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コラム:米FRB巡る誤解、早晩解消でドル高へ=池田雄之輔氏
2017年7月27日 / 09:16 / 3ヶ月前

コラム:米FRB巡る誤解、早晩解消でドル高へ=池田雄之輔氏

[東京 27日] - 7月27日午前5時。筆者はいつも通り、起床後すぐにスマートフォンで為替相場をチェックした。一瞬目を疑ったが、ドル円は確かに111.20円。前夜は112円ちょうど付近だったから、かなりのドル安である。イベントと言えば日本時間午前3時に米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文発表が予定されていたから、「声明文がハト派的だったのかもしれない」と推測した。

ところが、1ページにまとめられたFOMC声明文には、細かい文言の修正はあったものの、本質的な変更がまったく見当たらない。声明文発表前から相場が動き始めていた形跡があり、「ドル高材料いったん出尽くし」という面も多少はあったかもしれない。

しかし、米金利の低下はその範囲を逸脱しているように見える。先物市場が織り込む2018年末にかけての追加利上げ回数は、1.40回と前日(1.56回)から大幅低下、21日の水準まで逆戻りした。なぜ市場は「FOMCはハト派」と解釈したのか。

<「物価判断がハト派的」との誤解>

注目されたインフレ状況についての声明文の表現は、第1段落で下方修正があった。「食品・エネルギーを除く指標などが・・・2%をいくぶん下回る」との表現が、「総じて・・・2%を下回る」と書き換えられている。物価指標が、前回会合時点に比べ、より広範に弱まっていることを素直に表しているのは確かである。

しかし重要なのは、この第1段落はあくまで現状の「描写」であり、「判断」ではないという点だ。その証拠に、第1段落の主語は全て、「雇用増は」とか「家計支出は」となっている。「FOMCは」「委員会は」どう考えている、といった主観的なコメントではないのだ。

逆に、FOMCの判断と見通しが示されるのが第2段落である。ここでは、インフレ率が中期的に「2%の目標に向かって安定すると見込まれる」との文言がそっくりそのまま維持された。第2段落は1文字も変更されていない。

なお、バランスシート縮小策のタイミングについては「年内」が「比較的すぐ」と言い換えられ、9月会合で政策発表する意向が明らかとなった。この点が、一部で「バランスシート縮小は、利上げ停止を意味する」との見方につながった可能性はゼロではない。しかし、9月のアクションは既定路線であったし、本来バランスシート縮小を嫌うはずの米株市場がほとんど反応しなかった。やはり「物価判断がハト派的」との誤解が金利低下の要因だろう。

この先、「FOMCはハト派化した」との見方が修正されるには、それなりの材料を要すると見込まれる。最も重要なのは8月16日公表のFOMC議事録であり、中心メンバーがインフレ指標の下振れを「一時的」と判断していることが判明するのが欠かせない。

加えて、物価・賃金指標の持ち直しという「実績」が伴うことも必要だろう。当面のスケジュールとしては、28日の雇用コスト指数、8月4日の平均時給(雇用統計)、8月11日発表の消費者物価指数(CPI)といった指標の重要性が高まってくるだろう。ジャクソンホール会議(8月24―26日)でのイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長講演でも、インフレの判断と見通しに注目が集まりそうである。

実際のところ、物価の基調はどうなのか。筆者は、アトランタ地区連銀が算出している「粘着価格(Sticky-Price)CPI」に着目している。このインフレ指標は、価格改定などで断層的に価格が上下に飛ぶ項目を除外し、消費者市場で需給バランスを反映しながら「粘っこく、ゆっくり」価格が変化する項目ばかりを集めたものである。アトランタ地区連銀によれば、「インフレ期待への説明力が高い」という。

その「粘着価格CPI」を前月比の年率換算値で見ると、今年3月には0.1%低下とマイナスに落ち込んでいる。携帯通話料の価格改定などは取り除かれており、消費財・サービス全体の需給が軟化していた可能性が高い。おそらく、例年は1―2月に完了する米国の税還付が、政権交代に伴って2月末以降にずれ込んだことが、年初の消費の落ち込みとインフレ率の低下をもたらしたものと推察される。

しかし、4月以降、同インフレ指標は0.8%、1.4%と上昇し、順調に回復。6月には2.2%上昇と、プラス2%台を取り戻した。前年比では2%を下回っていても、インフレ率の「瞬間風速」は正常値に戻っているのだ。イエレン議長らFOMCメンバーがインフレ率の「低さ」に言及する際は、だいたい「前年比で見た場合」と断りがついている点に注意したい。

<ドル115円突破は9月以降か>

筆者は、市場のFOMCに対するハト派期待がこれ以上深まることはないと予想している。では、米利上げ継続、ドル高のシナリオにとって、最も脅威となるリスクは何か。おそらく中国景気だ。

3月から6月にかけて、米金利が低下をたどってきた理由としては、「トランプ政権への失望」が取り上げられがちだが、本質的には米国景気・インフレ指標の弱含みであり、その根源は米国での税還付の遅れと製造業を中心とする中国景気の減速にあった、と筆者はにらんでいる。中国景気のバロメーターとして有用な商品市況が軒並み弱含んでいた時期と、米指標が「連戦連敗」だった時期はほぼ一致する。

中国景気はグローバル景気を左右する力を持っており、米国も当然影響される。振り返れば、2015年12月のイエレン議長最初の利上げが失敗したのも、中国の弱さとぶつかったためだ。先行き、予定通り利上げを積み上げていけるかどうかは、中国景気に依存している可能性が高い。

幸い、中国は過剰融資の問題にはメスを入れつつも、秋の党大会に向けては景気下支えの姿勢をはっきりさせている。6月以降、グローバルに商品市況が持ち直し傾向を強めていることも、中国景気が現在進行形で再加速していることを映し出しているだろう。

中国景気を注視しつつも、2017年末のドル円は120円と、ドル高・円安の展開を予想している。とはいえ、米国の次の利上げは早くとも12月FOMCである。先行きの利上げ期待が本格的に高まり、ドル円が115円を突破するタイミングは9月以降に持ち越されると考えている。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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