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コラム:人民元安の再燃はあるか=亀岡裕次氏
2016年2月23日 / 07:14 / 2年前

コラム:人民元安の再燃はあるか=亀岡裕次氏

[東京 23日] - 今週、上海で20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。世界の需要押し上げに向け、「金融政策だけでなく財政政策を活用」「通貨の競争的な切り下げを回避」することで各国が協調姿勢を示すだろうが、それだけで市場マインドや世界経済を好転させることは難しいのではないか。

G20では、「為替はファンダメンタルズを反映して市場で決定されるべき」ことが再確認されるだろう。ここでは、世界金融市場の波乱を招いた人民元相場の行方について考えてみたい。

<中国が人民元を切り下げた理由は何か>

人民元安・中国株安のきっかけは、2015年8月11日に中国人民銀行が人民元対ドルの基準レートを引き下げたことにある。基準レートはそれまで市場レートに比べて1―2%ほど人民元高に設定されてきたが、同日の基準レートは市場レートの前日終値よりも0.3%ほど人民元安に設定された。そして、12日も13日も前日終値よりわずかながら人民元安の水準に基準レートが設定され、市場レートは3日間で6.21元から6.40元へと3%ほど人民元安が進んだ。

中国人民銀行は、「基準レートと市場レートの乖(かい)離の是正は基本的に完了」とした。人民元の特別引き出し権(SDR)採用をめぐり国際通貨基金(IMF)が問題視していた「かい離」の是正だけが、基準レート引き下げの理由だったのだろうか。3日連続で基準レートを市場レートよりも人民元安に設定したのは、市場レートを人民元安に誘導する狙いもあったのではないか。

その1年半ほど前の14年2月、人民元の対ドルレートは上昇から下落に転じていた。14年4―6月期には、経常収支(貿易収支+所得収支)や直接投資収支の黒字が続く一方で、その他の収支(いわゆるホットマネー)が黒字から赤字(資本流出)に転じた。中国からの資本流出による人民元安圧力が強まり、それを抑えるための当局のドル売り・人民元買い介入が増加し、14年7月には中国の外貨準備高が減少を始めた。

為替は14年1月の1ドル=6.04元から5月の6.26元へと人民元安が進んだ後、10月の6.11元へと人民元高が進んだが、この間、ホットマネーの流出幅と外貨準備高の減少幅が拡大した。つまり、国際収支面から人民元安圧力がかかり続け、当局の為替介入によって人民元安が抑えられていたのだ。ただし、為替介入による人民元安抑制を続ければ、外貨準備高の減少が続いてしまうので、当局がある程度は為替介入を減らして市場主導の人民元安を容認しようと、基準レートを引き下げたものとみられる。

<足元は円高やユーロ高とともに人民元高に>

さて、16年1月7日にかけて中国株式売り規制の解除観測を背景に株安・人民元安が急速に進んだ後、人民元は対ドルで反発した。1月8日の基準レートが市場レートの前日終値よりも0.4%以上高く設定され、急速な人民元安を抑制しようとする中国当局の姿勢が明確化したことが一因だ。

1月12日には当局がオフショア(香港)市場でも人民元買い介入を行ったとの観測から、オンショア(中国)市場に比べて0.10元ほど人民元安・ドル高の水準にあったオフショアレートがオンショアレート水準まで上昇した。ただし、16年1月の外貨準備高の前月比減少幅は、15年12月の1079億ドルに次ぐ994億ドルに上った。人民元の安定化は、大規模な為替介入に依存しており、外貨準備高の大幅減という犠牲を払っている。

中国外国為替取引システム(CFETS)は15年12月11日に、13カ国・地域の通貨バスケットに対する人民元指数の公表を始めた。ドルに対する為替レートだけではなく、通貨バスケットに対する実効為替レートを含めて人民元の動きを判断するためのものだ。16年2月前半には、通貨バスケットがドルに対して上昇し、人民元が通貨バスケットに対して下落した。通貨バスケットに対する人民元の為替に上昇余地が生まれたせいか、その後、人民元が対ドルで上昇した。

CFETSが導入した通貨バスケットに占めるユーロの比率は21.4%、円の比率は14.7%と、中国の貿易に占めるユーロ圏や日本の比率を大きく上回る。2月前半はリスクオフの下で円やユーロが対ドルで大幅に上昇したため、通貨バスケットが対ドルで上昇した。中国が導入した通貨バスケットはリスクオフ下でドルに対して上昇しやすく、通貨バスケットに対して人民元が下落しやすいのだ。

米連邦準備理事会(FRB)のドル実効為替指数(対主要7通貨)は16年2月前半、ユーロ高と円高の影響で下落した。リスクオフの下でドルの実効為替が下落し、人民元が対ドルで上昇したのだ。だが、短期的にそうなっても、リスクオフの下では人民元が対ドルで上昇しやすいと言い切ることはできないだろう。

<長期的にはリスクオフと人民元安が進む可能性>

長期的な視点で人民元をみると、通貨バスケットと人民元の間に違う関係性がみえてくる。10年から14年前半までは、ドルと他通貨の強弱に大きな変動はなく、人民元の対ドル指数と対通貨バスケット指数の動きに大差はなかった。しかし、14年半ば以降のドル高により、人民元の対ドル指数が下落する一方、人民元の対通貨バスケット指数が大幅に上昇した。

10年初めを100とすると、ドルに対する人民元指数は直近時点で105程度だが、CFETSの通貨バスケットに対する人民元指数は122程度と高水準にある。つまり、通貨バスケットに対し人民元高が進んだままなので、輸出競争力の回復のためには人民元安が進む必要がある。

なお、国際決済銀行(BIS)が貿易ウエイトなどで為替を加重平均した中国の実効為替指数は、10年1月を100とすると16年1月は127であり、CFETSの人民元指数よりも高い。しかも、BISの通貨バスケットはCFETSの通貨バスケットに比べ、ドルやユーロの比重が低い一方で、韓国、メキシコ、インド、その他新興国など、リスクオフで下落しやすい通貨を比較的多く含む。そのため、リスクオフになると、BISの人民元指数はCFETSの人民元指数よりも上昇しやすい。人民元の割高感が小さくなるまでは人民元が下落する余地が残っているとみるべきだろう。

短期的にはともかく、長期的には世界株価や原油価格の動向と人民元の対ドルレートに連動性が認められる。株高や原油高とともに人民元高・ドル安が進む傾向、株安や原油安とともに人民元安・ドル高が進む傾向にある。足元、為替はやや人民元高・ドル安に振れたものの、株価や原油価格の反発は限定的であり、リスクオンに転換したようにはみえない。リスク許容度や人民元相場の安定は一時的で、リスクオフと人民元安へと再び傾く可能性は大きいのではないか。

中国経済への懸念が残る限り、資本流出と人民元安圧力は続くとみられる。当局が為替介入で人民元安のペースをコントロールすることはできても、人民元安に完全に歯止めをかけることは難しいだろう。人民元相場の長期的動向を判断するうえでは、当局の為替介入の影響を受ける人民元相場の短期的動向よりも、国際収支フローを反映する外貨準備高の増減に注目すべきである。中国の外貨準備高が増加傾向に転じてこそ、資本流出と人民元圧力が弱まり始めたと言える。それまでは、リスクオフと人民元安の再燃に警戒が必要だろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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