Reuters logo
コラム:西側の「軍事革新」招いたプーチン大統領
2017年7月27日 / 02:37 / 3ヶ月前

コラム:西側の「軍事革新」招いたプーチン大統領

 7月21日、欧米の軍事当局は、ロシアのプーチン大統領(写真)の行動やロシア政府の積極的な新軍事ドクトリンに対して、より効果的な対応を示している。写真はモスクワ郊外のジュコフスキーで国際航空見本市を視察するプーチン大統領。提供写真(2017年 ロイター Sputnik/Alexei Nikolsky/Kremlin via REUTERS)

[21日 ロイター] - 独ハンブルクで今月開催された20カ国・地域(G20)首脳会議では、西側諸国がロシアによる自国政治への干渉や選挙介入を巡る疑惑に対して取るべき戦略に苦慮している状況が明らかになった。

しかし、こうした表舞台には現れないものの、欧米の軍事当局は、プーチン大統領の行動やロシア政府の積極的な新軍事ドクトリンに対して、より効果的な対応を示している。

2014年に起きたウクライナ東部でのロシアの武力介入を機に、西側諸国の紛争に対する見方は一変した。この紛争の結末は、イラクやアフガニスタンで得た実戦経験と同じくらい、欧米の軍隊に革新をもたらそうとしているようだ。

革新プロセスはまだ始まったばかりだ。それでも、北大西洋条約機構(NATO)主要国、特に重要なのは米国の、地上部隊や航空機、艦艇が東欧のほぼ全域に常駐するようになった。

トランプ米大統領にはロシアとの癒着疑惑がつきまとい、いずれの加盟国に対する攻撃も全加盟国に対する攻撃とみなし集団的自衛権を発動することを定めたNATO条約第5条についても消極的な態度を示しているが、米軍や外交部門のトップは揺るぎない姿勢で、欧州安全保障に対する米国のコミットメントを強調している。

NATOにとっての最優先課題は、最も脆弱な北欧・東欧諸国、特にエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国を防衛することである。この3国はかつて旧ソビエト連邦の一部だったが、現在では西側の同盟国となっている。

この夏、NATOは北大西洋で最先端の対潜水艦戦や電子戦の演習を実施し、偵察機はバルト海上空にほぼ毎日飛行し、それ以外にも黒海から北極海に至る地域で多数の作戦演習を行っている。

ロシア政府が、ウクライナでもロシア語話者の多いクリミア地方を、迅速かつほぼ流血もなく併合したことは、欧州の関心を集めた。ウクライナ東部ドンバス地方で多数の死傷者を出した内戦に関しても同様だ。ドンバス紛争では、ロシアの支援を受けた分離独立派が2014年にドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国の独立を宣言している。

この地の住民にとって紛争の結果は悲惨だった。国連の試算では、2014年4月以来、推定1万人が殺され、うち2700人以上は民間人だった。紛争地域の住民160万人以上が家を捨てて避難している。

もちろん、こうして犠牲になっている人々こそ、ロシア政府がその行動により支援しようとしていると主張する、ロシア語圏のウクライナ人そのものである。だが、このウクライナ紛争を通じて、プーチン氏は「一流の大国」としてのロシアの名声を取り戻すことができた。

この状況はもはや、ロシアが故意に曖昧にしてきた「情報戦」や「ハイブリッド戦」など、2014年以来西側の多くのアナリストの関心の的となってきた戦略の域をはるかに越えている。ロシアがウクライナにおける通常戦力の投入を依然として認めていないとしても、現場には圧倒的な証拠が残されている。

ウクライナ紛争の勃発時、ウクライナ政府軍は、どちらかといえば原始的なイラクやアフガニスタンの反乱勢力に対して磨かれてきた米軍流の戦法を採用した。だがこうした戦術は、特に装甲車両にとっては悲惨な結果を招いた。ロシアの砲兵部隊がドローンなどの先進的な偵察装置を用いて甚大な損害を与えるようになったからだ。

またロシア側によるサイバー攻撃や電子妨害によって、米政府が最先端の無人航空機と称するものを含め、西側が供給した装備は役立たずになってしまった。

ロシア技術の有効性は米国の戦術立案者にショックを与えた。彼らの多くが、対峙するであろう敵はイラクやアフガニスタン、リビアで遭遇したような武装勢力だと考えるようになっていたからだ。

