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コラム:トランプ勝利と、米国が主導する「世界秩序の死」
2016年11月15日 / 02:52 / 10ヶ月前

コラム:トランプ勝利と、米国が主導する「世界秩序の死」

 11月10日、米大統領選の結果は、リベラルな世界秩序に対する米国の揺るぎない支持が失われつつあることを明確に示したに違いない。写真は、次期米大統領となったドナルド・トランプ氏(写真)。オハイオ州で7月撮影(2016年 ロイター/Mike Segar)

[ロンドン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 歴史は都合良く動いてくれるわけではない。だが時として、無視できない日がある。そういう意味では、ドナルド・トランプ氏の次期米大統領選出が確実となった日が、ベルリンの壁が崩壊した記念日だというのはふさわしいように思える。

1989年11月9日は、リベラル、民主主義、そして米国が主に主導し、それ以前の半世紀において世界の大部分を支配してきた「世界秩序の勝利」を象徴する日となった。一方、27年後の同じ日に起きたトランプ氏の勝利は、その死を示している。

リアリティー番組の元スターが、敵対的な選挙公約を政策に実際どのように反映させるかを語るのは時期尚早だ。米国内でトランプ氏は、とりわけ暴君的な大統領の権力を制限するよう作られた憲法の制約を受けるだろう。一方、トランプ氏の行動が、保護主義的で好戦的な同氏の発言通りなのかどうかについて、他の世界はまだ知る由もない。

そうとはいえ、第2次世界大戦後に始まり、ソ連崩壊でピークに達した米国支配の時代は今、終わりを迎えようとしている。このことは、国際秩序と世界経済に憂慮すべき結果を招くことになる。

かつての超大国は、米ドルに支えられて、貿易障壁を下げ、世界の資本の流れに対する規制を緩和することが可能だった。また、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機構(WTO)のような国際機関を支援してきた。これら機関はその正当性を、米国の支援、そして資金に依拠してきた。

米国主導の世界秩序はその軍事力によって支えられ、それは北大西洋条約機構(NATO)や、日本、韓国、サウジアラビアといった同盟諸国との協力に投影されている。またそれは、一連の共通したアイデアの基に成り立っている。民主主義への信頼と、法の支配の尊重である。米大統領選翌日の朝、こうした共有価値を繰り返し語る必要を実感していたのは、次期米大統領ではなく、ドイツのメルケル首相だった。

トランプ氏の勝利は世界全体を脅かしている。同氏はメキシコとカナダと、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に臨むと約束している。また、中国からの輸入品に関税を課すとしている。NATO加盟国への軍事支援にも疑念を呈している。同氏の選挙戦は、民主主義の原則や司法の独立性、報道の自由、さらには基本的人権といったことへの尊重が全く欠如しているのが特徴であった。

これは、米国覇権の暗い側面を否定するものではない。高尚な理想も、米国が東南アジアにおける破壊的な戦争を追い求めることを防ぐことはできず、皮肉にも第3世界の独裁者たちを支援することになった。最近では、イスラム過激主義との戦いにおいて、同国の原則は繰り返しむしばまれている。一方、貿易や金融に関するルールは、米国の銀行や企業に有利に働きやすくなっていることが多い。

また、米国の影響力がここしばらく弱まっているのも本当のことである。2001年9月11日の米同時多発攻撃は、米国の戦後安全保障への信頼を打ち砕き、同国はアフガニスタンとイラクに対して、高い代償を払うことになる戦争を始めた。2008年9月のリーマンショックに端を発した金融危機は、西側世界をリセッション(景気後退)に陥らせただけでなく、金融・経済界のエリートたちから信念を奪った。

このような失敗によって火が付いた政治的反発はすでに、英国が欧州連合(EU)から離脱するという結果を招いた。そして今、ビジネス界での疑わしい記録と政治経験ゼロという経歴の持ち主である70歳が次期米大統領に選ばれたのだ。

しかし明らかに内向きな米国は、世界の広範囲にわたり影響を及ぼす。保護主義的措置は他国による報復を招くことになるかもしれない。投資家はドルに代わる安全通貨を探し求めるだろう。これまで米軍の傘下で保護されていた国々は再軍備し、地域に緊張をもたらす可能性がある。

米国の代わりとなる覇権国は他にはない。EUは、停滞する経済や押し寄せる移民の波、拡大路線を取るロシアの脅威と格闘している。一部のEU加盟国は来年に選挙を控えており、トランプ氏のような反乱が起きる可能性がある。たとえそうした脅威を乗り越えたとしても、EUは近い将来、域外で大きな影響力を発揮することに苦労するだろう。

一方、中国はアジアで支配力を強化するとみられる。すでにフィリピンとマレーシアは中国に接近している。だが、過去30年にわたる中国の驚くべき成長は主に、米国が秩序を保っている貿易と金融の世界的なシステムにただ乗りする中国の能力によるところが大きい。世界第2位の経済大国が、たとえそれを望んでいたとしても、新たに世界的ルールを構築し、それを実行できる立場にあるとは疑わしい。

米国の有権者は、過去にも孤立主義と保護主義をもてあそんだことがある。未来の大統領が、開放性に対する同国の情熱を再び呼び覚ますことはあるかもしれない。ふたを開けてみれば、「トランプ大統領」は選挙中のときより現実主義者である可能性もある。

そのような考えは、トランプ氏の財政出動を歓迎し、起こり得る貿易戦争についてはそれほど心配していないように見える投資家の早計な結論である。しかしながら、米大統領選の結果は、リベラルな世界秩序に対する米国の揺るぎない支持が失われつつあることを明確に示したに違いない。それが世界にとってどのような意味をもつのか明らかになるのは、またさらに27年後かもしれない。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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