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コラム:忍び寄る中国発「鉄鋼貿易戦争」の影
2016年4月8日 / 06:51 / 2年前

コラム:忍び寄る中国発「鉄鋼貿易戦争」の影

 4月5日、これまでの2016年の象徴、そして今後を占う兆候となる出来事として、今のところ一番相応しいのは、中国が欧州及び一部のアジア諸国からの鉄鋼輸入に対して懲罰的関税を課したことかもしれない。写真は積まれた鋼管。中国の河北省で昨年11月撮影(2016年 ロイター/Kim Kyung-Hoon/Files)

[5日 ロイター] - これまでの2016年の象徴、そして今後を占う兆候となる出来事として、今のところ一番相応しいのは、中国が欧州及び一部のアジア諸国からの鉄鋼輸入に対して懲罰的関税を課したことかもしれない。

中国は先週、欧州連合(EU)、日本、韓国の鉄鋼メーカーに対し、14─46%の「反ダンピング」関税を新たに適用すると発表。不公正な貿易により「相当の損害」を被っていると主張している。

この措置には、今年、EUと米国によってさまざまな種類の中国産鉄鋼製品に対して課された関税に対する報復という意味合いが含まれている。

中国は新たな関税のうち最も高い税率を、イギリスでタタ・スチール(TISC.NS)が製造する特殊鋼のために用意している。だがタタ自身も、ある種のパニックに近いものを引き起こしている。イギリスにおける事業を実質的に放棄する意向を発表し、数万人の雇用を支える製造チェーンを脅かしているからだ。

ここで見られる錯綜した流れは、複雑で、おおむね不吉である。経済的な、そして特に政治的なプレッシャーが高まるなか、中国、欧州、米国といったプレイヤーの間で、あえて貿易紛争のリスクを冒そうという気分が高まっているように見えるからだ。

貿易や、実はグローバリゼーションに対する世界的な風潮は、明らかに大きな変化を迎えており、関連する雇用や産業だけでなく、経済成長や資産価値にとっても多くのリスクを生んでいる。

「これが貿易紛争ではないなら、いったい何だと言うのだ」と業界団体UKスチールのディレクター、ガレス・ステイス氏は英デイリーテレグラフ紙に語った。「中国からの輸入品の洪水によって、世界中が文字通り溺れている。もちろん、欧州産の鉄鋼が中国に殺到しているなどという事態は見られない」

中国が競合国から広く批判されているのは、自国の鉄鋼製品を国内市場よりも低価格で輸出する、いわゆるダンピング行為のせいだ。

中国は巨大な鉄鋼産業を築き上げ、現在ではグローバル市場において50%近いシェアを握っている。幹線道路や工場の建設といった鉄鋼大量消費型のプロジェクトへの固定投資よりも、国内の個人消費を育てていく戦略をとりつつ、それが鉄鋼部門に全面的な悪影響を与えるのを回避しようとしている。

これは要するに、成長鈍化と、鉄鋼のような準コモディティ製品に対する需要減少が、中国の雇用を脅かしているという意味だ。

<トランプ台頭の影響>

中国が貿易協定をあまり遵守しないという悪評を得ているのは無理からぬところだが、米国内での貿易をめぐる論調が大きく変化していることに中国が脅威を感じているとしても不思議はない。

米国が中国製の鉄鋼製品に対し、1月にEUが踏み切ったよりもはるかに高い関税を先月課したことは、この問題について大統領選の候補者たちから発せられるノイズを考えれば、特に意外ではない。

共和党の候補として指名される可能性が最も高い不動産王ドナルド・トランプ氏は、党の筋書きを無視して、中国に対する報復的な関税をちらつかせ、この戦術によって、毎週末に好天をもたらすこと以外なら何でも実現すると約束している。

とはいえ、彼が描いた戦略では大統領選に勝利することもできないし、成長率や低所得労働者の雇用の改善にも成功しないだろう。

だが、問題はトランプ氏だけではない。

民主党の指名を獲得する可能性の高いヒラリー・クリントン前国務長官も、トランプ氏の躍進や党内ライバルであるバーニー・サンダース上院議員からの貿易協定批判に押されて、貿易に関する自身の論調を変化させているのだ。

英国ではタタが事業売却の希望を表明したものの、売却先も決まっておらず、現在有効な協定のもとで収益性のある事業運営をする方法も明確ではない。

英国の保守党政権は、より高率の関税をかけることができるようEUにルール変更を求める要求に同調しなかったことで、国内から厳しい批判を浴びている。

保守党のなかでも、少なくともキャメロン首相に代表される勢力は、6月に予定されている国民投票で、EU残留に賛成するよう呼びかけている。

イギリスの産業には構造的なものから周期的なものに至るまでたくさんの弱点があり、そのなかではEUに加盟しているという点はそれほど重要ではないとはいえ、かつての誇り高きイギリスの産業が今や見る影もなくなっているという要素を考えれば、タタ撤退と英政権のEU寄り姿勢という状況は、反EU感情の高まりに容易につながっていくだろう。

要するに、グローバルな貿易システムが不公正であると言いたがる人のリストは、どんどん長く、有力になっているということだ。その結果を予想するのはきわめて難しい。

だが、政治的な良し悪しはともかく、経済的なリスクについてはかなり説明しやすい。

世界銀行のデータによれば、世界の平均的な関税率は、1990年代初頭の40%という高さから、2010年には約6%まで低下してきた。偶然であるとしても、これは世界的なインフレ率が1990年代には30%もあったのが、今日では約3.3%まで下がっているのと軌を一にしている。また、貿易の拡大と貿易障壁の低下に合わせて、金融資産の価値は上昇し、もちろん所得格差も広がってきた。

自由貿易の後退は、こうした傾向をすべて逆転させるものと予想され、同時に経済成長に大きな打撃を与えることになろう。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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