西側諸国の軍にとって当面の課題は、欧州におけるロシアの活動に対して効果的な対抗策を考案すること。同時に、モスル攻略において米軍の支援を受けたイラク軍の成功や、シリア、ソマリア、ナイジェリアにおける武装勢力掃討の進捗から得た教訓を活用することだ。

 7月21日、欧米の軍事当局は、ロシアのプーチン大統領(写真)の行動やロシア政府の積極的な新軍事ドクトリンに対して、より効果的な対応を示している。写真は8日、独ハンブルグでのG20首脳会議で記者会見に臨むプーチン大統領。提供写真(2017年 ロイター Sputnik/Mikhail Klimentyev/Kremlin via REUTERS)

しかしそうなると、リソース配分を巡って緊張が生じる。フランスでは19日、国防予算削減を不服として軍トップが辞任した。米軍でも、たとえばF35戦闘機のように価格が高騰する一方の最先端装備費用と、人件費や訓練費用とのバランス調整に頭を悩ませ続けている。

計画策定のかなりの部分は、ロシアのいわゆる「ゲラシモフ・ドクトリン」への対抗手段を見つけることを軸にしている。ゲラシモフ・ドクトリンは、従来のような軍事的対立よりも政治的な作戦を重視している。だが西側諸国の戦略担当者のあいだでは、古典的な冷戦スタイルの軍事抑止戦略にも新たな注目が集まっている。

ロシア政府は、この3年間に示してきた態度のなかで、他国を威圧するために、直接的な軍事行動(通常兵器・核兵器の双方を含む)という脅迫を積極的に使ってきた。9月に予定されている大規模な軍事演習は、その新たな1例になるだろう。だがプーチン氏のこのような姿勢はむしろ「やぶ蛇」となってしまった可能性がある。

西側諸国の対応が進めば、ほんの数年前に比べても、ロシア政府が何らかの攻撃を仕掛けることは難しくなってしまうだろう。プーチン氏が攻撃的な姿勢を示すほど、そうした状況に陥る可能性が高まる。

この地域におけるロシア側兵力はNATO側を上回っているかもしれないが、NATO側では、より広範囲の戦争を引き起こすことなく、NATO諸国を転覆することは望めないとロシア側に理解させることができるだけの十分なプレゼンスを確保したと考えている。

 7月21日、欧米の軍事当局は、ロシアのプーチン大統領(写真)の行動やロシア政府の積極的な新軍事ドクトリンに対して、より効果的な対応を示している。写真は7日、独ハンブルグで開催されたG20首脳会議にて。代表撮影(2017年 ロイター)

関係当事国すべてが理解していることだが、NATO諸国とロシアのあいだに何か紛争が発生すれば、核兵器の使用につながる可能性が十分にある。

ドイツは「国防支出をGDP比2%にする」というNATOの目標をめざして国防予算を徐々に増額しているが、ウクライナにおけるロシアの行動が状況を一変させたという考えを明らかにしている。ドイツ軍は現在、地上配備の対空防衛や工兵部門など、これまで軽視されてきた分野における技術を取り戻そうと努力している。

プーチン大統領が、ロシアによるプロパガンダと政治的な攪乱工作により、最終的にはNATOと欧州連合(EU)が解体することを狙っているとの見方が、西側諸国の戦略担当者のあいだで広がりつつある。そうした可能性が高いと考える者はほとんどいないとはいえ、ロシアからの攻撃を最も受けやすい位置にあるバルト3国やフィンランドといった国々は慎重にならざるを得ない。

ロシアによる侵攻が発生した場合、(ほとんどが徴兵制による)部隊の多くを森林地帯に撤退させ、ロシア部隊に対してヒット・エンド・ラン式(攻撃したら即座に退却する)の攻撃を仕掛けるというのが、これら諸国の防衛計画だ。

さらに、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、オランダ、エストニア、ラトビア、リトアニア、デンマークといった北海沿岸や欧州の国々は、密かに、英国主導による合同派遣軍を結成している。これは、バルト海沿岸諸国を防衛するため、相当規模の持続可能な戦力を派遣可能にする枠組みで、仮にNATO・米国による欧州防衛のコミットメントが消滅した場合でも維持される。

NATO領域の一部に対するロシアの急襲を阻むには、これでも十分ではないかもしれない。だがこれだけでも、域内防衛に対する欧州としてのコミットメントがさらに強まる可能性はあろう。

実際に欧州の防衛面は、過去数十年のどの時点と比べても改善されている。ロシアがこれによって脅威を感じるとしても、その責めを負うのべきはプーチン大統領自身だ。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below