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コラム:FRBバランスシート縮小議論の衝撃=井上哲也氏
2017年2月23日 / 09:37 / 8ヶ月前

コラム:FRBバランスシート縮小議論の衝撃=井上哲也氏

[東京 23日] - 米連邦準備理事会(FRB)は、政策金利の引き上げを開始した後も、かつて量的緩和で買い入れた米国債や住宅ローン担保債券(MBS)などの債券について、償還代り金で再投資を行うことによって資産規模を維持してきた。しかし、ここへきて再投資の見直しをめぐる議論が目立つようになっている。

直接の契機は、12月の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨に利上げと再投資見直しを関連付けて考える議論がみられたことだった。また、FRB前議長であるバーナンキ氏も再投資戦略について論考を公表したことで、市場の関心は一段と高まった。

しかも、FRBが2017年中に3回の利上げを行った場合、年末の政策金利は1%台中盤となり、FOMCが長期的な政策金利と考える3%と、ゼロ金利との中間に達する点も「機は熟しつつある」との印象を与えている。

FOMCは金融政策の正常化に関する基本戦略を2014年9月に公表した。そこで示された方針は主に次の3つだ。

1)再投資は政策金利を十分引き上げた後に見直す

2)当初はMBSの売却は行わず、償還による減少に任せる

3)最終的には国債のみを保有する

しかし、そもそも政策金利はどこまで上昇すれば十分か検討が必要なことに加えて、上記3番目の方針(最終的には国債のみ保有)を実現するためには、MBSの扱いについて何らかの工夫が求められることになる。というのも、MBSは利回り次第で償還ペースが変化するからだ。

ちなみに、国債は現在2兆ドル強もの残高がある一方、ニューヨーク連銀のデータによれば残存4年未満の国債が約1.2兆ドルある。現時点で保有国債の再投資を止めれば、今後4年程度でFRBの保有国債はほぼ半分まで減少することになる。

<市場との対話怠れば無用の混乱招く恐れ>

では、FRBが保有資産の再投資見直しに踏み切った場合、どのような影響が予想されるのか。

まず、保有する国債やMBSの残存期間が徐々に短期化し、イールドカーブの幅広いゾーンに上昇圧力が生じるとみられる。実際、市場では、利上げとは比較にならないインパクトを与え得るとの見方が強い。影響の現れ方は国債管理政策の内容によるとしても、トランプ政権が拡張的財政政策を実施する下では、中長期金利全般の上昇に拍車をかけることになる。

それでも、利上げには慎重なFRBが保有資産の再投資見直しを進めるとすれば、その理由としては保有資産が無限に膨張するリスクを回避したいとの意向が考えられる。景気循環のピークでもかつての5%といった政策金利を望み難い現状では、景気後退期に「のりしろ」を使い果たし、ゼロ金利政策の下で量的緩和に戻る可能性は小さくなく、保有資産を減らせる時に減らしておかないと「根雪」のように増加し得る。

イエレン議長が先の議会証言で説明したようにFRBがバランスシートの構成変化を新たな政策手段と位置付けることに消極的である点も、こうした考え方と整合的である。

政治要因もFRBによる再投資見直しを促進するとみられることが多い。確かに、共和党も、次期FRB議長の有力候補であるウォーシュ元FRB理事も量的緩和にはかねて否定的だった。

しかも、FRBが利上げを進める下で保有債券のキャピタルロスが発生すれば、共和党によるFRBへの批判が強まる結果、議会による監査強化や金融政策のルール化などの「改革」に道を拓く可能性も高まる(もっとも、FRBが保有するMBSを早期に圧縮すれば、モーゲージ金利の上昇を通じて住宅投資を減速しかねないだけに、共和党が単純に要求するかどうかには不透明な面も残る)。

このように、FRBによる保有債券の再投資見直しには検討すべき点が多い。しかも、今年は、トランプ大統領の経済政策の時間軸や効果、独仏蘭などユーロ圏主要国の選挙の帰趨などそもそも不安定要素が多い中で、再投資見直しの議論が進むことに市場の異論も根強いようだ。

折しも、今般公表された1月FOMCの議事要旨によれば、今後のFOMCで再投資見直しの議論を進めることへの合意が形成された。不必要な市場の混乱を防ぐためにも、FOMCはこのテーマに関する議論の内容を適切かつタイムリーに市場と共有することが求められる。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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