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コラム:ギラギラした米資本主義復活へ=武者陵司氏
2016年11月16日 / 06:31 / 1年前

コラム:ギラギラした米資本主義復活へ=武者陵司氏

[東京 16日] - 米大統領選挙における共和党ドナルド・トランプ候補の勝利を受け、米経済や世界経済の将来に関する悲観的な見方が広がっているが、私はむしろ逆に捉えている。トランプ次期政権はさまざまな面で、期待できる要素を備えていると考える。

まず、共和党が大統領ポストに加えて上下両院の過半数も押さえたことによって、非常にパワフルな政府が誕生するということだ。政治経験のない実業家のトランプ氏を大統領候補に指名した共和党については、以前からの党勢の低迷もあり、選挙中はあたかも滅びつつある政治集団であるかのような論調が多かったが、ふたを開けてみれば「共和党独裁」とも呼べる時代が幕を開けた。

これには、2通りの見方ができる。1つは、現在のオバマ政権下での民主党大統領・共和党議会という「ねじれ」が解消し、政策運営がやりやすくなる点。もう1つは、共和党が自ら指名した大統領に対して、上下両院の過半数を占めるという(言い訳のしようがない)責任ある立場からチェック機能を果たさなければならないということである。

お目付け役(議会共和党)に対する国民の目が厳しくなるのは必至だ。よって、過激な選挙公約をトランプ氏が実行に移そうとしても、きちんとチェックアンドバランスが働くことになるだろう。

そもそも数々の暴言や移民問題などに関する一部の選挙公約を脇に置けば、トランプ氏が示している政策案は、荒唐無稽なものばかりではない。その骨子を素描すれば、1)強い米国の威信復活、2)財政支出拡大や大型減税による景気刺激、3)金融規制やエネルギー規制の緩和など、米経済ひいては世界経済にとってプラスに働くものが多い。

一部には、トランプ氏が繰り返す「AMERICA FIRST(米国第一主義)」や「MAKE AMERICA GREAT AGAIN(米国を再び偉大に)」との言葉を、「孤立主義」へのシフトと解釈する向きは多いようだが、世界から孤立した「偉大な米国」などあり得ないことは、トランプ氏は百も承知なはずだ。

米国で消費される商品の9割は輸入品であり、米国で製造されている商品の9割は輸出されている。米経済の繁栄は、グローバル貿易の繁栄と直結しており、両者はすでに抜き差しならぬ相互依存関係にある。このつながりを断ち切って、米国を偉大にすることなどできない。トランプ氏が他国の経済・通商政策を批判しているのは、不公正ないいとこ取りは許さないということであり、資本主義を否定しているわけではない。

むしろ、「本音主義」のトランプ政権誕生によって、「理想主義」のオバマ政権以来(特にリーマンショック後)抑制されてきた、ギラギラした米国流資本主義が復活するのではないかと私は見ている。

<レーガノミクスとの共通点>

では、具体的にはどのような政策が実行に移されるのか。ヒントは、1980年代のレーガン共和党政権にあると思う。

実は、先ほど列挙した政策骨子はすべてレーガン政権を彷彿させるものだ。共和党政権と言えば、バランスバジェット(均衡予算)へのこだわりがひときわ強い印象を受けるが、レーガン政権時には軍備拡張と同時に国内経済の立て直しのために大型減税と規制緩和が実施され、財政赤字が拡大した。また、インフレ抑制のための金融引き締め、その結果としてのドル高というポリシーミックス(レーガノミクス)が展開された。

それらは、新自由主義的な小さな政府を志向するサプライサイド改革をしながら、ケインズ的な需要政策を遂行するという、当時の経済理論からすれば矛盾に満ちたものであったため、「ブードゥー(呪術)経済政策」と批判されたが、実際には国内総生産(GDP)成長率や雇用が拡大するなど大きな成果を収めた(反面、貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」増大を招いた)。

