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コラム:「トランプ大統領」に楽観的な5つの理由
2016年11月22日 / 08:06 / 10ヶ月前

コラム:「トランプ大統領」に楽観的な5つの理由

 11月18日、筆者はドナルド・トランプ氏(写真)については楽観的だ。彼を支持しない多くの人々と同様、彼の勝利に警戒感を抱いている。しかし、トランプ氏が最悪の想定ほどひどくなるとは考えてはいない。NY市で5月撮影(2016年 ロイター/Lucas Jackson)

[18日 ロイター] - 筆者はドナルド・トランプ氏については楽観的だ。彼を支持しない多くの人々と同様、彼の勝利に警戒感を抱いている。しかし、トランプ氏が最悪の想定ほどひどくなるとは考えてはいない。

楽観的と言っても、これはきわめて控えめな楽観論だが、リベラル派の結論としてはこれが最善なのである。最悪の懸念が広がっており、深刻でもあるし、十分な根拠があるとこれから証明されていくのかもしれない。だが私の「楽観論」の主な理由は、米国の自由の伝統、根強い多元主義、そして(ポピュリスト的に言うならば)「米国人民」そのものなのである。

トランプ氏の大統領選勝利を悲観的に見る人は、彼の当選は「悲劇以外の何ものでもない」と考えている。そこにファシズムの台頭を見る人もいる。ロシア系米国人の著述家マーシャ・ゲッセン氏は、プーチン政権下のロシアでの体験をもとに、独裁者の支配下で生き残るための第1原則は「独裁者の言葉を信じろ。彼の言葉はその本心だ」であるという。

仏ル・モンド紙の社説は、米国と欧州における脱グローバリゼーション、貿易紛争、大量失業への警告であふれている。ドイツの週刊紙「シュピーゲル」のクラウス・ブリンクボイマー編集長は、米国は「危険なまでに経験不足で人種差別主義の人物を選んだ」と書いた。英ガーディアン紙では、ゲイリー・ヤング氏が、「(トランプ氏は)新自由主義によるグローバリゼーションの副作用に対する、支離滅裂で混乱した、無知な怒りを体現している」と書いた。

欧州にはトランプ氏の勝利を歓迎する声もあるが、その中心は極右の指導者たちだ。たとえばフランス国民戦線のマリーヌ・ルペン氏は、トランプ氏の「米国を再び偉大にする」というキャッチフレーズに、フランスにとっての模範を見いだす。英独立党の指導者ナイジェル・ファラージ氏は、週末にトランプ・タワーでトランプ氏と会談し、彼が「優れた大統領」になるだろうとの見解を述べた。

ソーシャルメディア上でも大衆的な支持が多く見られる。過去四半世紀のあいだに3回シルビオ・ベルルスコーニ氏を首相に選んだイタリアでは、それが顕著だ。英国政府は「最善を期待しよう」という姿勢をとっており、ボリス・ジョンソン外相は、トランプ氏当選という結果に対する「泣き言大会」はやめようと欧州各国の首脳に求めている。ジョンソン外相は以前、「ニューヨーク訪問の際にはトランプ氏に会わないよう気をつける」と発言している。

英フィナンシャル・タイムズ紙の政治部記者であるジェイナン・ガネシュ氏は、「リベラル派は恐怖に満ちた予測を語ることで自らを罰しているだけで、彼らはそういうことが好きなのだ」と考えている。米国のエコノミストでコラムニストのザッカリー・キャラベル氏も同様の考えだ。だが、極右を別にすれば、誰もが多少なりとも不安を感じている。英国の外相経験者を含め、恐怖におののいていると言う人もいる。

私も少なからずおびえてはいるが、同時に楽観的でもある。その理由は以下のとおりだ。

第一に、ファシストの指導者にはファシストの支持者が必要だ。米国にも多少はファシストがいるし、彼らは(たとえばクー・クラックス・クランなどは)トランプ氏の当選を歓迎している。だが、トランプ氏に投票した有権者のほとんどは、ファシストの類ではない。ファシストは、敵対者を打倒し雇用を創出するために強力な国家を欲しがる。トランプ支持者たちは、中・上層の勤労者階級であり、国家の規模は小さい方が、多くの場合は非常に小さい方がありがたい。

極右は、ナチスドイツがユダヤ人を利用したように国内の敵を必要とするか、ファシスト政権下のイタリアが遅ればせながらも力づくでアフリカに帝国を築こうとしたように、外部に敵を求める。典型的なファシスト国家(1920年代以降のイタリア、1930年代以降のドイツ)には、ファシスト党やナチスの指導者を大挙して支持するほど、貧困化し、屈辱を味わい、絶望した国民がいた。今の米国民は、そのような状態からは遠い。またトランプ氏も、ベニート・ムッソリーニやアドルフ・ヒトラーのように完全に無慈悲な人物とはまったく似ていない。

