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コラム:北朝鮮の「核危機」はイリュージョンか
2017年9月12日 / 07:16 / 10日前

コラム:北朝鮮の「核危機」はイリュージョンか

 9月12日、弾道ミサイル発射、核実験、軍事演習、空虚な大言壮語──。こうした不穏な行動が見られるとはいえ、北朝鮮によるここ数カ月の「危機」は、大部分が絵空事である。写真中央は、水爆実験に貢献した科学者らに囲まれる北朝鮮の最高指導者、金正恩・朝鮮労働党委員長。KCNAが10日提供(2017年 ロイター)

[12日 ロイター] - 弾道ミサイル発射、核実験、軍事演習、空虚な大言壮語──。こうした不穏な行動が見られるとはいえ、北朝鮮によるここ数カ月の「危機」は、大部分が絵空事である。

1年前、北朝鮮が核弾頭を搭載したミサイルを米国に向けて発射する可能性はほぼゼロだった。そのような攻撃能力がなかったからだ。その後、北朝鮮は技術的進歩を遂げている。

しかし、北朝鮮が米国本土を射程に収めるミサイルや、それに装備できる小型化された核弾頭、さらには核弾頭が大気圏に再突入する際に熱と圧力に耐えられるほどの遮蔽技術を有しているという確かな、入手可能な公的証拠は何もないと、一部の専門家は指摘している。

だからといって、そのような誇示が無害とも言い切れない。だがたとえ北朝鮮がそうした技術的能力を獲得していたとしても、同国が核ミサイルで米国を攻撃する可能性は、以下の決定的な理由から非常に低いといえる。

米国のオバマ前政権下の国家安全保障会議(NSC)で軍縮・不拡散のシニアディレクターを務めたジョン・ウルフストホール氏が詳細に説明しているように、北朝鮮の最高指導者、金正恩・朝鮮労働党委員長は、クレイジーでも自暴自棄でもない。

もし核兵器を使用するなら、自国が数時間で(それどころか数分で)消滅することを分かっている。米国の弾道ミサイルや爆撃機には約1590の核弾頭が装備されているため、それは確実だ。(この問題で最も権威ある公式報告によれば、北朝鮮は入手している核分裂性物質の量では、わずかに10─20の核弾頭を製造することしかできない。)

また米国が、北朝鮮に対し、通常の攻撃であろうと核攻撃であろうと、先制軍事攻撃に出る可能性はかなり低い。そうすれば、韓国で数十万人規模の犠牲者が出ることはほぼ間違いないからだ。

犠牲者の数はさらに増える可能性もある。核兵器に頼らなくても、北朝鮮が早い段階で数千発のロケットや迫撃砲で集中砲火を浴びせ、同国の国営メディアが脅すように、ソウルを「火の海」にもしかねない。

北朝鮮はまた、大量の化学兵器やロケット弾を保有しており、したがって、韓国の首都を神経剤サリンやVXガスの海に変えてしまう能力を有している。

互いに抑止し合っているという明白な現実を踏まえれば、2017年の「北朝鮮危機」は、金正恩氏とトランプ米大統領がメディアを通してそれぞれの国民向けに繰り広げているパペットショーと見るのが最も正確なのかもしれない。そうとはいえ、これは危険なショーである。

現在の過熱したメディア環境において、正恩氏とトランプ氏が、政治的効果や交渉で有利な立場を得るために、あるいは自己満足のために国際舞台で繰り広げる一幕のなかには、ケーブルテレビやインターネットで24時間ひっきりなしに誇張されるせいで、それぞれの国家に対する侮辱とも取られかねないものがある。そうした侮辱への感情的反応が、破滅へとつながりかねない事態のエスカレートを招く可能性を秘めている。

具体的に言えば、もし米軍が日本上空を通過した北朝鮮のミサイルを撃ち落としていたなら、正恩氏は怒って、あるいは虚勢を張って、別のミサイルを、恐らくはグアムの方向に発射しただろうか。そのとき、トランプ氏はマッチョな対応をせざるを得ないと感じただろうか。きのこ雲に覆われる結末もあっただろうか。

北東アジアで創作された劇場型危機によって引き起こされる不用意な戦争のリスクを減らす最善策は、正恩氏とトランプ氏という主役が繰り広げるショーが、荒唐無稽で、どちらも欲しいものは手に入らない、と2人を説き伏せることだ。

だが、筆者の考えをきっかけに、(主に生まれつきだとしても)自己愛の強い2人の世界的リーダーが、生死やテレビ視聴率に関して方針を直ちに変えるとは全く思えない。

したがって、次善策を提案したい。ジャーナリストは、あたかも状況が一変し、戦争が間近に迫っているかのように北朝鮮情勢について書いたり、放送したりするのをやめるべきだ。

北朝鮮は長年、使用可能な核兵器備蓄を追い求めてきた。最近実施された核地下実験は、これまでのものより威力が大きく、TNT火薬換算で10万トン以上の爆発規模だったとみられている。これは、長崎に落とされた原爆の4─5倍に相当することを意味している。以前より大きな威力を持つ今回の実験は、水素化ウランを用いた核分裂爆弾か、「水素爆弾」として一般的に知られる核融合爆弾だった可能性がある。ただし、現在入手可能な情報では、どちらであったのか専門家も判断できない。

たとえ9月3日の核実験が、本物の水素爆弾に関するものだったとしても、それが「ゲームチェンジャー」にはならないと、米ロスアラモス国立研究所の元所長で、北朝鮮の核プログラムに関して米国有数の専門家であるシグフリード・ヘッカー氏は、筆者が編集する「原子科学者会報」で指摘している。

米都市に北朝鮮の核爆弾が落とされるなら、それが核分裂型であろうと核融合型であろうと、威力が20キロトン、100キロトン、あるいは800キロトンであろうと、壊滅的被害をもたらし、数万人の命が瞬時に奪われるだろう。これは衝撃的な行く末である。だが再度述べるが、北朝鮮の指導者らは、米国またはその同盟国に核兵器を打ち込めば、自国にとって自殺行為であると認識している。

北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射実験は、各国の報道機関が伝えるべき重要なニュースであることに間違いない。しかし、この「危機」に世界の報道機関が与えている緊急性は、実際のところ、それを拡大させる要因となっている。その結果、誤算と戦争の機会が生まれている。

正恩氏とトランプ氏のパペットショーを大きく取り上げず、北朝鮮は米国に重大な攻撃を仕掛けるなら直ちに消え去ってしまう貧しい小国であり、故にそのような攻撃の可能性はほとんどあり得ないという現実を直視するジャーナリストが増えるなら、北朝鮮情勢は、長く困難ではあるが、受け入れ可能な解決策へと導く外交へと向かうかもしれない。危機をあおるようなメディア環境がなければ、米国が先制攻撃する可能性も同様に小さい。

ジャーナリストが、米国と北朝鮮の指導者に責任ある行動をさせることはできない。だが、この「危機」は朝鮮半島で起きている対立であり、大言壮語にあふれるパペットショーはプロの外交に取って代わる哀れな身代わりすぎないことを、読者に理解させることには貢献できるだろう。

*筆者は「原子科学者会報」の編集責任者。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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