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コラム:円高相場が見込む日銀緩和縮小=亀岡裕次氏
2016年9月28日 / 08:36 / 1年前

コラム:円高相場が見込む日銀緩和縮小=亀岡裕次氏

[東京 28日] - 9月の日銀金融政策発表直後は、円安・株高に振れる場面もあった。マイナス金利を深掘りしなかったこと、イールドカーブのフラット化を防ぐようにコントロールする方針を導入したことなどが、金融株にプラスに働き、リスクオンの株高・円安に作用したようだ。

また、消費者物価上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続するとしたこと、追加緩和手段に金利引き下げのほか、資産買い入れ拡大やマネタリーベース拡大ペースの加速を挙げたことが、追加緩和期待を誘って円安に作用したようだ。

<日銀政策変更の円高効果>

しかし、円安効果は限定的かつ一時的となり、ドル円はまもなく政策決定会合前の水準よりも円高に振れた。今後、世界的な景況感の振れによるリスク許容度の動きとともに、日銀金融政策に対する市場の見方が、円相場を左右することになりそうだ。

日銀は、2013年4月から金融市場調節の操作目標をマネタリーベースとしてきたが、新たな枠組みの中心は「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」となる。これにより、資産買い入れ(長期国債買い入れ)とマネタリーベース拡大のペースは流動的となる。

ポイントの1つは、イールドカーブの過度な低下とフラット化が金融機関収益と金融機能にマイナスとの認識が示されたことである。

日銀は総括的検証のなかで、「調達の主な手段である預金金利がマイナスとなりにくいため、イールドカーブが低い水準でフラット化する場合には、預貸金利鞘の縮小をもたらし、収益にマイナスの影響をもたらす」「預金残高が貸出残高を大幅に上回っていること(預金超過)、金融機関間の競争が長く続いたため、貸出等におけるクレジットスプレッドが既にきわめて低水準となっていることから、マイナス金利が金融機関の収益に与える影響が大きくなる傾向がある」としている。

<利下げや量拡大は困難>

黒田東彦日銀総裁は、追加緩和手段として、「短期政策金利の引き下げ」「長期金利操作目標の引き下げ」が中心になるとした。日銀がめどとする水準以下に長期金利が低下してイールドカーブがフラット化した場合に、短期政策金利を引き下げる可能性も出てくるが、預金金利にゼロ以下には下げられない「ゼロ金利制約」がある以上はマイナス金利幅の拡大は限られるだろう。

また、長期金利低下は年金・保険の運用利回りを悪化させてしまうので、日銀が意図的に長期金利操作目標を引き下げることも難しいだろう。

ポイントのもう1つは、資産買い入れが縮小する可能性が高まったことだ。日銀は10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう長期国債の買い入れを行う方針であり、既存の長期国債買い入れに、必要に応じて指値オペが加わる。

買い入れ額は当面、直近と同程度のペース(保有残高の増加額・年間約80兆円)をめどとする。もし長期金利が上昇すれば、金利上昇を抑制するために市場実勢よりも低い金利(高い価格)での指値オペを含め、国債買い入れが今よりも増える可能性がある。

しかし、世界的に景気減速懸念があり、長期金利が上昇しにくい環境にあるとみられる。一方、長期金利が低下すれば、金利低下を抑制するために国債買い入れが今よりも減る可能性がある。現状、世界的に長期金利は低下しやすい環境にあり、そうなる可能性が比較的高いだろう。

情勢次第では、社債買い入れの拡大や地方債・財投機関債の買い入れ導入など、資産買い入れ対象の拡充はあり得るが、おそらくは大規模な量的緩和拡大とはならず、質的緩和の範疇を出ないだろう。

日銀は追加緩和手段に、「資産買い入れ拡大」「(状況に応じて)マネタリーベース拡大の加速」を挙げているが、イールドカーブ・コントロールを優先する以上、経済環境が改善するなどして市場金利が上昇基調とならない限り、長期国債を中心とする資産買い入れの拡大とマネタリーベース拡大ペースの加速は考えにくい。むしろ、世界的に経済環境が悪化して長期金利が低下基調となるなかで、マネタリーベースの拡大ペースが減速しやすいだろう。

しかも、日銀は総括的検証のなかで、「これまでのところ、日本銀行の国債買入れの運営に特段の支障は生じていない。ただし、過去に例のない大規模な国債買入れを進めるもとで、国債市場の流動性や機能度がどのように変化するかについては、引き続き注意深く点検する必要がある」としている。日銀の国債買い入れ継続が、市場の流動性低下、機能低下、価格変動率上昇といった問題を強めることを示唆している。

また、黒田日銀総裁は政策決定会合後の記者会見で、市中に流通する国債残高が減るにしたがって、日銀の1単位の国債買い入れによる金利引き下げ効果は強くなる、と述べている。日銀が長期金利を引き下げようとするのでなく、維持しようとするのであれば、市場から買い入れる必要のある国債の量は次第に減っていくことになるわけだ。

<円高長期化の回避に何が必要か>

近年、日米金利差が一方向に大きく振れてこなかったなかで、円高・ドル安が大幅に進行してきた。円相場を左右してきたのは、内外金利差の動向よりも、日銀量的緩和への期待やリスク許容度の動向と言える。今後も、内外金利差の変動とそれが円相場に与える影響は限定的と予想される。日本の長短金利が低下しても小幅であり、金利低下による円安効果は乏しいのではないか。

物価上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続すると日銀がコミットしても、量的緩和期待の維持は困難ではないだろうか。現実的には資産買い入れを永続することはできず、いずれ資産買い入れの縮小は不可避との見方が円高に作用しやすいのではないか。

「金利」と「量」の両面で、日銀金融緩和に対する市場の期待は後退するだろう。国内金利低下による円安効果が乏しい一方で、量的緩和期待の後退が円高効果を持ち、量的緩和期待が後退しきるまで円高が続きやすいと考えられる。日本の長期金利が低下すると日銀による国債買い入れが減少しやすく、量的緩和縮小期待が円高を招いて長期金利低下(イールドカーブのフラット化)が進む可能性はある。長期金利低下と円高をコントロールしにくくなるリスクはあるだろう。

日銀は、「金融緩和強化」のための新しい枠組みとしている。しかし、日銀の政策変更は、長短金利操作を金融市場調節の中心に据えることで資産買い入れ規模を流動的なものとし、「量的緩和縮小への布石」とする狙いがあるのではないか。

米国では、中銀が量的緩和縮小を示唆したり、決定したりした直後には金利上昇や通貨高が進んだが、いざ量的緩和縮小が始まると金利上昇や通貨高は収まった。現実の政策動向よりも政策への「期待」が市場を左右する。

マネタリーベースの拡大とともに予想物価上昇率が上昇した2013年4月から14年夏にかけては、量的緩和拡大期待が円安を招いていた局面であり、15年夏以降のようにマネタリーベースが拡大しても量的緩和縮小期待が円高を招くと、予想物価上昇率は下がりやすい。

予想物価上昇率の引き上げには円安が不可欠である。物価安定目標の実現までマネタリーベースの拡大方針を継続するとして量的緩和期待を維持しようとするよりも、マネタリーベースの拡大を縮小して量的緩和期待を後退させつつ、政策の持続性を高める方が、円高は短期的には進んでも長期化しにくく、予想物価上昇率引き上げの近道になるのではないか。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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