第二に、合衆国憲法は、自由の憲法である。憲法上の自由と市民的自由は米国政治におけるいわば共通通貨であり、リベラル以上に右派のほうが、それを重視することを明言する。連邦最高裁判所による「シティズンズ・ユナイテッド」判決は、企業が選挙資金を無制限に拠出することを認めるものだが、言論の自由を保障した憲法修正第1条がその根拠とされた。

憲法修正第2条は市民による武器保有を認めるもので、これによって、立法府が実効的な銃規制法を制定することがほぼ不可能になってきた。市民の生活において、憲法がこれほど中心的な、往々にして賛否の分かれる役割を果たしている国は他にほとんどない。憲法への情熱的な愛着こそが、他の何よりも増して効果的に、そのチェックアンドバランス機能を守り、長く保たれてきた権利の侵食を防いできたのだ。どこにおいても、法と憲法は、市民による支持、あるいは少なくとも承諾の強さがなければ力を持ち得ないのだから。

第三に、伝統的に政府に対する監視役として機能することを想定されている米国のメディアは、調子を狂わせている。クリントン氏の当選をほぼ確実としていた世論調査に頼りすぎたことで戸惑い、広告収入の激減に苦しんでいる。トランプ氏は、根深い幼児性を示すかのように、自分がメディアに加えた打撃に狂喜している。今回の選挙戦を経て、ケーブルテレビ局(フォックスニュースなど)の党派性はますますきわだってくるだろう。主要な刊行物やネットワークのなかで、まったく信頼性を傷つけられないまま今回の選挙を切り抜けたところはほとんどない。だがニューヨーク・タイムズ紙などの偉大な新聞は、この経験から学ぶことを約束している。

加えて、有権者は今や数百ものオンラインニュースを利用でき、その多くは客観性を懸命に追求している。こうした相対的に自由なジャーナリズムの実践は、今後も強い影響力を持ち続けるだろう。米国トップクラスの記者や編集者は世界的な基準を定める立場にあり、権力に説明を要求するという、自ら課した民主的な責務を放棄することはないだろう。

第四に、米国民は適応力が高いことで有名である。欧州諸国の国民に比べて伝統に束縛されておらず、変化を恐れない。今回の選挙結果は、この国の偏見と外国人嫌悪の反映だと広く見られているが、1960年代に米国の白人たちが今よりもはるかに深刻に権利を奪われていたアフリカ系米国住民を「発見」したことにも似た形で、国内の疎外された白人労働者階級の「発見」と見ることもできよう。

1960年代のアフリカ系住民と同様に、大統領は今日の白人労働者階級にも対応しなければならない。もっともトランプ氏は、救い主として称揚されてはいるが、取り残された人々の苦境をさらに深めるだけかもしれない。米国のリベラル派は、欧州の左派と同様に、自らの政策を見直すという大変な仕事を抱えている。どちらも精力的にその作業に励むだろうが、ある程度の時間はかかる。ここで留意すべきは、欧州では、失業に苦しんでいる数百万人もの若者(イタリア、スペイン、ギリシャではこの層の失業率が約40%にも達する)を「発見」するのがまだこれからだという点だ。

第五に、トランプ氏は選挙戦での論調とは異なり、国際的な合意を混乱させることをさほど急がない可能性がある。トランプ氏の共和党は下院・上院双方の過半数を抑えたが、共和党内が彼の政策すべてに賛同しているわけではない。共和党議員は、他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国が同盟の維持に向けてもっと費用を負担すべきだという主張には同意するかもしれないが(一部の欧州諸国は承諾している)、同党議員の多くはNATOをたいていは熱心に支持している。実際、当選から数日も経たないうちに、トランプ氏はオバマ大統領との会談のなかで、NATOとの強い絆を維持すると約束している。

これに比べると、まだ発効していない貿易協定、特に環太平洋連携協定(TPP)の前途は読めない。共和党優位の連邦議会はTPP批准を否決するとしても、日本の著名なジャーナリストである船橋洋一氏などは、米国政府が多国間貿易協定に参加しなければ、拡張主義をとる中国経済にアジア太平洋地域を譲り渡すことになると主張しており、17日にニューヨークで日本の安倍晋三首相と会談したトランプ氏が、そのような主張になびく可能性があると考えるのは不合理ではない。

私としては、以上のような考えは、伝統と憲法、そしてひどい状況にあるときでさえ、自由の側に立って介入してきた米国民の活動の実績によって裏付けられているように思われる。ただし、世界がさらに深刻なリセッションに陥ったり、コンピューターやロボットの発達による雇用の大量喪失という懸念が現実化したりした場合には、こうした展望もすべて白紙に戻ってしまう。

しかしその場合には、すでに衰弱し経済が停滞している欧州も含め、どこでも状況は同じである。そうした憂鬱な不測の事態が生じるまでは、米国のリベラル派はひとまず、チェックアンドバランスの機構を備え、言論の自由と出版の自由を保障した合衆国憲法を信頼し、そして何よりも、トランプ氏の勝利に責任のある人々を含め、すべての米国民を信頼しなければならない。いずれにせよ、それ以外の選択肢はないのだから。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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