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コラム:経済成長なき「豊かな生活」は可能か
2014年12月10日 / 09:08 / 3年後

コラム:経済成長なき「豊かな生活」は可能か

━━経済成長を抜きにして豊かな暮らしは可能なのか。西側は、特に西欧諸国は、この問いに正面からぶつからざるを得ないだろう。

12月8日、経済成長を抜きにして豊かな暮らしは可能なのか。西側、特に西欧諸国は、この問いに正面からぶつからざるを得ないだろう。写真は小売店の紙袋を下げて歩く人。昨年12月、英ロンドンで撮影(2014年 ロイター/Luke MacGregor)

Hugo Dixon

[8日 ロイター]- 経済成長を抜きにして豊かな暮らしは可能なのか。その質問を投げかけること自体、所得を継続的に伸ばすことが社会の第一目標であるべきという現代の一般通念に挑むものだ。しかし西側は、特に西欧諸国は、この問いに正面からぶつからざるを得ないだろう。

欧州は景気後退の後遺症に苦しんでいるだけでなく、低成長の時代に突入したかもしれないからだ。

国内総生産(GDP)の伸び率は過去に比べて低いまま推移する公算が大きい。低成長の理由の一端は、欧州社会の急速な高齢化によるものだ。力を付けつつある発展途上国との競争激化も背景にあるだろう。環境的制約も原因になっているかもしれない。地球温暖化の防止策はエネルギーコストの上昇につながるからだ。

イタリアを筆頭として、特に高齢化が急速に進んで起業家精神が衰えている国では、GDPの年間成長率は今では実質ゼロ近辺だろう。高齢化のスピードが比較的緩やかで、活気ある起業家精神を維持している英国でさえ、GDP伸び率は2%を下回りそうだ。

低成長経済がいかに暗黒の世界をもたらすかは想像に難くない。高い若年失業率は「失われた世代」を生み出すことになるだろう。持続不可能な政府債務負担は、公共サービスの一段の削減を余儀なくさせるかもしれない。いくつもの社会階層が貧困に陥り、政治離れがますます進む可能性がある。

低成長を前提とした生き方はあるのだろうか。それに答えるにはまず、経済は社会に役立つべきと認識することが出発点となる。その逆ではない。つまり、経済の社会的役割は、人々が良い生活を営める状況を作り出すことにある。

そこで問いになるのは「豊かな生活とは何か」だ。そのヒントは古代ギリシャの哲学者アリストテレスの言葉に求められるかもしれない。アリストテレスは、豊かな生活には人間の本質に照らして自分の役割を果たすことが含まれると説いた。また人間の本質には、動物と人間の2つの側面があるとも考えた。アリストテレスの教えは、豊かな生活を考えるには2つの要素があると言い換えられそうだ。動物の側面である身体的な要素と、人間にしかない側面である精神的な要素だ。

そうであるなら、豊かな生活には、一定の物理的要素が不可欠になる。最も明らかなのは衣食住だが、その他にも、特に健康面で多くの物理的要素が必要だ。現代社会は医療や健康問題にますます注意を払うようになっている。しかし、肥満のまん延といった現象に目を向けるだけで、身体的な要素については必ずしも上手く行っていないと気づくはずだ。

精神的な要素には、価値観や創造力、美意識や知的好奇心、人生を意味あるものにするための努力など、さまざまな人間の意識が包含される。消費の多寡は必ずしもこれらの大小に直結しない。むしろ、リチャード・レイヤード氏などの経済学者による研究では、一定の金額を超えると収入の増加は幸福感につながらないことが示されている。

西側の経済成長はこれまで、そこで暮らす人々の孤独感やうつの増加を伴ってきた。このことは、物質至上主義的な価値観は人間の本質とは相いれないことを示唆している。あくなき成長を追求すれば、他の貴重なものが犠牲になりかねない。そこで損なわれるのは物理的環境だけでなく、我々の社会環境や地域社会、家族や友人の輪なども含まれる。

一部の人は、すでに裕福な西側社会なら、一段の成長がなくても豊かな生活を送る環境は作り出せると思うかもしれない。そういう人は量より質を重視している。また、経済的活力には価値を認めているが、金儲けを成功の基準にしていないのだろう。そして、社会機構を大切にしているのだろう。

しかし、経済成長にあまり依拠しない価値観であっても、失業にどう対処するかや、GDP成長なしで公的債務をどう減らせるかなどの厄介な問題は残る。長年にわたってゼロ成長やマイナス成長を掲げている「緑の党」の政策に答えがあるのかもしれないが、英国のシンクタンク「グリーンハウス」から最近出された大量の論文を見ても、説得力ある解決策は見当たらない。

例えば、グリーンハウスは失業対策の一環として、ワークシェアリングを提唱している。働きす過ぎの人は労働時間を短くし、失業者が仕事を得る余地を作るという考えだ。

ただ実際には、失業対策はそれほど単純な話ではない。まず、長時間働いている人は自分の仕事を減らしたくないだろう。仮に強制的に労働時間を短縮されたとしても(こうした強制はそもそも豊かな生活には明らかに反するが)、失業者のための雇用創出につながるとは限らない。失業者の多くは必要とされるスキルを有していないからだ。ワークシェアリングよりむしろ、職業訓練や教育にこそ重きを置くべきだろう。

膨大な公的債務に対するグリーンハウスの解決策は、各予算が国民に恩恵をもたらすかどうか、国民の同意を得られるのかどうか、監査を実施するというものだ。監査を通らなかった予算は「忌むべきもの」として拒否される。こうした案は、スペインのポデモス党やギリシャの急進左派連合(SYRIZA)など、左翼ポピュリスト政党の間で支持が広がっている。

イラクのサダム・フセインのような独裁者が債務を膨れ上がらせたのならば、その後継者がそれを拒否するのは理にかなっている。しかし、西側の民主主義社会は、この状況にはまったく当てはまらない。一方的な債務の棒引きは経済的な混乱につながり、さらなる失業者を生み出すだろう。とても解決策とは言えない。

経済成長を抜きに豊かな暮らしは可能なのか。1つだけ明らかなことがある。豊かな生活を追及するあまり、経済成長を軽んじるという考え方を変えない限り、その答えを見つけることはできない。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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