トランプ氏の政策骨子は、現在明らかになっている点から推察すると、このレーガノミクスとの共通点が目立つのである。相違点を挙げれば、環太平洋連携協定(TPP)反対や移民コントロール強化などだが、これらも孤立主義というよりは、自国利益の極大化を目指す上での戦術であることは容易に想像がつく。トランプ氏が生粋のビジネスマンであることを忘れてはならない。

国内においてはまず、トランプ氏が宣言している通り、大規模な減税を伴う拡張的な財政政策が取られる可能性が高い。現在、米国では格差問題が深刻化しているが、トランプ流の解決策は、民主党ヒラリー・クリントン候補が目指していた富裕層増税などによる所得再配分ではなく、公共投資拡大などによる貧困層向けの直接的な雇用創造になるのではないか。

具体的には、1)老朽化したインフラの更新・新規投資、2)ここ数年低迷していたエネルギー投資のテコ入れ、3)住宅投資の促進、などが予想される。こうした拡張的な財政によって、現在2%程度と見られている米国の潜在成長率は大きく改善が図られることになろう。

また、トランプ氏は、ウォール街のリスクテークを抑制する金融規制改革法(ドッド=フランク法)に反対しているが、それは的を射ている。金融市場が活性化しない一因は、リーマンショック以降の過剰な金融規制と資本基準の厳格化によって、金融機関と投資家がリスクテークをできなくなったことだ。ドッド=フランク法の見直しが部分的なものにとどまったとしても、規制強化の流れが反転すれば、リスクテークは促進され、市場の活性化につながるだろう。

むろん、米経済はすでに完全雇用にあり、インフレも2%到達が見えている。この段階で、財政緩和によって背中を押すことはバブルを作り出す恐れがあるとの批判もあるかもしれないが、だからこそ金融政策には逆向きの引き締めが求められることになる。

実際、トランプ氏は折に触れ、金融緩和政策を批判している。財政緩和と金融引き締めという適切な組み合わせが適度に追求されるならば、米景気は過熱せず、着実な成長を続ける可能性が高い。あるいは、逆に下向きにいったん行くとしても、伝統的な景気循環サイクルに戻るだけであり、パニックに陥る必要はない。

<孤立主義ではなく覇権再構築>

最後に、トランプ次期政権の誕生が安倍政権の政策運営に与える影響はどのようなものになるのだろうか。現在のところ、TPP頓挫の可能性が高まっていることや、日米同盟が揺らぐリスクなどを心配して、悲観的な見方が多いようだが、冷静になって考えてみる必要があろう。

まず、米国が外交面で孤立主義に転じるというのは本当なのか。前述した通り、米経済成長は世界経済成長に依存しており、その世界経済メカニズムは米国が広げた資本主義理念に頼っている。米国を輝かせたいならば、世界に関与を深めるしか道はないはずだ。地政学的に見ても、レーガン政権時と同じく、強い米国をアピールすることが一番、理にかなっている。実際、トランプ氏は、国防予算の上限撤廃や軍備増強を提唱している。同盟国に応分の負担増を求めているのは、むしろ覇権の再構築に熱心な新政権誕生を予感させる。

また、自国製造業を守るためにドル安政策に舵を切り、日本など主要国を通貨安戦争・貿易戦争に導くとの見方もどうだろうか。そもそも財政緩和は金利上昇要因であり、金利上昇はドル高要因だ。すでに市場は、そうした期待を胸に、ドル高円安方向に動いている。為替はトランプ氏の一義的な政策目標ではないはずだ。トランプノミクスの最大の焦点は、財政緩和だと思う。

むろん、確かなことは来年になってみないと分からないが、言えることは、トランプ氏には、レーガン大統領のように、米国の次の一時代を築くチャンスがあるということだ。資本主義の申し子が、偉大な大統領として歴史に名を残す好機をみすみす逃すとは思えない。

*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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