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コラム:米国人の心をとらえるトランプ流「勝利宣言」
2016年3月6日 / 02:34 / 2年前

コラム:米国人の心をとらえるトランプ流「勝利宣言」

 3月2日、トランプ氏(右)が絶え間なく引き合いに出す勝者と敗者の図式は、支持者の間に勝利を渇望する気持ちをかき立てる。写真左はメラニア夫人。ニューハンプシャー州で2月9日撮影(2016年 ロイター/Mike Segar)

[2日 ロイター] - 「われわれは共和党を拡大している」。米大統領選序盤のヤマ場「スーパーチューズデー」を制した不動産王ドナルド・トランプ氏は、戦いを終えてそう宣言した。

「われわれはもっと大きな党になる。ほとんど誰も想像しなかったことを、われわれは成し遂げたのだ。われわれを倒すものは誰もいない」

今年の米大統領選共和党候補指名争いにおけるトランプ氏の相次ぐ勝利は、政治専門家を実に驚かせている。有権者はトランプ氏の虚栄に満ちた大言壮語を見抜くだろうとの専門家の予想はまんまと外れた。

トランプ氏は最初の4州のうち3州で勝利した後、予備選や党員集会が集中した3月1日のスーパーチューズデーでは北東部と南部で圧勝し、11州のうち7州で勝利を収めた。自滅するどころか、トランプ氏が共和党候補指名争いでトップに躍り出ることができたのは、まさにそのような同氏の態度が一因とも言える。

リアリティー番組のスターでもあったトランプ氏の政治的成功の大きな秘訣(ひけつ)は、同氏の言葉遣いにある。特に、「勝利」のメタファー(隠喩)を巧みに利用していることだ。

ネバダ州党員集会の勝利スピーチでもそれは明らかだ。

「われわれは福音主義者の支持を得て勝った。老いも若きも、高学歴者も、またそうではない者も私を支持し、私は勝った。私は教育レベルの低い人が大好きだ」

皆、勝者が好きだ。一部の専門家によれば、多くの人たちが取りつかれるほどまでに、スポーツが社会化と文化的対応の本質的な部分を形成している米国においては、なおのことだ。

競争の価値は幼少期からたたき込まれ、米国民の気質の基本的な要素を形成する。米国で最も地位の高い大統領を選ぶプロセスさえ競争とみなされ、米国民の暮らしに根強いスポーツのメタファーがそこには反映されている。

言葉は重要である。メタファーは物の見方を誘導する。具体的な欲求を呼び起こし、特定の感情を引き出す。「勝つことが全てではないが、唯一無二である」と断言したのは、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アメリカンフットボールのコーチ、ヘンリー・ラッセル・サンダース氏だった。(民主党候補のバーニー・サンダース氏は無関係だ)

トランプ氏にとって、敗者になることは最悪な事態だ。その二文字は究極のこき下ろしであり、侮辱である。故に何が何でも勝者に、あるいは勝者として振る舞わなければならないのだ。同氏のシナリオでは、勝者とは金持ちで、社会的に成功し、性的な魅力も兼ね備え、華やかな女性を傍らに置くことを意味しているようだ。

トランプ氏は自分が勝者だと言い続けている。同氏が「大好き」な支持者たちも勝者だと主張する。敗者は自分たちではないと。同氏の言葉は、人々の重要な能力や理性を回避して無意識のプロセスを喚起する。どのように勝利したかは重要ではなくなる。結果こそが大事なのだ。事実は曲げられ、ストーリーがでっち上げられ、真実もゆがめられる。全ては見せかけの勝利のためだ。

トランプ氏が絶え間なく引き合いに出す勝者と敗者の図式は、支持者の間に勝利を渇望する気持ちをかき立てる。「勝者」との一体感を強烈に感じるあまり、トランプ氏のメッセージに対する理性的な反論がいっさい抑えられてしまう可能性を秘めている。そして、行き過ぎた言動や非常識な主張の正当化に力が与えられる。

例えば、トランプ氏から「レイプ犯」「麻薬密売人」との汚名を着せられたヒスパニック系が、ネバダ州党員集会で同氏にかなりの票を投じたという事実は、他にどのような説明がつくだろうか。

また、トランプ氏が数多くの女性を不快にさせ、性的に表現し、固定観念に当てはめているにもかかわらず、なぜ同氏が共和党を支持する女性から最も支持されている候補であるかを理解する一助となるだろう。

一部のトランプ支持者は、同氏の過激な発言について、文字通り意味するわけではないとして正当化する。同氏が大統領に選ばれれば、共和党指導部の助言に耳を貸すと考えている。

どうやらうわべだけの政策を掲げていそうなトランプ氏は、より見識のある人たちからの助言を必要とするだろう。

不思議なことに、トランプ氏にすでにその兆しが見えているようだ。アイオワ州ペラでの集会で、同氏は次のように語っている。「大統領になったら、私は生まれ変わる。何でもする。かつていなかったほど最も偏見のない人にだってなれる」。1日夜の記者会見でも、同氏は非常に礼儀正しかった。

とはいえ、トランプ氏が勝者ぶりを見せつける機会を逃すはずはない。資本主義社会において、これは物質的な富を意味する。同氏が常に口にしていることだ。「私は金持ちだ。本当の金持ちだ」と、幾度となく語る。昨年6月に大統領選への出馬を表明した際には、「金持ち」「カネ」「純資産」という言葉を、45分間で30回も口にした。自分の純資産は87億3754万ドル(約9950億円)だと言うが、一部の推計によれば、それは大いに誇張されているという。

トランプ氏はまた、ゴージャスな元モデルが妻だと有権者に常に訴える。同氏の基準でいえば、これも真の勝者の証しなのだ。

勝者を繰り返し持ち出すトランプ氏に対し、メディアや専門家は辛辣(しんらつ)な皮肉を浴びせ、笑いものにしている。だが、同氏の勝者への執着にはそれなりの道理がある。極めて効果的でなければ、そのような戦略は取らないに違いない。

トランプ氏を大統領選のレースから脱線させたいと考えるなら、同氏のこうした戦略を理解した方がいいだろう。でなければ、究極のジョークのネタにされるだろう。

*筆者は米メリーランド大学心理学部のDistinguished University Professor。同大START(テロ及びテロ対応研究コンソーシアム)のシニアリサーチャーも務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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