩和競争との批判が高まっているのかについても、すべて説明することができる。

<認識されざる政策協調>

教科書で「国際金融のトリレンマ」の解説を見ると、「自由な資本移動」と「独立した金融政策」を目指す結果、「為替相場の安定」をあきらめている国(つまり変動相場制を採用する国)の例として、米国が挙げられる。本当にそうだろうか。

この問いを言い換えると、次のようになる。なぜ世界景気が鈍化し、米国の利上げが困難に見え、緩和競争の色彩が強まっているのか。

それは、トリレンマに戻れば、各国が「自由な資本移動」と「為替相場の安定」(実際には「物価の安定」)を目指す結果、「独立した金融政策」を失っているためだと考えられる。逆に言えば、各国は金融政策で政策協調を行っているのだ。

この仮説の下に、最近そうした協調から離脱する国が出ていると考えれば、先に述べた最近の事象はすべて説明できる。

過去、日米欧の金融政策の方向性が最後に異なったのは、1994年だ。95年以降、最近までは、日米欧の政策金利の方向性は時間差こそあれ、同じだった。米国が利上げをすれば、やがて欧州や日本が追随し、利下げについても同様だった。つまり結果だけを見れば、金融政策で政策協調が行われていたと言え、極論すれば各国は独立した金融政策を放棄していたとも言い換えられる。

しかし、おそらくは特に経済規模で世界1位と2位の米中の当局者にそうした認識がないため、これら2国は世界経済の総需要が低迷して協調緩和が必要なときに引き締めを行っているのだろう。つまり、トリレンマと金融政策に関する国際協調の仮説の正否は、主要国の金融政策にかい離が見られる今になって、ようやく検証されていると言える。

<世界経済が1つと仮定して見えること>

例を挙げて考えてみよう。グローバリゼーションの結果、世界経済が統合され、1つだと仮定する。このとき、政策金利は1本になる。、各国間で金融政策が協調されている状態だ。さらにトリレンマを考えれば、金融政策協調の結果、為替レートは安定化する。

今、世界経済の総需要が鈍化しているとしよう。したがって、金融緩和が適切な政策対応であり、適切な政策協調になる。このとき、ある地域が利上げを行うと、平均化された政策金利(世界金利)は上昇し、世界経済の総需要は引き締め圧力を受ける。他地域がこれに適切な政策対応(最適反応)を実施するならば、総需要の抑制を防ぐために自分たちの政策金利を同時に引き下げることで世界金利を引き下げようと試みる。

結果、引き締めを行った地域の通貨は上昇し、景気は下押し圧力を受ける。これは、他地域(あるいは世界全体)の総需要の低迷に、「蟻(あり)地獄」的に引き込まれるような状況だ。

さらには、貯蓄と投資をバランスさせる自然利子率(実質均衡利子率)が大きなマイナス水準にまで落ち込んでいるとしよう。せめて各国がゼロ金利で協調することが望ましい状況だ。にもかかわらず、そこからゼロ以上に政策金利を引き上げる地域があれば、他国は世界金利をゼロに戻すために、マイナス金利を目指すことになる。結果、引き下げを行う地域は「緩和競争」の批判を受ける。

理論的に確認すれば、1)資本移動が自由であり、結果として、資本の実質収益率が等しくなり、2)期待インフレ率が同じならば、3)為替相場の期待変化率はゼロになる。つまり、自由な資本移動と為替相場の安定を望むならば、トリレンマから、独立した金融政策をあきらめることになる。

次に実証的に確認すれば、モノの自由な移動については、オランダ経済政策分析局のデータに基づけば、世界の鉱工業生産に対する世界の貿易の比率はデータの取得できる1991年以降、安定して上昇した。つまり、生産の拡大を上回る貿易の拡大が続いた。だが、この比率は2007年以降、最近まで、世界金融危機の局面を除けば、横ばいになっており、世界貿易の拡大は生産(実体経済)の拡大の範囲にとどまっている。中国を含む新興国はすでに世界経済に取り込まれてしまっている可能性がある。

次に、資本の実質収益率については、各国の10年国債利回りをコアインフレ率(食品及びエネルギーを除く総合)で実質化すると(日本はコアコア)、やはり実質金利は均等化しており、資本の移動は自由になっていることが確認できる(また、中国でも同国政府が資本の自由な移動を志向し、市場の力に委ねる中、資本流出が生じ、外貨準備が減少している)。

各国の期待インフレ率は同じとは言い難いが、現状、各国がほぼ共通した水準でインフレ目標を定めていることは明らかだ。したがって、モノと資本の自由な移動が進み、ほぼ共通のインフレ目標を有する限り、金融政策の協調は当然のことである。

<世界経済の現局面で必要なのは金融緩和>

では、現局面では、引き締めと緩和のどちらが適切なのか。それは緩和だ。世界の生産の伸び率は鈍化傾向にある。再びオランダ経済政策分析局のデータに基づけば、世界の生産の伸び率は2014年2月に前年同月比3.7%でピークを打ち、直近15年11月には1.2%まで鈍化している。

世界経済の成長鈍化は、実体経済の自然な循環や中国経済の構造調整もあろうが、米国と中国の引き締めが引き締めの効果を持つ裏側で、日本や欧州の量的緩和やマイナス金利政策が所期の効果を発揮できずにいることも大きいだろう。

中国の引き締めは意外ではない。中国人民銀行のバランスシートは外貨準備取り崩しによって縮小しており、特に生産者物価で実質化した1年物の貸出基準金利(つまり実質政策金利)は10%を超えている。さらに、人民元は強めに誘導されている。

過去を見れば、世界の生産の伸びと米国の金融政策の方向性は同じであり、今は緩和が必要な局面だ。

求められるのは、もとの政策協調の枠組みに戻ることだ。本来なら潜在成長率の違いを反映して政策金利の水準にも違いが生じるため、金融政策の方向性で協調することが適切なはずだ。だが、実質金利が大幅なマイナスと想定され、現金貨幣の退蔵にペナルティがつかない以上、主要国は「世界景気が明確に過熱するまで、ゼロ金利を維持する」ことで統一すべきだろう。理論的には、限界が意識される量的緩和も停止できるはずだ。

これをバラバラに行っては意味がない。例えば3月に米国が単独でゼロ金利に戻したとしても、金融市場は日欧に対しさらなる利下げを求めるのみだろう。それは際限のない緩和競争を呼ぶだけだ。同時にゼロに据え置くと表明することが重要である。

日欧にとっては、為替レートが短期的にオーバーシュートすることで不都合が生じるかもしれないが、やがて均衡する為替レートが各国にとって同程度に緩和的で、同程度に引き締め的な水準と考えられる。

*重見吉徳氏は、J.P.モルガン・アセット・マネジメントの日本におけるグローバル・マーケット・ストラテジストで、エグゼクティブ・ディレクター。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了後、農林中央金庫にて、外国証券・外国為替・デリバティブ等の会計・決済事務および外国債券・デリバティブ等の投資業務に従事。その後、野村アセットマネジメントの東京・シンガポール両拠点において、グローバル債券の運用およびプロダクトマネジメントに従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年3月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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