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コラム:ドル円下落誘う米FRBのタカ派姿勢=亀岡裕次氏
2017年6月30日 / 09:07 / 3ヶ月前

コラム:ドル円下落誘う米FRBのタカ派姿勢=亀岡裕次氏

[東京 30日] - 日米金利差とドル円には連動性がある。しかし、6月にかけて10年国債や5年国債の日米金利差が縮小したにもかかわらず、ドル円は4月中旬よりも上昇した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げを背景に日米2年国債金利差が4月中旬よりも拡大しているとはいえ、ほんのわずかな幅であり、これが原因とは考えにくい。

日米金利差と比べてドル円が上昇した原因として考えられることは、「米株価上昇」と「米実質金利上昇」である。

4月から6月にかけては、米株価指数が最高値を更新し続けた。こうした動きが、リスクオンの円安圧力として働いたとみられる。また、米10年国債金利や米5年国債金利の低下をもたらしたのは、期待インフレ率の低下であり、実質金利(名目金利-期待インフレ率)はむしろ上昇した。米名目金利低下が実質金利低下によるものならドル安になりやすいが、名目金利が低下しても実質金利が上昇したのでドル高になったとみられる。

原油などの商品安や米インフレ率低下が、期待インフレ率を低下させた。期待インフレ率低下のすべてが名目金利低下に反映されず、実質金利上昇の一因となった面もあるかもしれない。

また、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米国債などの再投資縮小計画を示したことが、欧州中銀(ECB)のドラギ総裁がデフレ圧力後退を宣言して量的緩和(QE)縮小を示唆し、独国債金利が上昇したように、国債需要減の懸念を通じて実質金利上昇の一因になった面も多分にあるだろう。

ただ、再投資縮小計画は明示されているので、量的引き締め期待が追加的には高まりにくく、実質金利はさらに大幅には上昇しにくいのではないか。もし米国の経済成長期待や利上げ期待が低下するようなら、実質金利は頭打ちとなりやすいだろう。

<年内追加利上げなしの可能性は>

6月のFOMC時点でメンバーの政策金利見通しは3月時点と大きくは変わらず、市場見通しに比べて「タカ派」のままだった。FOMC直前の米経済指標が弱かったために低下していた市場の利上げ期待は、それを受けて大幅に反発することはなかった。そして、その後に発表された米経済指標も弱めだったため、フェデラル・ファンド(FF)金利の先高観は一段と低下した。

しかし、27日にQE縮小を示唆するドラギECB総裁発言を受けて欧州金利が大幅に上昇したため、それが米国にも影響してFF金利の先高観はやや高まっている。

FOMCメンバーには、米経済が一時的減速から持ち直してインフレ率は2%へと回帰する可能性が高いので利上げを継続すべきとするメンバーがいる一方、米景気減速やインフレ率低下が一時的か否かを確認するまで追加利上げを見送るべきとするメンバーがいる。

現状は、前者が多数を占める。6月FOMC時点における2017年末の政策金利見通しは、追加利上げなしが4人、追加利上げ1回が8人、追加利上げ2回が4人だ。つまり、メンバーの75%(16人のうち12人)が年内の追加利上げを予想し、平均すると年内あと1回の追加利上げを予想している。現時点で年内1回の追加利上げ確率を60%程度と予想している市場の金利見通しが上方修正されるのか。それとも、FOMCメンバーの金利見通しが下方修正されるのか。

FOMCメンバーの最近の発言から、「年内追加利上げなし(ハト派)4人」「追加利上げ1回(中立派)8人」「追加利上げ2回(タカ派)4人」を推定すると、投票権を有するメンバー(現状9人)について言えば、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、エバンズ・シカゴ連銀総裁、カプラン・ダラス連銀総裁の3人が「ハト派」、イエレンFRB議長、フィッシャー副議長、パウエル理事、ブレイナード理事、ダドリー・NY連銀総裁、ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁の6人が「中立派」で、「タカ派」はいない(タカ派4人はいずれも投票権を有しないメンバー)とみられる。

年内追加利上げを支持する人の割合は、投票権を有するメンバーでみれば67%(9人のうち6人)で、全メンバー(16人)でみるよりもやや低い。もともとハト派とされるブレイナード理事は、6月FOMC時点では年内追加利上げ1回の中立派と目されるが、軟調なインフレ指標が継続するようであれば「個人的に利上げ想定を見直す可能性がある」と述べている。

投票メンバーのうち2人以上の「中立派」が「ハト派」へと宗旨替えすると、人数の上では中立派優勢からハト派優勢へと変化する。「年内追加利上げなし」となるハードルはさほど高くないと言える。米景気やインフレ指標の弱さが続くにつれて、中立派の姿勢がハト派へと変化し始め、市場の利上げ期待とともに実質金利が低下する可能性は十分にあるだろう。ただし、当局者の姿勢が変化するには、「株価」も鍵を握るとみられる。

<長期金利低下や株高を抑制する意図か>

米株価指数は6月中旬以降、伸び悩んでいる。米10年国債金利からS&P500株式益回りを差し引いたイールド・スプレッドは3月にピークアウトし、5月にいったんは反発したものの、再び頭打ちだ。

こうした動きは米経済指標と連動している。経済指標が市場予想を下回るケースが増え、企業景況感などがピークアウトしつつあることと符合する。ドラギECB総裁発言を受けて米長期金利が上昇すると、米株価は下落した。米株価のバリュエーションが高水準にある上、投資家のリスク許容度が頭打ちとなっているからだろう。

ダドリーNY連銀総裁は、株価の最高値更新や債券利回りの低下はFRBの引き締めに追い風と述べている。ウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁は、米株式市場の投資家はリスクに過度に無頓着の可能性があると述べている。そして、フィッシャーFRB副議長は、サブプライム自動車・学資ローン増大や滞納率上昇を懸念しているとし、イエレンFRB議長は、標準的な指標によれば一部の資産バリュエーションは幾分高いと思えると述べている。

多くの当局者は、資産バブルや負債拡大を懸念し、それを抑制する意図で「市場よりもタカ派」な利上げ見通しを示したり、バランスシートの縮小を開始すべきとしているのだろう。FRB議長は、我々はインフレについて一貫したストーリーを持っていないと述べている。当局者はインフレ上昇見通しに確信を持ちにくい状況にあるのだろうが、それでもタカ派姿勢を示すのは、長期金利低下や株価上昇を抑制する意図が強いからだろう。

米国の期待成長率とリスク許容度が下がり始めない限り、FRB当局者のタカ派姿勢は続くだろう。主要国中銀が連携するかのように、FRBに続き、ECB、英中銀、カナダ中銀の総裁が相次いで、緩和縮小や利上げの検討を示唆し始めた。当面、世界的に長期金利が下がりにくくなることにより、株価が頭打ちとなりやすいのではないか。

資産効果が頭打ちとなると、個人消費に減速圧力がかかる。そして、期待成長率とリスク許容度が低下し始め、長期金利が低下しても株価が下落しやすくなるだろう。そうなると、当局者がタカ派姿勢でいる必要性は薄れる。

FRBは9月にも保有債の再投資縮小を開始するだろうが、年内追加利上げについては見送る可能性もある。結局、米経済成長が伸び悩む中での金融引き締め姿勢は、リスクオフや日米金利差縮小を通じたドル円下落を招きやすくするだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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